21 王都でお買い物
みなさんおはようございます。ヒナタです。
今日の目覚めはサーシャに抱きしめられながらの起床でした。
今日はいいことがありそうです。
起きた後は使用人さんから朝食ができているということでみんなで朝食を食べました。
やっぱり貴族の家だから朝からとても豪勢な食事でした。
普段はあまり朝から食べない主義なのですが、折角用意して頂いた食事のため残すのも申し訳ないと感じ、頑張って全部食べました。
しかし、後からサーシャからコソッと聞いたのですが、残った食事は使用人の皆さんの朝食にもなるそうです。
……本当にごめんなさい。だから朝食を頑張って食べている私を見て使用人の人がひそひそ話していたのか。
次回は同じ失態はしないようにします。
そして朝食を食べ終わると、ミレイはそそくさと学園に行くため馬車で屋敷を出発した。
私も冒険者ギルドで依頼完了報告をしないといけないので、ユリアとサーシャにお礼を言ってから冒険者ギルドに向かった。
それにしても王都は人も多いし、建物も高くて道に迷う。
前世で初めて東京に行った時を思い出すよ。
それにウルレインと違って住民の服も少し違う。
違うと言っても服の素材が違うということ。
少し高そうな布で作っているような、頑丈な作りをしている。
そういえば、私は前世が男だったこともあり、ずっと動きやすいようにパンツスタイルだったけど、スカートを履いてみるのもいいかもしれない。
少しは女性らしい格好をするのも悪くないよね。
周りを見渡しながら歩いていると、冒険者ギルドに到着した。さすが王都、冒険者ギルドも大きい。
中に入ると3階建ての吹き抜け構造で、真ん中には螺旋階段がある。おしゃれな建物だ。
私は受付に行き、護衛依頼の完了報告をする。
「ウルレインから王都までのブルガルド家の護衛依頼の完了報告に来たんだけど」
「はい、確認しますのでお待ちください。…………はい、確認できました。報酬はギルドカードに振り込みますか?」
「うん、それでお願い」
私は受付のお姉さんにギルドカードを差し出す。
「はい、お預かりします……ってBランクですか! お若いのにすごいですね」
私の年齢でBランクって珍しいんだね。
ウルレインにもBランクの人ってカレンとシャーロットくらいしか知らないしね。
振り込みの処理が終わった受付のお姉さんは私にギルドカードを返してきた。
「王都は初めてですか?」
「うん。これから少し探索をしようと思っているよ」
「そうなんですね! 王都にはいろんなお店があるので楽しんできてください!」
私はお礼を言って冒険者ギルドから出る。何もトラブルにならなくて良かった。
変なことを考えたらフラグになると思って黙っていたからね。
それに完全に気配を消していたから、誰にも絡まれずに済んだ。
冒険者ギルドを出た後は市場に行き、食材の調達に行く。
さまざまな野菜が売っている商店があったので行ってみる。
そこにはニンジン、ピーマン、ジャガイモ、白菜、キャベツなどなど。
前世から知っている野菜が多い。
どれも好きな野菜だ。
料理が捗りそうだな。
でも私が一番好きなのは茄子だけどね。変わっているかな?
麻婆茄子とかめっちゃ好きだったんだよね。
それに茄子の素揚げとかお浸しとかよく自分で作って食べていたよ。
でもその大好きな茄子が見当たらない。
少し残念だ。
私はありったけの野菜を購入して無限収納に仕舞い込む。
その後は野菜の他に調味料を買って満足げに市場を出た。
「よし、次はゲイル商会に行ってみよう」
王都に来る前に助けた商会長さんのお店だ。
格安で売ってくれるって言ってたもんね。
何があるか楽しみだ。
「あの、冒険者のヒナタって言いますけど、ゲイルさんいますか」
私はゲイル商会の受付にやってきた。
受付嬢の方がきょとんとした顔をしていたが、思い出したかのように答えてくれた。
「あ! ヒナタ様ですね。商会長から話は聞いています。商会長をお呼びしますので、少々お待ちください」
私は待っている間、商会の中を見て回る。
特に日用品が売っている場所は興味を唆られる。
料理で使うような鍋とかフライパン、綺麗なお皿もあるので是非買いたい。
「あ、ヒナタ様! お待ちしておりました」
後方からゲイルに声をかけられた。
私はゲイルに挨拶をする。
「こんにちは、ゲイルさん。お言葉に甘えて来てしまいました」
「いえいえ、来ていただいて良かったです。おや、ヒナタ様はお料理とかをご自分でされるのですか?」
「はい、野営をするときなどは自分で料理をしています」
「そうですか。でしたら、それらの品でおすすめの商品がございますので、こちらにお越しください」
私はゲイルに案内され、魔道具売り場に来た。
「こちらの魔道具は火の魔石を内蔵させた魔道具で、この板に鍋やフライパンを乗せてここのスイッチを押すと温めてくれます」
なんと。これはIHではないか。
すごく便利だ。こういうのが欲しかったんだよ。
「これはすごいですね! こういうのを探していたんですよ!」
「それは良かったです。内蔵された魔石は大体10年くらいは持つと思いますが、万が一魔石の効果が切れても、当商会で扱っていますので問題ありません」
「……買います!」
ほぼ即決だよね。
これを無限収納に入れておけば、野営の時にかなり便利だ。
「ありがとうございます。さらにこちらには氷の魔石を内蔵させた食材保管用の魔道具もございます」
冷蔵庫だな。
んー、便利なものではあるが、無限収納に入れておけば特に問題がないためあまり必要性を感じない。
「すごく便利そうですが、似たようなものを持っていますので……」
少しごまかす。
スキルで収納系のもの持っていると知られるわけにはいかない。
「そ、そうでしたか。でしたら、こちらの光の魔石を内蔵させた料理を温める魔道具はどうでしょう」
電子レンジだな。これはいいかもしれない。
食事中に魔物に襲われてその間に冷めちゃうかもしれない。
これは念の為買っておいても損はないだろう。
「これはいいですね。買います」
結構いい買い物したんじゃない?
