26 少女を拾う
みなさんおはようございます。ヒナタです。
本日はアミット村の村長の家で起床しました。
昨晩は村の見目がいい男達が群がってきて私達にアピールをしてきた。
普段、力仕事が多いおかげか筋肉自慢をしてきたり、直接「結婚を前提にお付き合いをしてください」とか言ってくる男もいた。
私は全く興味がないので、適当にあしらっていたがシャルだけは戸惑っていた。
あまり男性からの好意に慣れていないようで、どう対応していいか分からず焦っていたシャルを見るのは楽しかった。
ちなみに一番モテモテだったのはカレンだ。
カレンは男達に言い寄られて面倒になったのか「あたしに剣術で勝てたら結婚してやるよ!」とか言い出し、村の男達とタイマンで勝負をしていた。
……もちろん村の男達ではカレンには敵わない。誰1人としてカレンの身体に木剣を触れさせることはできなかった。
とまあ、こんな感じで昨晩はいい余興も見れたし、とても楽しい夜でした。
起床した私はカレンとシャルを起こした後、村長に挨拶すると村長の奥さんが朝食を準備してくれていました。
「みなさん、どうぞ召し上がってください」
奥さんから出された朝食を見て私は驚愕した。
目の前にはパンの上にベーコン、目玉焼きそしてチーズがのっていたのだ。
「これは……チーズですか?」
「おや、チーズを知っているんですか」
こんなところにチーズがあるとは。ぜひ欲しい。
「この村では牛を飼育していますので、牛乳だけでなくチーズも作っているんですよ」
これで前世から大好きなチーズハンバーグの夢が叶う。
「このチーズ余っていたら売ってくれませんか?」
「えぇ、構いませんよ」
よし、これでチーズゲットだぜ。
これで少しは私の料理の幅も広がるな。
チーズをたくさん売ってもらい私たちはアミット村を後にした。
「それにしてもヒナタ。あのチーズ? あたしは初めて見たけどなんで知ってたんだ」
カレンの予想外の問いに戸惑う。
なんでって前世で知っているからね。
「えっと……私の故郷で食べられていたんだよ」
「ふーん」
あまり私のことを詮索はしてほしくないので話を変えよう。
「折角だから、今日はチーズを使った料理を作るよ」
「それは楽しみだな!」
今日の夕食でチーズハンバーグを出してあげよう。
私は御者をしながら今日の夕食を楽しみにしていた。
シャルに教えてもらって私も御者ができるようになったのだ。
しばらく進んで日も傾いてきたのでそろそろ野営の準備をしようと、馬車を止めようとしたが、森の中に気配探知が反応した。
こちらに敵意がないが人がいるみたいだ。
頭の中のマップで見るとその反応は全く動かない。
気になるから見に行ったほうがいいかな。
「カレン、シャル。この森の中に人の気配があるから、少し見てくるね」
「え、危険じゃないか。あたしもついていくよ」
「そう? なら、シャルはここで待機してて」
カレンが同行することになった。
私とカレンで森の中に行き、反応がある場所に辿り着くと、そこには8歳くらいの少女が寝ていた。
私とカレンはすぐに駆け寄り、少女に話しかけた。
「「大丈夫!?」」
「う…うぅ……」
反応が薄い。
かなり衰弱しているように見える。
私は少女を担ぎ、馬車まで戻った。
「どうしたんですかその女の子は?!」
「わからない。森の中で倒れていたんだ」
とりあえず保護して、どうして森の中で寝ていたのか確認しないといけない。
私達は街道から外れてマイホームを設置できる場所を探してから、馬車を移動させ、人目がつかない所にマイホームを設置した。
すぐに少女を布団に寝かせて、交代で看病することになった。
最初はシャルが看病している間に私は夕食の準備に取り掛かり、カレンはお風呂に入ってもらった。
チーズハンバーグを少女の分も含めて作り、急いで夕食を摂る。
お風呂から上がってきたカレンも夕食を食べ始め、先に食べ終えた私が今度は看病の番になった。
この間にシャルにはお風呂に入ってもらう。
私が少女の状態を確認すると、少女は痩せ細り、服もボロボロだ。
何日も森の中に1人でいたような感じがする。
あそこで寝ていたのは多分、疲労だとは思うがかなり心配だ。
「ヒナタ、お風呂に入ってきな」
カレンが部屋に入ってくる。カレンも夕食を食べ終えたようだ。
私はお風呂に入るが、どうも少女が心配でゆっくりできない。
少女が何か酷い目にあって逃げてきたのではないか、親に捨てられて森を彷徨っていたのではないか、など悪い予想をしてしまう。
この世界では人の命は軽い。
魔物がいて襲われる恐怖もあるし、人攫いや人殺しも私の知らないところでは頻繁にある。
そんな世界だからこそ、小さな女の子が森の中で1人でいるのは悪い予感しかしないのだ。
