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スカイ2271  作者: 高峰 玲
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act.6 PRAISE




 〈ペンテシレイア〉は地球連合宇宙軍第5艦隊所属のミドル級宇宙空母で、緑のアマゾーヌと異名をとるテル・アマ=レリ大佐が艦長である。貴公子の白きペガススとも呼ばれるミルドレッド中将の第5艦隊の中でこの艦だけが地のメタルグレイに蛍光マラカイトのマーブルを入れている。その潔さにも似た、譲らぬ自己主張がなぜかあたしは好きだ。レリ大佐に、伝説のアマゾンの女王の面影を重ねて見ているせいかもしれない。

 シャトルで〈ペンテシレイア〉に上がってすぐにあたしたちは──つまり、スカイチームは──ブリーフィングルームに集められた。まもなく開始される大気圏突入に関する綿密な説明と、提督の訓示を受けるためだ。


「──〈SKY2271〉がデルタ翼として開発された目的は真にその点にあり、大小の差はあっても基本的にはシャトルによる突入と変わりありません」

 正面のスクリーンの前まで出て、コンピュータが創ったグラフィックを応用しつつ懇切丁寧に教えてくれるのは〈ペンテシレイア〉の作戦参謀将校どのである。あまりあたし好みの顔立ち(美女)ではないのだが、軍規すれすれのミニに仕立てられたスカートからすんなりのびた脚は、なかなかいい。熱心に彼女を見つめるスカイチームの面々が何を考えているか、いささか邪推してしまうのだが。

「少なくとも、突入角度は三十度をキープしてください。耐熱タイルは従来のものより高性能ですが、摩擦熱を完璧に緩衝できるほどではないからです。それから、アーマーの脱落は大紅海(グレイトレッドシー)上において機を引き起こす直前には完了させること。でないと落下するアーマーとスカイが接触する危険があります」

 いちいちもっともだと、あたしはうなずきながら聞いていた。生命をかけて何かをするときには多少くどかろうと要所はおさえとくもんだ。

「また、パイロットのかたがたはブラックアウトした場合もあわてず、冷静に機を維持するよう努めていただきたいと思います。幸いにしてテスト飛行である現時点では、言うまでもなく迎撃されることはないのですから」

 それが彼女流のジョークだとわかったのは居並ぶ〈ペンテシレイア〉の幹部連中がそろって相好をくずしたからだ。その上座で腕組みして聞いていた提督は、真顔のままであたしたちを見つめていた。王侯貴族の肖像画めいた凛とした面差しはいっそ無表情なまでに彼の内心を鎧っているのだが、ふと目が合った一瞬、提督が微笑んだように思った。

「では次に、ミルドレッド中将閣下より訓示をいただく!」

 場を仕切っている作戦室長の声に応えて提督が立ち上がり、ゆっくりとした足取りでミニの彼女が譲った演台に向かう。室長の号令を待つまでもなく、あたしたちは起立して背筋をのばす。提督が軽く手を上げたので、それから休めの姿勢をとる。

「諸君」

 第一声で、提督がスカイ計画の成功を誰よりも確信していることが感じられた。おちついた冴えざえとした声音にはあたしたちスカイチームへの絶対の信頼が溶け込んでいる。

「飛びたまえ。十二名にものぼる貴い人命と試作機を含めて三十一の機体、数多くの犠牲のはてに〈SKY2271〉は完成するだろう。そして諸君が惑星ザキヤの大気に再びまみえたときに、我々の新たな挑戦が始まるのだ」

 おそらくは、まだ地球連合附属治安維持軍宇宙部少将だった──スカイ開発計画が立案された頃から、提督の頭の中ではいまのこの情景(とき)が見えていたのではなかろうか。ひとごろしの機械ではなく、そらを制する王者としての翼をつくりだす喜びと、自信……この至上のときが。

 平和を乗せて飛ぶ翼としての〈SKY2271〉を、あたしたちは世に知らしめるのだ。

「パイロットであり、リオである諸君には〈SKY2271〉はそらを駆ける翼であって戦略的価値など皆無であろうと、思う。それでいい。そらを愛する一員として、ザキヤへ降りてくれたまえ」

 あたしは愕然としながら、提督を見つめた。

 なんてことだ! 地球連合宇宙軍の、一個艦隊を預かる身のおかたが……軍事目的を無視して計画を完了させろだなんて?

