27 コリン村を救う
みなさんこんにちは。ヒナタです。
私たち4人はアンナを送り届けるために、コリン村へと向かっています。
2日の道のりでしたが、まもなく着きそうです。
「アンナちゃん、そろそろ着きそうだよ」
「うん、お姉ちゃん達ありがとう!」
村に着くと、村の入り口に男性が立っていた。
その男性を見つけると、アンナが馬車から降りて走り出した。
「パパ!」
「アンナ!」
どうやら父親だったらしい。2人は泣きながら抱き合っていた。
実際、アンナがいなくなってから2週間近く経過している。
親としては諦めたくはないが、9歳の子供がいなくなって帰ってこなかったら、諦めてしまう人も多いだろう。
私たちが、あの場所を通らなかったら、私が気配探知のスキルがなかったら、そもそもゴブリン討伐の依頼を受けなかったらアンナを助けることはできなかった。
色々な偶然が重なってアンナを助けることができた。
「あのお姉ちゃん達がね、ここまで送ってくれたの!」
馬車に乗っている私達に向けてアンナが説明する。
私たちも馬車から降りて、アンナのお父さんに挨拶をする。
「初めまして、冒険者のヒナタです。隣にいるのがカレンとシャーロットです」
「アンナを助けていただきありがとうございます」
「いえ、偶然通りかかっただけなので、気にしないでください」
アンナのお父さんは頭を深く下げていた。
「よかったら、お礼をしたいので、家まで来てください」
アンナのお母さんの状態も見たいので、快く承諾する。
「なあ、ヒナタ。アンナのお母さんの病気って治るのか? あたしも聞いたことのない症状だったけど」
カレンが声を小さくして私の耳元で囁いてきた。
あっ、そんな耳元で囁かれたらくすぐったいよ……。
「絶対治るとは言えないよ。でも私が聞いたことのある症状と似ているから、試してみるだけね。でも、経過観察のために数日はこの村に滞在はしたいんだけど。カレン達は大丈夫?」
「あたしは問題ないぜ」
「わ、私も大丈夫です!」
3人で声を小さくしながら会話をした。実際治るかはわからない。
もし治療法が違っていたら難しいかもしれない。
そうしていると、村の人たちがアンナに集まってきていた。
「アンナ! 無事だったんだな!」
「心配したんだからね!」
「お父さんなんか毎日泣いていたんだから!」
村の住民達が駆け寄ってきて、アンナに声をかけた。
笑顔の人、泣いている人、様々だ。
みんなアンナのことを心配していたんだな。
助けられて本当によかった。
アンナの家に着き、中へと入る。
奥の部屋に行くとお母さんがいた。
お母さんはかなり衰弱しており、手足の筋肉も落ちていてかなり細くなっている。
「ママ! 大丈夫?」
「あ、アンナ……? 帰ってきたのね……。最後にアンナの顔を見られてよかったわ……」
「マ、ママ!?」
お母さんはまるで、最後にアンナの顔を見たいがために頑張って生きてきような物言いだ。
このままだと本当に生きる気力を無くしてしまい、力尽きてしまう。
「アンナのお母さん、気をしっかり持ってください。私はあなたの病気を治しにきました」
「え……この病気が治るの……?」
「その病気に心当たりがあったので、それに効く治療をしたいと思います。絶対に治るともいえませんが」
すると、お母さんの目から涙が流れてきた。
「本当に治るのか!?」
後ろからはお父さんが私の肩を掴んで聞いてくる。
「絶対ではありません。そのことだけでもご理解ください」
「その言葉だけでも十分だ。可能性があるならそれに賭けたい……」
私は王都で買ってきた豚肉を取り出した。
オーク肉でも大丈夫かと思ったけど、必要な栄養素が含まれているか不明のため避ける事にした。
これを食べ続ければ治るはず。
この病名は脚気だと思う。脚気はビタミンB1不足が主な原因だ。
江戸時代に発生した病気である。元々玄米が主食として食されていたが、白米が広がったことでビタミンB1不足による脚気が流行した。白米だと胚芽部分に多いビタミンB1が精米によって取り除かれるため流行したものだったはず……。
そのためビタミンB1が豊富な豚肉を食べさせれば大丈夫なはずだ。
「これを食べてください。豚肉です」
「それを食べれば治るのか?」
「はい、これを食べ続けていただければ症状は緩和すると思います」
「そんなもので……」
全員が困惑している。でもそんなので治るのだ。
私はお母さんに焼いた豚肉を食べさせてあげる。
日本みたいにビタミン剤とかあれば楽なんだけど、この世界にあるわけない。
でも豚肉もビタミンが豊富だから大丈夫なはずだ。
「お父さん、これを毎日数回食べさせます。それとお母さんの症状の経過観察をしたいので私達は村に残りたいのですが、どこかに野営できるところはありますか?」
「そ、そんな!? 私たちの家に泊まっていってください!」
「……そ、そうですか。では、お言葉に甘えてお世話になります」
そう言って、アンナの家で泊まることになり、お母さんの経過を見ながら食事を与えた。
豚肉を焼くだけだと飽きるので、調味料を変えたりしてなるべく飽きないように工夫をした。
数日経ったところで、お母さんは少しずつではあるが元気を取り戻していった。
どうやらお母さんは肉類の食事を摂ることが少なかったみたいで、ビタミン不足になってしまったみたいだ。
「ありがとう。ヒナタさんのおかげで元気な姿でアンナを抱きしめられるわ」
「気にしないでください。たまたま知っていた症状だっただけです。これからはしっかり食事をとって、アンナちゃんを心配させないようにしてあげてください」
アンナ、お母さん、お父さんも泣いていた。
この家族がこの先も幸せであればいいな。
「それでは、お母さんも元気になってきたので私たちは明日にでもこの村を立ちたいと思います」
「そんな……。まだお礼もしていないです」
「気にしないでください。でも、どうしてもということでしたら、また私たちがこの村に来たときに泊めていただければ嬉しいです」
お礼なんかいらない。これは私がやりたくてやっただけだ。
お母さんの薬を探すために1人で森に入ってしまって、魔物に追われて死にそうになりながらも頑張って生き残ったアンナの笑顔を見たかったんだから。
私たちはコリン村最後の夜を全員で食事をしながら楽しんだ。
遅くまで騒いで疲れたので私たちが眠っていると、外から叫び声が聞こえた。
「魔物だーー!みんな逃げろーー!」
私たち3人は急いで村の外に出ると、体長5mくらいの人型の魔物がいた。
「あれは……。トロールか!」
え、トロール?