あまりに落ち着かないので、お風呂から上がる。すると……。
「ヒナタ! 女の子が目を覚ましたぞ!」
どうやら、少女が目を覚ましたようだ。
私は急いで服を着て寝室に向かい、少女の容態を確認した。
「大丈夫? あなたが森の中で倒れていたからここまで運んだんだけど、気分とか悪くない?」
少女は衰弱しているせいか、あまり反応しない。
徐々に状況を察してきたのか、私たちの顔を見て話そうとするが。
ぐうぅぅぅぅぅ……
話す前にお腹がなった。
私は微笑みながらチーズハンバーグを食べさせてあげた。
「おいしい……」
「よかった。あなたのお名前は?」
「……アンナ。9歳」
「そう、私はヒナタ。後ろにいる赤髪のお姉ちゃんはカレン、金髪のお姉ちゃんはシャーロットっていうの。それで、アンナちゃんはどうして森の中で倒れていたの?」
ようやく本題に入れそうだ。
内容によってはこの少女を保護しなくてはいけないし、ただ道に迷っただけなら家に返してあげたい。
「わ、私のお母さんが病気で……。それで、薬草を探しに森に入ったんだけど、魔物に襲われて逃げてきたの。でも、帰り道がわからなくなって……」
よかった。思ったほどの深刻な内容じゃない。
いや、深刻ではあるけど、私の想定していた予想よりかはまだマシだ。
これなら、村に送り届ければ大丈夫そうだ。
「そっか。でも、今日はもう遅いから、明日にでも村に連れて行ってあげるよ。だから今日はゆっくり休んで」
「……本当に? お姉ちゃんたち、ありがとう」
夕食を食べて少しは元気になったアンナを連れてお風呂に入れてあげた。
「ねぇ、ここってヒナタお姉ちゃんの家なの? どこの街にいるの?」
そうだよね。普通森の中にこんな立派な家があるとは思わないよね。
「ここは森の中だよ。私の魔法で作った家なの」
「そうなの!? ヒナタお姉ちゃんすごい!!!」
子供だからかすんなり信じてくれた。
よかった。疑われて質問攻めにされても面倒だし。
アンナは初めてお風呂に入ったらしく、すごく気持ちよさそうだ。
私もさっきはアンナの心配でゆっくりできなかったから丁度いい。
お風呂から上がると、アンナが眠そうにしていたので、ベットに連れて行き、私たちも眠った。
翌朝目覚めて、4人で朝食を取りながら、アンナの村について聞く。
「アンナちゃんの住んでいる村ってなんて名前なの?」
「えーと、確かコリン村だったかな」
「ふーん、カレンとシャルは知ってる?」
「「知らない」」
これは大変だ。
どうやって調べようか。
王都に戻れば分かるものなのかな。
「王都に行けば、分かるものなの?」
「冒険者ギルドに行けば分かると思うよ」
なら一度王都に戻るのもいいかもしれない。
でもそれだと時間もかかるし、何よりアンナのお母さんの病気も気になる。
「なら私だけ王都に行くよ。飛行魔法使えばすぐ着くしね」
「「確かに」」
アンナはきょとんとしていたが2人は納得してくれた。
「そういえばアンナちゃんのお母さんの病気は薬草で治るの?」
「わからない。村の人たちにも見たことない症状だって……」
「どんな症状なのかな?」
もしかしたら私の前世の知識で分かる病気かもしれない。
この世界特有の病気ならお手上げだけど。
「う〜ん。なんか手足が痺れたり、どんどん痩せていっちゃって、立ち上がることもできなくなっているの」
……私が知っていそうな症状だ。
もしかしたら時間をかければ治るかもしれない。
でも期待させるのも悪いしな。
「そっか。王都に行って、薬師の人にでも聞いてみるよ」
「本当に! ありがとうヒナタお姉ちゃん!」
私は飛行魔法ですぐに王都に向かった。
さすが飛行魔法だと早い。2時間程度飛んでいたらもう王都が見えてきた。
すぐに冒険者ギルドに入り、何人かの冒険者がこちらを見ていたが無視だ無視。
前回カレンが私のことを話したせいで少しだけ有名になってしまった。
周囲のことは気にせずに、受付にコリン村について情報を聞く。
地図を確認すると、マイホームから馬車で2日くらいの場所だ。
私は地図をもらい、アンナのお母さんの病気を治すためにすぐに薬師……ではなく、精肉店に向かった。
そこで必要なものを買って、王都を出て、マイホームに戻る。
往復で5時間程度か。みんなが飛行魔法を覚えれば、革命が起きそうだ。
「ただいまー」
「え、早いよヒナタ!」
そりゃ驚くよね。私もそうだもん。
誰がここから馬車で往復2日かかる道のりを5時間で帰ってくるんだよ。
「ごめんね。アンナのお母さんのことも心配だから、すぐに出発しよう」
4人で急いで馬車に乗って出発した。
アンナのお母さんの病状が私の想像している病気であることを祈ってコリン村へと向かった。