 かつて見たことがないほど満足気に、アーサー・ミルドレッド中将は笑んでいる。優雅な貴公子は、一転して王将の風格をその身にまとった。妙に男くさく、それでいて気品が高い。

 誰からともなく、姿勢を正して敬礼で提督の言葉に応えはじめた。さざなみのように踵を合わす音が走る。

 提督の真実に、スカイチームは同じく真実をもって応えると誓ったのだ。男と男の約束だ。そして女の身のあたしは、誰よりも優美だと思えるように敬礼をした。女だからこそ価値のある特上の微笑を浮かべて。

 あたしの姿を認め、提督はうなずく。

 もしもいまが大昔の戦乱の世で──バーラタ戦争やら、十字軍の遠征やら、ばら戦争やらの時代だったならば、あたしは剣を持ってこのひとの麾下に馳せ参じただろう。

 血が騒ぐ。そしてあたしは、いまだからこそ、パイロットとして飛ぶのだ、提督のために。スカイ計画を現実のものとするために。リオのためにそれから、あたし自身のために!


「未来のために飛びたまえ」


 おだやかに提督は締めくくった。

「「「Yo〜!」」」

「「「Yes,sir!」」」

 静かすぎるほどのその言葉に、男たちは叫んだ。

 あつい。

 何かが、動きはじめていた。

 想いをかなえようとする人間のエネルギーはまったくすごい。理屈じゃないのだ。

 熱気の中で、提督は再び席についた。ミニの中尉が上蓋に丸い穴の空いた箱を演台に運んできた。抽選箱だ。これで番号札か何かをひいて突入する順を決めろということだろうが、言い出しっぺはアステルじいさんあたりか?

 何となく周囲に緊張感が広がった。()からこれこれの順番で大気圏へ突入せよ、と下知されるよりはよっぽどフェアな方法だが、誰からひくかその順をまず決める必要がある。

 スカイチームは六組、階級の高い順からいってもレディファーストからいっても、“エテルナ・ラバウル中佐”に最初にその権利が与えられてしまうとあたしは見た。だけどそれではフェアとはいえない!

 無言のうちにあたしに先を譲るまなざしの中で、ビリーの目線を捉える。やってよね、という気持ちをこめたガンつけに、彼は応えてくれた。

「じゃあさ、まずはパイロットで予備抽選というか、くじをひく順番を決めようぜ」

 全員がほっと息をつくように、少し空気がゆるむ。

 ビリーと同年代のパイロット、“S-9”のハルが自慢の低音(バス)で問いかけた。

「くじはリオにひかせるのか?」

「パイロットが大気圏につっこむんだ。くじくらいリオにひかすのが筋ってもんだろ」

「なるほど」

 驚いたことにビリーとはある種の敵対関係にあるらしいはずの、イプシロンがうなずいて一歩前に出た。

「道理だ」

 “W-8”のピーチマンと“A-7”のポインターも賛成のようだ。むろん、あたしにも異存はない。

「よかろう」

 ハルも大きくうなずいた。

「では……」

 演台の前にあけたスペースにじりじりと集まり、パイロット六人で円を作った。成りゆきのうえでビリー・スミスが合図する。

「あとだしな〜しのジャンケン、ほいっ!」

 条件反射としかいいようのない素早さであたしは右手を振り出した。

 むむむっ。パーがふたり、チョキが四人。あとは二手に別れてのブービィ決定戦と首位争いだ。

 あたしは後者の組だった。ビリーとイプシロンとポインターが相手だ。どことなく逃げ腰のポインターを気迫で凌駕したものの、やたらと刃物(チョキ)を出す癖を見抜かれたために三番手になってしまった。

 意気揚々と一番手の権利を与えられたベラドンナが番号札をひく。正方形のメタルチップを覆っていたシールをはがして、作戦参謀将校はそこに書かれている数字を読みあげた。

「六番!」

「そいつぁねぇぜ女神さま……」

 声を荒らげなかっただけに、ベラドンナのヘタれたつぶやきは切実なものだった。

「なンだ、女神なんぞに祈ってたのかよ」

 あたしの方に意味深な視線を投げかけながら、リオの背中を軽くどついてイプシロンは出口に向かった。自分たちの順番は決まったのだ、誰が()()()()()()になろうと知ったこっちゃないということだ。殿(しんがり)とはいえ即座にスタンバイに入る気構えで、あたしは彼らのことをかなり見直した。

 次いでビリーのリオのマーブルが札を選び出した。

「……二番」

 偶然にしてもボーヤはなかなかくじをひくセンスを持ち合わせていると思った。

 先の二組のペアに同情しつつもあたしは内心ほくそえんでいた。まだチャンスはある! 確率は六分の一から四分の一になった。

 やや不安げな視線を一度だけあたしにくれて、我がリオどのは抽選箱に挑んだ。何となくあたしは()()から目線を外す。提督が立ち上がったのが見えた。

「! いっ一番っ!」

 脚線美の中尉の声でブリーフィングルームが再び沸いた。周り中からあたしはバシバシたたかれた。もちろん、ジェードもだ。

 歓声に背を向けて提督は出てゆく。

「……中佐」

 すぐさまそのあとを追おうとしたあたしをジェードの消え入りそうなつぶやきがひきとめた。貧血でもおこしているみたいに彼は青ざめている。やだ、ちょっとあんたってばビビってんの?

