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29 カレンの試練


 みなさんこんにちは。ヒナタです。


 私はカレン、シャルと一緒に王都でお買い物をしています。

 どうやらカレンが新しい剣を買いたいみたいです。

 そのため私達は鍛冶屋に行くことになりました。

 カレンが言うには、王都には有名なドワーフの鍛治師であるガレットという人がいるらしいです。


「この前のゴブリンキングで剣が欠けちまったんだよ」


 カレンがボソッと呟いた。

 前回の依頼でゴブリンキングの大剣を受け止めて私を庇った時にどうやら欠けてしまったみたいだ。


「ごめんね。私のせいで。お金は私が出すから……」

「そんなこと気にすんなよ! 長い間使っていたからガタがきてたんだよ!」


 カレンは優しい女性だ。

 私の責任じゃないとずっと言ってくれていた。


「次はもっと丈夫なミスリルの剣でも買おうかな」


 カレンがそう言っていると私たちは鍛冶屋に到着した。


「いらっしゃい」


 中に入るとドワーフの人が出迎えてくれた。

 ウルレインでも短剣を買うときに鍛冶屋に入ったけど、あそこよりも品揃えが充実しているように感じる。

 さすが王都で有名な鍛治職人だと感じる。


「ガレットさん! また剣を買いに来たんだけど、そろそろミスリルの剣でも買おうかなって思ってさ」


 出迎えてくれた男性がどうやらガレットらしい。

 見た目は身長130センチくらい。小柄だが髭がすごい。

 なんか本当にドワーフって感じだ。


「おう、カレンじゃねーか。見たことのない娘もいるようだがどちらさんだ?」

「この子はヒナタだよ。あたしたちの新しいパーティーメンバーになったんだ」


 カレンから紹介されたため、私はガレットに会釈をする。


「ほう。カレンたちにも新しい仲間ができたのか。それはめでてぇな」


 この会話の内容から、どうやらカレンたちとガレットは仲が良いみたいだ。

 昔からカレンはこの鍛冶屋でお世話になっているような雰囲気。


「すごい魔法使いなんだぜ! あたしたちが足を引っ張ってるよ」

「そ、そんなことないよ!」


 カレンの発言に私は全力で否定する。

 あまりにも非常識なことをして、迷惑をかけている自覚はあるからね。


「そうなのか。ヒナタと言ったか。カレンたちをよろしく頼むな」

「は、はい。私も迷惑にならないように頑張ります」


 さて、私の紹介も終わったところでカレンが本題に入る。


「ガレットさん、ミスリルの剣ってまだ余ってる?」

「1本だけ余っているぜ。でも、おいそれと売るわけにもいかねぇ。ちゃんと使い手の実力を見てから売るようにしている。もちろんカレンも同じだ」


 購入するには意外と厳格な決まりがあるみたいだ。

 金さえ払えば誰にでも売ってあげる……なんて商売としては当たり前だと思っていたが。

 でも考えてみれば、宝の持ち腐れっていうのかな。

 剣が上等なものだと自分の実力も上がったように錯覚するかもしれない。

 それで勝てもしない魔物に挑んで死んでしまう。そんなことも考えられる。

 まあ、私は剣術なんて学ぶ気もないから安物の短剣を選んだけど。


「おう! 構わないぜ!」

「ならこっちに来い」


 ガレットに案内されてカレンは店の奥の方に行った。

 私とシャルも付いていってどんなことが行われるのか見にいった。

 店の裏にある庭に案内されて、ガレットが1本の剣と何かの鉱石を出してきた。


「ここにミスリル鉱石がある。これを鉄製の剣一振(ひとふ)りで、ミスリル鉱石を切断させることができたら合格だ」


 目の前にあるのは煉瓦状に加工されたミスリル鉱石。

 ……なるほど。これはかなりの剣術がないと難しいと思う。

 そもそもミスリル鉱石は硬い。それにも関わらず鉄製の剣で切断するなんて困難だろう。

 ……なんて考察してみたけど、私には剣術の才能はないからよく分からないんだけどね。へへ。


「なるほどな。これは難しいな」

「合格するのは剣術が相当出来上がった剣士だけだ。今までも4人くらいしか成功していない」


 カレンは鉄製の剣を握りしめミスリル鉱石に向かって剣を振り下ろした。

 ……すると、予想通り鉄製の剣がミスリル鉱石によって弾かれる。


「やっぱりか……」

「ははっ! そんな簡単なもんじゃねぇよ。時間をやるから練習してみな。今日1日で切断できるようになったら合格にしてやるからよ」


 そう言って、ガレットがお店の中へと入っていった。

 そこからカレンが真剣な顔つきになり、何度も何度もミスリル鉱石に向かって剣を振り下ろし続けた。

 しばらく経ってから汗だくになったカレンが私とシャルの方を向いて話しかけてきた。


「ヒナタにシャルは暇だろうから、どこかに行っててもいいぜ」

「え、カレンのことを応援しているよ。もし邪魔だったらいなくなるけど……」

「そうだよ。私もここでカレンを見てるよ」