正直あんまり詳しくないんだけど。
とりあえず私はトロールに近づいて魔法を放つ。
「ロックショット!」
トロールの胸を狙った岩石弾は貫通して、血が吹き出した。
「やった!」
「ヒナタ油断するな!トロールは自然回復能力が異常に高い!」
え、そうなの。
っていうことはあれじゃ死なないってこと。
……あ、本当だ。傷がどんどん塞がっていく。
「じゃあ、どうやって倒すの!?」
「私たちじゃ難しい。火魔法を使って回復しないように燃やし尽くすか、回復が追いつかないように剣で切り刻むしかない!」
なんだ、そんなことか。
なら最後の手段は火魔法で仕留めることにしよう。
正直まだカレンにもシャルにも火魔法が使えることは秘密にしている。
「わかった! なら2人は下がってて。私が倒す!」
威勢よくカレンとシャルに向かって叫んだ。
カレンの剣で切り刻んで死んじゃったら、強奪スキルが使えないかもしれないしね。
それに燃やし尽くすのなんて論外だ。
こういう時は、新しくレベルが上がった水魔法で仕留めるのだ!
「ブリザード!」
氷結よりも上位の魔法で、あたり一面に雪の嵐を吹かせて凍結させる魔法だ。
その名も氷結嵐。
これでいくらトロールでも死ぬだろう。そして傷をつけさせることもない。
しかし私が思ったよりも魔力を込めたせいか、想像以上に周囲が凍結してしまった。
「あ、やってしまった……」
後ろを振り返ると、カレンもシャルも呆れた表情をしている。
村には影響がないが、あたり一面に広がる木々が凍っている。
「ヒナタ?」
「ごめんなさい!」
私は全力で土下座をした。
決してわざとではないんです。
少しはどのくらいの威力が出るかな、なんて好奇心で魔力を込めましたが、ここまでの被害は想定していませんでした。
やっぱり1回は試しに練習したほうがよかった。
「とりあえず……。村の人に謝るか。あたしもシャルも付き合うからさ」
「うぅ……」
もう泣きそうだよ。そんな冷たい目で見ないで、悲しくなるから。
私たちは、村長のところに行き、トロールは討伐できたけど、その時に行使した魔法で森が凍ってしまいました。ごめんなさいと謝り、村長がその場所を確認しに行く。
「ま、まぁ、あなた方がいなければ、私たちの村に被害があったので森でしたら大丈夫ですよ」
なんとなく気を遣っているのが分かる。
村長とカレン、シャルが村に戻ったのを確認すると、私はトロールのそばに行った。
気配探知で死んでいるのを再度確認してから、凍結したトロールの一部分を火魔法で溶かして強奪を使った。
名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :178/178(+2)
MP :253/323(+1)
スキル:水魔法LV7
風魔法LV7
火魔法LV5
土魔法LV7
無限収納
威圧LV4
毒霧LV1
毒耐性LV3
麻痺耐性LV2
気配察知LV5
気配遮断LV4
隠密LV5
発情LV2
遠視LV4
気配探知LV4(+1)
自然回復LV4
ユニークスキル:強奪
やった。自然回復が手に入った。
これで、多少怪我をしても安心だね。
トロールの能力を聞いてもしやと思って、傷を付けずに討伐したからね。
苦労した甲斐があったよ。
……そんな苦労はしてないか。
それより素材はどうしようかな……。
このトロールは私の水魔法によって氷漬けにしてしまった。
でもトロール討伐の依頼を受けた訳でもないし、このキンキンに冷えたトロールを冒険者ギルドに持って行って目立つのも嫌だし、冒険者ギルドで換金するために火魔法で解凍するのも時間が掛かるし……。
解凍途中でカレン達に火魔法が使えることをバレたくないんだよね……。
すでにカレン達は私が風、土、水魔法が使えることを知っているわけで、さらに火魔法も使えることが分かると私の立場が……。賢者とか呼ばれても困るんだよね。
フィリップから借りた本では5属性の魔法を使えた人が大賢者とか呼ばれていたしね。
……よし。証拠隠滅をしよう。私の平和のために。
とういう訳で、凍結したトロールに巨大な岩石弾を放ち粉々にした。
私は村に戻り、アンナにトロールを討伐したことを褒められたが、後ろめたいこともあったので、引き攣った笑顔になってしまった。
「あのトロールが私を追いかけてきた魔物だよ……」
どうやら、アンナが逃げていた魔物はあのトロールだったらしい。
あんな魔物がこの村の近くにいたなんて……。
私たちがこの村にいるときに出てきてよかった。
よし、疲れたから寝よう。
明日からは王都に帰れる。
王都に帰ったらしばらくは休みたいものだ。