「なに情けないカオしてんの」

 威圧しないよう不敵にならないよう、ただの笑顔であたしは奴の顔をぺしゃりと撫でた。人前でなかったらあんたは偉いと褒めまくってるぞ、きっと。

 だが、望外の大役を引き当てた男はその重みに耐えかねてるみたいだ。スパルタママだのサディストだのと呼ばれてまで築きあげようとした信頼が、一気に凍結したような気がした。

 やばいかもしれない。

 ほんの一片だけ、不安が胸中をかすめた。それを巧みに押し隠すべく、微笑む。それから、ドライブに誘われたときの身だしなみレベルの問題をしれっと口にした。

「先に行っててくれる? あたし、髪をきちんとしてきたいのよ」

 もっとも、これは本心でもある。いつもと違って、わずかのあいだだが宇宙空間を飛ぶため今日はフルフェイスのヘルメットをかぶる。しかもフライトスーツの上に簡易宇宙服を重ね着するのだ。よっぽどきつく編まないと腰まであるあたしの髪は収まらない。

「……どうぞ」

 ややあって応えて、ジェードは唇をかみしめた。

 ナーヴァスな感情に寄り添ってくれないなんて、所詮はあなたも他人だ、とその目があたしを責めている。このばかったれのすっとこどっこい!

 あたしが女性でよかったと言ったのはどこのどいつだ?

 相方が女性だから自分は男になろうと決めたんだったら、甘ったれるんじゃねぇっ!

 それっきりで振り返ってやらなかった。奴が一番を()()()()()責任があたしに無きにしもあらずではあったが、満足するような慰めを与えないからといって責められるいわれは、ない。

 ブリーフィングルームから出ると、すでにミルドレッド中将の姿は通路に見あたらなかった。代わりに、大柄な女性を発見する。

「ようこそ、エテルナ・ラバウル!」

 女丈夫は歩み寄ってきてあたしを抱きしめた。〈ペンテシレイア〉のレリ艦長である。

 あたしの四代前には撃墜王の名は彼女に冠せられていたというが、そらから降りた緑のアマゾーヌは現役パイロットたちのよき相談役であり、指導者でもある。彼女とクラウディアの黄金コンビによっていまの宇宙軍の指揮官パイロットたちは鍛えられたのだ。

「お久しぶりです、大佐」

 そのみごとなプラチナブロンドは乗艦と同じく蛍光マラカイトでマーブリングしてある。形よくブローされた髪が頬に当たるのをこそばゆく感じながら言うと、抱擁を解いて彼女は笑った。

「あなた、相変わらずね。一番手だというのに気負ってさえいない」

「緊張はしていますよ。だけどあのくじ、なんか……いんちきくさかったと思うんですが?」

 提督にぶつけるつもりだった質問を大佐にしてみた。猫科の獣を思わせるレリ艦長の緑の目がすうっと細くなる。

「くさいんじゃなくて、正真正銘のいんちきだったのよ」

 ぜんぜん悪びれずに艦長は言った。

「まさか、提督が?」

 昨夜のアステルじいさんの悪だくみみたいなものを、提督の微笑の意味として思い起こして訊く。

「あの貴公子がそんなことするわけないじゃない」

 テル・アマ=レリ大佐の忠誠心は、かつて彼女が副官として仕えていたクラウディア・ヴィクトリア・ミルドレッド准将ただひとりに捧げられている。たとえそのご夫君とはいえ、遠慮なく大佐は吹き出した。

「もちろん、ご老体でもないわ。これはちょっとした私からの、(はなむけ)よ。クラウディアが少し遅れるみたいなので、その代わり」

「クラウディア、来られるんですか?」

 とたんに、いんちきくじびきの件は瑣末事として認識のすみに追いやられた。便利な思考回路だと、自分でも思う。

「本部での問題を処理したらすぐに駆けつけると言っていたわ」

 俄然、気合いが入っちまったね。クラウディアが、来るのだ。地球からわざわざ。こりゃあ、下手な飛行はできない。ジェードにも一発、カツを入れ直さんと、あかん!