 シャルも私の隣で肯定する。


「邪魔じゃないよ。ならしばらくは付き合ってくれ」

「うん。頑張って」


 その後も何度も挑戦するが、なかなか思う通りには行かない。

 でも、少しずつではあるが感覚を掴んできたようにも感じる。

 切断まではいかないが、ミスリル鉱石に亀裂が入ることもあった。

 傷んできたミスリル鉱石を何度も交換して、剣を振り続ける。




 それから数時間が経ったところで、とうとうミスリル鉱石が綺麗に切断できるようになった。

 カレンは何度も剣を振り続けていたからか汗だくだ。水分補給をしないと熱中症で倒れてしまうのではないだろうかと思ってしまう。


「出来たぜ!」

「すごいよカレン!」

「やったね!」


 ミスリル鉱石の切断に成功したカレンは急いでガレットを呼びに行く。


「よし、やってみてくれ」


 ガレットが庭にやってきて、カレンに告げた。

 カレンはさっきまでと同様にミスリル鉱石に向かって剣を振り下ろした。

 すると、まるで豆腐を切ったかのような鮮やかな切り口でミスリル鉱石が切断された。


「どうだ!」

「ふっ、合格だ。おめでとうカレン」


 カレンは両手を上げて喜んだ。私とシャルも喜びの余りハイタッチをした。


「こっちに来い。カレンにぴったりの剣があるからよ」


 ガレットがそう言って、店の中に入る。

 ガレットが準備していたのは今までカレンが使っていた剣よりも少しだけ剣幅が狭いものだった。


「これは細剣(レイピア)よりは太いが、かなり軽くて頑丈な作りだ。それに切れ味は抜群。女が使えるように作った剣だ」


 カレンが剣を持って眺めている。

 とても綺麗な剣だった。


「うん、軽いね。これなら攻撃の幅も広がりそうだよ」


 カレンも満足した顔をしている。

 カレンはお金を支払い、私たちはガレットにお礼を言って店を出た。


「カレン、お疲れさま」


 シャルがカレンに向かって労いの言葉を言った。


「2人とも付き合ってくれてありがとうな。そうだ! もう遅くなっちゃったし、酒場にでもいって夕食にしようぜ!」


 そうして、3人で酒場へと入った。

 案内された席は出入り口付近だったが、店の角だったため周りに客がいなくて落ち着いた場所だった。

 席について、つまみ用に肉や野菜を食べながら、ビールを飲んで楽しく盛り上がっていた。


「それにしても、あのガレットさんの試験は難しそうだったよね」

「あれはかなり難しかったよ。ミスリル鉱石なんて切ったことなかったから思ったよりも苦戦したな」


 カレンでも苦労したんだから相当難しいのだろう。

 でも1日でできるようになるなんて流石はカレンだと思う。

 絶対私には真似できない。

 3人で会話をしていると、遠くの席が騒がしくなっていた。


「おい! 酒はまだ来ないのか!」

「はい! 今すぐ持っていきますので!」

「遅すぎるぞ! この店を潰されたいのか!」


 どうやらクレーマーだ。

 あんなこと言って恥ずかしくないのかな。

 席が離れていてよかったよ。


「俺はミスリアド家の者だぞ! ここにいる平民の誰よりも早く持ってくるのが当然だろうが!」


 そう言って、店員の男性を殴っていた。

 本当に勘弁してほしい。

 この世界の貴族はブルガルド家以外はこんなのしかいないのかよ。


「も、申し訳ありません!」

「もういい! こんな店二度と来るか。……あ、当然この俺を怒らせたんだから、金なんか払わんぞ」


 その貴族のテーブルを見てみると、結構な量を頼み込んでいた。あれだけ食って飲んでお代は払わないって貴族として……いや、人としてどうなの?

 なんて理不尽なクソ貴族なんだ。見ているだけで吐き気がしてきそう。

 あんなのとは関わりたくないから目を逸らした方がいいかな……なんて思っていたが残念なことに私たちが座っているのは出入り口の近くの席だ。これだと嫌でもクソ貴族の視界に私達が入ってしまう。

 そして案の定、こちらに向かってクソ貴族が怒りを露わにしながらやってくる。

 私達は関わらなくて済むように3人ともクソ貴族から目を逸らしていた……が。


「おい、そこの金髪の女よ。見目がいいな。俺の愛人にしてやるからついて来い」


 シャルに向かって、クソ貴族が絡んできた。

 そしてシャルは顔がどんどん青褪める。貴族に関わると碌な目に合わないし、私達が悪くないのに勝手に罪人扱いされそうだから本当に関わりたくなかったのに……やっぱり私達が可愛すぎたのがいけなかったのか。

 え? 自意識過剰? なら私を除いておいて。


 とりあえず、ずっとクソ貴族から目を背けていたから、私はクソ貴族の顔を確認してみる。

 あれ? こいつ前に街中で子供にいちゃもんつけていた貴族じゃん。

 ケータによって逃げ出していたが、まだ懲りずにこんな横暴なことをしているのかよ。

 本当にどうしたものか……。

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