料理の幅も広がりそうだから王都に来て良かったよ。
私はIHと電子レンジを格安で購入した後、ゲイルにお礼を言ってから婦人服売り場に向かった。
スカートも見てみたかったし、新しい下着も欲しい。
婦人服売り場に行くとワンピースが売っていた。
水色で統一されたものだがすごく可愛い。
そういえば前世の彼女がこういうワンピースを着て来た時はドキッとしたな。多分私はワンピースが好きなんだろう。
悩むことなくワンピースを買った私は、次にスカートを見に行く。
すごいフリフリのやつもあるが、あれは短すぎる。あれじゃ、下着が見えちゃう。
できれば膝くらいまで丈があるものがいい。
そうして見ていると、黒のミディスカートを見つけた。
こういうのが欲しかったんだよ。
短すぎず、動きやすいからね。
それにこれを着ていれば大人の女性と思われるかもしれない。
さて、次は下着だ。
今までは上下バラバラの下着を着ていたため、そろそろ統一したものが欲しい。
下着売り場に来てみると、日本に比べたら透けているようなセクシーなものは少ない。
そういう技術はこの世界ではないのかもしれない。
でも、紐パンはある。あれは絶対履きたくない。何も隠せていないよ。
勝負下着としてはいいかもしれないけど、残念ながら私が勝負することはないからね。
……待てよ。サーシャと万が一があるか……。
うん、ないよね、ごめんなさい。
色々考えたけど、ごく普通の白の下着と黒の下着を2着ずつ購入しました。
よし、大体回りたいところは回ったかな。
そろそろ宿でもとりに行くか。
いい宿がないか探していると、住民が何やら騒いでいる。
近くの男性に聞いてみると、どうやら貴族の息子に小さい女の子がぶつかったらしくて、揉めているらしい。
「おい! 貴様、この私にぶつかるとは何事だ!」
「ご、ごめんなさい。わざとじゃないんです」
あー、よくあるわがままな貴族の息子ね。
前世の漫画でもよくあるシチュエーションだけど本当に嫌いなんだよね。
なんで貴族の子供だからって自分が偉いって勘違いしているんだろう。
お前が何か住民のために名誉でも残したのかよ。
偉いのは、お前の直系尊属だと思うぞ。
「貴様のせいで、私の服が汚れたではないか! どうしてくれるんだ」
そう言いながら、土下座している子供の頭を蹴った。
まだ見た目は12歳くらいの女の子に対してあの態度はあまりにも酷すぎる。
「いたっ……。ごめんなさい! 許してください!」
女の子は必死に頭を下げて謝罪していた。
……もう見てられない。助けてあげないと。
そう思って、私が人を掻き分けて前に出ようとすると、1人の青年が子供の前に立った。
「な、なんだ貴様は」
「この子もわざとやったわけじゃないんだから、許してやってくれないか。さすがに暴力まで振るっておいて、権力を振り立てるのも良くないと思うが」
「うるさいぞ、貴様! 私はミスリアド侯爵家の次期当主だぞ! お前みたいなやつ俺の手ですぐに消すことだってできるんだぞ!」
「なるほど。君のその発言はミスリアド侯爵家の考え方ということだね。こんな公衆の面前でそんな発言をするなんて、ミスリアド侯爵家に泥を塗っているのは自覚しているのかな」
おお言うねえ! あの青年には好感が持てるよ!
あのバカ息子の顔も青くなっているよ。よくやった。
「くそっ、覚えてろよ!」
護衛の騎士に耳打ちされた後、取り乱したバカ息子は負け惜しみの捨て台詞を言って去っていった。
あんなセリフ言うのは漫画だけの世界だと思っていたけど、実際に聞くと面白いね。
「あの人は最近有名な冒険者だな」
私の隣にいた男性が気になることを呟いた。
「え、そうなんですか?」
私もつい聞いてしまった。そんな有名な冒険者なら情報は得ておきたいよね。何よりいい人そうだし。
「あぁ、3ヶ月前に冒険者登録をしたばかりなのに、史上最速でSランクまで上り詰めた冒険者だよ」
え、本当に! それはすごすぎるだろ。どうやってSランクになるのかは分からないけど、相当すごいんだよね。しかもいい人そうだし、仲良くしても損はないよね。
「そうだったんですね。情報ありがとうございます」
そんな会話をしていると、Sランク冒険者は蹴られた女の子の介抱をしていた。
「大丈夫かい?」
「はい……。助けてくれてありがとうございます」
「お家に1人で帰れる?」
「はい、大丈夫です」
私がそんな姿をみていると、そのSランク冒険者が私の方に向かってきた。え、私何かしたかな。
「君も助けに入ろうとしていたけど、俺が先に入っちゃってごめんね」
なんだ、そんなことか。私が助けようとしていたことに気がついていたのか。さすがSランク冒険者だ。
「い、いえ! 私が助けに行っていたら、もっと大変なことになっていたかもしれないのでありがとうございます」
「はは、そうか。俺は冒険者のケータだ。一応ランクはSだ」
「私は、Bランク冒険者のヒナタです」
「ならいつか、冒険者ギルドで会うかもしれないな。その時はよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言うと、ケータは去っていった。いい人だったな。強いだけでなく人間性も良いなんてなかなかいないよ。
あ、そうだ。どこかのバカ息子のせいで宿のことを忘れていた。急がないと!
この好青年であるケータとの出会いが、この先残酷な結末を迎えるとは、この時の私は想像もしていなかったのであった───。