「やる気ね」

「はい!」

「それでこそ、ミディラ中尉を懐柔した甲斐があるってものだわ、エテルナ」

 微笑みながらあたしの額に唇を軽く触れさせる。どうやって彼女がミニの中尉を懐柔したのか、その手段を考えるのはよそうと思った。




 祖母ゆずりの黒髪をきつく編んでから簡易宇宙服を着込む。ちょうど宇宙服とフライトスーツのあいだに三つ編み(しっぽ)が入った。汎用的な生命維持装置の機能を立ち上げながらカタパルトへ向かう。

 手にしたフルフェイスのヘルメットと宇宙服のコードを同調させる。これで、万一宇宙空間に放り出されても十五分は生きていられるだろう。地球連合宇宙軍の制式宇宙服だったら、十倍は時間がかせげるのだが。

 スペースファイターでもそうだが、ゴロゴロの宇宙服ではコクピットに入れないんだから、ラクダの上下で南極大陸に行くも同然の薄着は仕方ない。

 宇宙空母のカタパルトはカプセル方式である。一機一機がエアロックを持ち、パイロットはそれぞれの()()から飛び立ち、帰ってくる。

 スカイ“Z-3”は〈ペンテシレイア〉の第1カタパルトに入れられていた。その名にちなんだメタルブルーの機体には白亜のアーマーが装着されている。地球でのアーマー装着時のスカイの重量は23.7トン……離陸最大重量が35.8トンらしいから、なるたけ多く爆装できるよう、アーマーはギリギリまで軽量化されていると聞いた。

 いまのスカイは外観からいうとシャトルにそっくりだ。ジョイント部以外は継ぎ目のない耐熱タイル──もちろんバスタイルなんかではない。スーパーセラミックだ──がキャノピーをのぞいて機体全体を覆っている。これがアーマーである。

 白いドレスをまとったスカイは空母から発進して惑星圏内に侵入し、ドレスを脱ぎ捨てて目標を攻撃する。コンピュータ制御方式の可変翼が常識となった現代でスカイがデルタ固定翼なのは、シャトル並みに大気圏突入を確たるものとするためだ。

 刻々と発進準備が整えられている。

 整備マンが充電コードをひきぬいた。“Z-3”の順調なエンジン音が心地よい。

 さっきよりもさらに青白い顔で、ジェードはカタパルトに現れた。辛気くさいカオをするなと殴りつけたい衝動をおさえて、あたしは奴の宇宙服の生命維持装置を調整してやった。わずかながら、設定が甘かったからだ。

「──」

 ジェードが何かつぶやいた。ありがとうと言ったのか、怖いと言ったのか──あたしには聞き取れなかった。かすかに、奴は震えている。


「……稜」


 はじめて、その名で呼びかけると佐々木稜(ささき・りょう)は驚いたようにあたしを見た。

 無意識のうちに、ただ使命感だけにつき動かされて彼はここまでやってきたのだとわかった。あたしの一言でこの男は逃げられない現実に再び目を向けざるをえなくなったのだ。

 黒い瞳があたしの青いそれをまっすぐに見つめている。

 ひどく冷静で、そして……悩ましげなまなざしであった。彼の瞳に映る自分の姿を見たとたんにあたしの中で……革命が起こった!

 自分のやり方を、最後の砦を、プライドを──捨てるわけではない!

 しかしあたしはそれをせずにはいられなかった。

 気がつくと、あたしは自分から佐々木稜の唇に唇を、重ねていた。奴が硬直する。それから──奴がくちづけに応える前に離れた。

 口封じと、わずかに移った口紅をおとしてやるためにその唇を指でなぞりながら、切り出す。

「あたしを信じろとはいわない。だけど、これから……〈シュミット〉に着艦してスカイを降りるまであんたの命、あたしがもらうわ」

 そして、もう一度だけ唇を合わせた。

 これは誓いのくちづけである。男と女としての、ではない。パイロットとリオの誓いだ。

 そっと身を離して、呆然としているリオにヘルメットをかぶせて簡易宇宙服と接続してしまう。

「チェックリスト、お願いね」

 自分もヘルメットをかぶりながらスカイの外部点検を始める。爆装してないので、見るべき箇所はふだんと同じくらいの数だ。主としてアーマーのジョイント部と(ランディングギア)と、エンジン排気ノズルに注意した。

 コクピットに身体を滑り込ませ、座席の下の補助ユニットと生命維持装置をケーブルでつないだ。これで必要な酸素量は調節されてヘルメット内部にもまわってくる。

『……第四リスト、メインよし、サブよし』

 機内通話装置をヘルメットに同調させるとチェックリストをクリアしているジェードの声が聞こえた。やや硬いが震えてはいない。ひょっとしたら、くちづけの動揺が残っているのではないかと思ったのはあたしの杞憂だったようだ。

『アーマー、ジョイント部、ロック』

「よし」

 ヘッドアップディスプレイに映るスカイの輪郭で点滅するチェックポイントを確認しながらあたしはジェードの声に応えた。

『ケーブル、繋留ポイント』

「ロックよし。キャノピーを降ろす」

 かすかな音をたてながら閉じたキャノピーを、外部から整備マンがロックする。それを視認し、こちらからの通信回線を開いて〈ペンテシレイア〉の管制室とつなぐ。

『キャノピー、ロック』

 第四リストの最終項目をジェードが読み上げる。

 深く息を吸い込んで、あたしは言った。

「よし。“Z-3”システム、オールグリーン。コントロール、発進許可を求める」

 とりはずしたラダーを抱え、整備マンはカタパルトから退避する。ドアの向こうに消える間際になってされた敬礼に、おまじないのように親指を立て、それから敬礼を返す。

『スカイ“Z-3”機、発進を許可する』

「提督……」

 思わず声に出してしまった。宇宙軍中将ともあろうおかたが、オペレーターの真似事をなさるなんて! それだけ、提督はスカイを自分の手で送り出したいということなんだろうけれども……。

 発進口のみを残して完全にロックされたカタパルトが消灯された。闇の中にくっきりと浮かび上がった緑色灯が赤に変わり、カタパルト内の空気が抜かれる。発進口が開かれ、ヘッドアップディスプレイに障壁が持ち上がったサインが出てきた。

『中佐どの』

「行くよっ!」

 リオに応えて、あたしはまず後輪のブレーキを解除した。それから、前輪だ。ブライダルケーブルに引かれてスカイ“Z-3”機は滑るように発進口に向かう。脚自体がその働きとして動き始めたときに、バーナーをオンした。


 〈SKY2271〉は宇宙へと飛び立った。

 この瞬間を、何度シミュレートしたことだろう。


 沈黙の宇宙空間に大きく視界を占めるのはバアル恒星系第五惑星ザキヤ──地球から六十二光年離れた、()()()()()である。

 自然改造(テラフォーミング)なしで人類の生存に適した大気と大地を持つザキヤは、重力までも地球とそっくりだった。そのためにスカイ計画の試験場として選ばれたのだろうが……白い雲の下に青い海洋と赤茶けた大陸を持つこの惑星は、地球を見たときの懐かしさまでも感じさせる。

『──った』

 脚の格納を確認したときにジェードが何か言った。ぎくりとする。まさかこんなところで、飛び出したりなんか、しないでよ?

「なに?」

 つい、きつい口調で訊いてしまう。

「なんって言ったの」

 佐々木稜は大きく息をついた。

『聞こえてしまいましたか』

「ああ」

『地球は青かった、って言ったんです』

 あんた、それはガガーリンの……。

 思わず苦笑した。ジェードの奴、えらく余裕あるじゃない。今度はあたしの吐息を聞きつけてジェードが質問する。

『何ですか?』

「……いや、テレシコワは地球を見てどう言ったのかなと思って」

 言葉にしてからしまった、と思った。地球人類初の女性宇宙飛行士ヴァレンティーナ・テレシコワは、栄光の五ヵ月後に同じく宇宙飛行士のニコラエフと結婚している。あたしとしては、あまり踏みたい轍ではない。

『“Z-3”』

提督はマイクをオペレーターに任せたようだ。聞き慣れない男性士官の声。

『八十五秒後に突入を開始してください。第一の()への針路修正が必要です』

「何度?」

 ジェードが答える。

『三度と四度のあいだです。コース、キーインしますか?』

 あたしは少しだけうなった。

「……して!」

 今回はあくまでも人力を使う方針だ。しかし非常時には機械力に頼るしかない。後顧の憂いを断つのは指揮官の務めである。

『五、四……』

 リオはカウントをダウンしてゆく。あたしは無理やり唾を飲み下した。

『二、一、突入!』

 自分の両手の中にあたしはふたつの生命を握っていた。

 ザキヤが強引な抱擁を求めてあたしたちを引き寄せる。

 彼女の情熱がスカイ“Z-3”機を取り巻き、大気と擦れて熱き(ほむら)と化して白磁の肌(アーマー)を朱く燃やす。

『ち……中佐どのぉっ!』

 佐々木稜が叫んだ。

 見えざる手が、ものすごい力であたしたちの身体を押さえつけていた……。




「……アレックス」

 うわごとのようにあたしはその名を呼んだ。

 ひどく息苦しい。目がかすむが、怖くて閉じることができなかった。まばたきする間さえもが恐ろしい。

 おそろしい?

 そうとも、あたしは怖い。

 生命がけとはすなわち己の死をかけるということ。自分を死に至らしめるものを見ずに死ぬのは恐ろしいことだ。

 だからあたしは前方を、生き残る可能性を、しっかりと見極めようとしていた。死神の鎌が首を刎ねようとするのなら、その前で刃の下をかいくぐってやるっ!

 “Z-3”は電離層に入り、〈ペンテシレイア〉との通信は途絶える。沈黙ならざる沈黙が、機内を制圧しようとしていた。

「……恋人の、名前、ですか」

 ヘルメットと機内の空気の振動作用として、佐々木稜の肉声はあたしに伝えられた。

「そ、うね!」

 呼吸を整え、一気に叫ぶ。叫ばないと、とても応えていられなかった。

「もしあたしが男だったら彼女にプロポーズしていた!」

「だったら!」

 ジェードも叫んだ。

「だったら、おれは」

「ジェード! 高度っ」

 そろそろ電離層は切れかけている。あたしは佐々木稜の発言を阻んだ。そのあとの奴の言葉を聞きたくなかった。こんな状況下で()()を口にだされることに腹が立っていたのかもしれない。

「っ! 十七万五千……」

 まるで煮え湯を飲まされたかのような怒り(あるいは、いらだち?)を含んだ沈黙の後に奴は口を開いた。

「十七万……」

 現時点での降下速度は毎秒ハ百メートルほどか……確認をとろうかと思ったが、そんなことがわかったからといって身を苛む苦痛がやわらぐわけではない。何となく奴の返答も辛辣なものになるだろうという予測から、あたしは訊くのをやめた。

「……十一万、電離層、出ます」

 高度十万メートル以下にひろがるのは成層圏で、地球よりも高い位置の高高度は、スカイがシュペル・ルージュとの空中戦を交えた領域だ。飛び慣れたはずの空に出て、あたしは翼の重さを感じた。質量もさることながら生身の体の疲れにも似た重さを、感じたのだ。

「重い……」

 まるで惑星の情熱に迎合するかのようなスカイの重量である。

『早めにアーマーを脱ぎますか?』

「いや、計画どおりにやる。ポイントを教えて」

『Yo!』

ジェードはリオとしての役割をまっとうするだろう。漠然と、だが、確信した。このあたしが鍛えたのだ。三千世界中で最高レベルのリオだ。

『アーマー』

 おちついた声が告げる。

『ジョイント部ロック、解除』

「ロック、解除する」

 大気圏突入時のショックでアーマーがおっこちないよう、ジョイント部は固定されていた。それをいま、解除する。あとはコマンドひとつでアーマーはスカイから剥がれ落ちる。

『解除よし。……高度二万二千、バーナー賦活。パワーオン!』

「パワー、入れる」

 復唱してアーマーの内蔵バーナーを目覚めさせた。アーマーを脱落させると同時にバーナーに点火してスカイよりも先に落とす。タイミングを逸すると“Z-3”は自分が脱いだドレスの中につっこんでしまう。

『賦活、よし。一万八千……一万七千……』

 ジェードは高度を読み上げる。あたしはリクエストした。

「カウントダウンしろ」

『Aye,sir!』

 すっかり慣れた様子でリオは応えた。

『二十五、二十四、二十三、二十二……』

 雲海を一つ突き抜けた。

 視界いっぱいに、スカイのメタリックな青を思わせる海原が拡がる。特大の、ネオチタニウムの金属板だ! 鼓動のように波打ってやがる。

 まるで誰かが手でちぎって投げ入れたみたいに、薄い雲の塊が一面の青の中に白く浮き上がっていた。

 そらのあおうみのあおにもそまずただよう──好きな(フレーズ)を思い出す。美しいという言葉以上の何かに、全身がふるえる。

『……三、二、一っ、アーマー脱離!』

「バーナー点火」

 スカイ“Z-3”機から離れたアーマーをバーナーが押し、ザキヤの重力が手繰り寄せる。ついっと機体を滑らせて引き起こす準備に入る。

『高度、三百!』

「──ゃ!」

 多分あたしは何かを叫んでいたと思う。

 悲鳴をあげつづける身体を無視して、スカイを急上昇させていた。

 森羅万象にとって不変かつ不偏、なおかつ普遍なものとは何だろう。時間と場所、条件、そして当事者によって万有は気まぐれなまでにその様相を変える。それら大いなるものの中で、唯一あたしがフェアだと思うのは老若男女を問わず個々の体重に比例してGが倍増することだ。

 因果応報という言葉がある。

 体重が五十キロの人間が2Gで受ける力はその二倍の百キロ……意味としては異なる事象だが、因果応報とはそういうことだとあたしは考えている。身体の大きな人間も、小さな人間も、男も女も、()()()()()()にGをくらうのだ。

 もっとも、小さな重量は大きなものよりは倍増されても重くならない。そこにちょっとした救いがあるように思えるが、元来が華奢である場合それは救いとは呼べない。

 小さなものに小さな力を支えさせる。一見、理にかなうようだが小さなもの自体の力も小さいのだ。要は宇宙の法則にえこひいきはないということか。


「ブラックアウトした場合もあわてず、冷静に機を維持するよう努めていただきたいと思います」


 ミディラ中尉の言葉を思い出した。ブラックアウト、一種の貧血である。女性体は男性体に比べて貧血に強いと聞いたことがある。女性は周期的にある種の貧血状態になるからだそうだが……あたしの限界は8Gだ。

 衛星軌道から降下して機体を引き起こした場合、ブラックアウトするのは畢竟やむなしとして、その状態が何秒、あるいは何十秒続くかが問題だった。

 佐々木稜の身体の造りはあたしよりも頑丈で、くやしいことに耐えうるGも大きい。体重がある分、それはあたしよりも重いはずだが……奴はやはり男だった。

『こ……うど、四百五十っ』

 押し殺したうなりのような声が(しら)せていた。あたしは歯をくいしばり、つぶされてなるものかと全身に力を入れてるだけで精いっぱいだというのに!

 大きく見開いていたはずの目から光景が遠ざかる。視界にグレイの幕がかかり、最初は薄かったそれはだんだんと濃くなってゆきやがてあたしの目には何も見えなくなった。

「……っ!」

 開けている目は閉じているときよりも暗い闇しか映さない。ブラックアウトしたのだ。動転しかけた意識をさらにかきまわすかのように、耳鳴りがひどい。


「ウエストが十五センチも二十センチも違うのよ! これで耐久力が同じだったら、逆にもっと腹が立つわ」


 かつて聴いた声が耳によみがえり、耳鳴りを鎮める。うってかわって冴える聴覚器官が絶え間なく伝えられていた言葉を集め始めた。

『二千四百……二千四百五十……二千五百……二千五百五十』

 あたしはそっと笑った。

 一度目を閉ざし、すぐまた開くと世界とクリアな色彩が戻っていた。

「何秒……」

 身構えずに素直に尋ねる。

「あたしは何秒間、気を失っていた?」

『……二秒かそこらです』

「怖くなかったのか?」

『そのあいだ、ずっと機首は上を向いていましたが?』

 ちょっと妙な感じがした。あれだけ神経質に最終進入(ファイナルアプローチ)を恐れるジェードが、パイロットのブラックアウトに平然としている。そういえば、墜落も同然の大気圏突入が、彼は怖くなかったのだろうか?

「あたしを、信じていた?」

『はい』

 何のためらいもない応え。

「ジェード」

 まだ耳に残るウラニアの声を思い出してあたしは訊いた。

「あんた、ウエスト七十センチ以上、あるでしょ?」

『はァ?』

 あたしは声をたてて笑った。苦しい呼吸の合間に、つぶやく。

「男なんだもの、当然よね……」

 それから、リオに訊く。

「現在の高度は?」

『高度、四千五百』

「ではこのまま二万メートルまで駆け上がる。〈シュミット〉の方角を出して。マッハ3で行こう」

 とんでもなく広い大紅海(グレイトレッドシー)をちんたら飛んでなんかいられるかってのよ。使える機能は使えるうちに、使えるだけ使うのが礼儀というものだ。〈シュミット〉上空で周回コースに乗れば、スピードはかなり落とせる。

 しかし、ジェードは言った。

『マッハ3は出しすぎです。肉襦袢みたいにゴロゴロ着込んで衛星軌道からダイブして、急上昇やったんですからエンジンに負担がかかって危険です』

「にくじゅばん……」

 あたしはため息をつく。白いドレスとまではいかなくとも、もっとこう、言い方ってものはあるだろうに。東アジア地区出身の男は、先天的に情緒が欠落しているのだろうか。

 とりあえず、奴の意見を容れて速度はマッハ2にコンマ1か2をつけるにとどめてやった。

『スカイ“Z-3”機、現在位置をどうぞ』

 音速飛行中に〈シュミット〉の声の良いオペレーターからの通信が入った。心得たようにジェードが応える。

『〈シュミット〉へ。こちら“Z-3”。現在、S−W−5エリア上空を通過中。まもなくS−W−6に入ります』

『了解。準備は万端、いつでもどうぞ!』

 何か、変なオペレーターだわ。奴の話すのを聞いていると力が抜ける。

『〈シュミット〉からのビーコン、キャッチ!』

「〈シュミット〉、いまそちらを視認した」

 メタリックな大海原のなかにぽつーんといる空母を見たとたん、あたしの鼓動は早鐘を打ちはじめた。この最終段階へきて、うまくいくだろうか。

 願わずにはいられなかった。神という存在がもし本当にいるのならば!

 あたしは()()()を真に何と呼べばいいのかなんて、知らない。でも、人ひとりが心を込めて祈ることばは、嘘いつわりではない。心から願う祈りは絶対のもの。あたしはそれをかなえるため全身全霊を傾ける。そのためにこの命、尽きたところで惜しくはない!

「佐々木、稜」

 一時的に〈シュミット〉との通信回線を切って、あたしはリオにだけ聞こえるように言った。

「あそこに……あたしたちのためのゴールがある。だけどこのゴールは、パイロットとリオのふたりでテープを切らなきゃ意味がないものだ。言ってる意味が?」

『……わかります』

 奴の口調はおだやかだった。

「上等じゃない──〈シュミット〉!」

 ジェードがはっと息をのむ音が聞こえた。斟酌せず、通信回線を開いて告げる。

「着艦する!」

 アプローチコースとは逆方向から〈シュミット〉上空をかすめる。

『ランディングギア、ダウン』

「よっしゃあ、脚、出したわ」

 パイロットはリオに応える。この際、言葉づかいの悪さは問題ではないよね? 奴の要求を着実にあたしはクリアしているんだから。

『アンチスキッド、入力』

「よしっ。脚、ロックする!」

 スカイ“Z-3”機は順調に着艦準備を整えてゆく。緩やかに旋回して、最終進入(ファイナルアプローチ)に入る。

『アレスター、ダウン!』

『“Z-3”、コースよし。パワー、マックスで!』

 ここまでくると、あたしはしゃべるのが面倒になる。ジェードやランディングオペレーターの言葉に行動で応える。

『フルフラップ!』

 ジェードはほとんど叫んでいる。

『──ああ!』

 オペレーターが得意技を披露した。

『やっぱり、顔を上げて飛んでいるとスカイ(あなた)が美しいことがよくわかりますねぇ。実にすばらしい』

「ほざけっ!」

『機首上げ!』

 あたしとジェードの叫び声が重なった。

 と、一瞬だけ遅れてスカイ“Z-3”は〈シュミット〉のワイヤーをひっかけて強引にその翼を休めさせられた。

 力ずくで甲板に叩きつけられ、大空への飛翔を妨げられた不満げなうなりが、あとをひきつつもやがては静まってゆく。

 何となく違和感を覚えながら、あたしは集まってくる整備マンやらデッキクルーたちをながめていた。彼らが大急ぎで動きだした理由は“Z-3”機を称讃するためではなく、後続機に早く場所を空けてやるためだ。

 キャノピーのロックを外からはずしてもらうあいだにヘルメットのバイザーを開けて座席下からのケーブルをひっこぬく。生命維持装置は、もう、いらない。

 前席と後席のキャノピーが開く音を聞きながら違和感の正体に気づいた。

 あたしの後ろに、ジェードがいるのだ。リオとして。

 あたしたちはやりとげたのだ!

 ヘルメットを取って整備マンに渡す。こわばった身体をだましだまし、コクピットからはがす。何とかラダーに足を乗せたときに周囲にいたスタッフ全員が歓声をあげてくれた。

 階級も職種も関係なく、ただスカイ計画の関係者であるという連帯があたしたちを同じ喜びで満たしていた。

「み、んな……おめでとう!」

 握りこぶしを突き上げてあたしは叫ぶ。

 かけひきなしの微笑がこみあげる。いや、それはもはや微笑などではなく、破顔の部類だったかもしれない。

 応える周囲もみな笑顔だ。

 甲板に降りると職務をこなすべくスカイに構いながらも、機を見てはあたしの傍にやってきて言葉をかけてくれる。肩を、背中を、たたく。握手する。グータッチする。

 それはジェードのほうも同じで、同じ機体から降り立ちながらも、いつしかあたしたちは人垣に阻まれてしまった。早いうちに何か声をかけようと思ったのに、なかなか動けない。心のどこかに、ためらいがあるせいかもしれなかった。

 そうこうするうち、あたしは周囲の人垣が一方向にだけ故意にあけられつつあることに気づいた。一筋の道はまっすぐにジェードのもとへと続いている。

 ここにいる者たちはすべてあたしたちの事情を知っているのだ。必要以上に干渉することなく、無言のまま、彼らはあたしにリオを讃えよといっている。

 あたしは笑うのをやめた。背筋をぴんとのばし、ゆっくりと歩きだす。

 まるであたしだけが時間の流れに乗り出しているかのように、周囲に沈黙がみなぎった。ささやきすらも交わされず、微動だにせず、人垣はあたしの一挙一動を見守っている。

「ジェード」

 静かに呼びかけると、何かを思いきるかのようにうつむけていた顔を上げて彼はあたしを見つめた。ものいいたげで、そのくせおちついた澄んだまなざしだった。

 意図的に唇の端が上がるように微笑む。女としての表情ではない、連合宇宙軍人の……エオスの微笑だ。

「おめでとう」

 一言だけを口にして右手を差し出す。成りゆきとしてではなく、あたしは握手を求めたのだ。

「……おめでとう、エオス」

 力強い手があたしの手を握りしめた。

 その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

 人の持つあたたかさやパワー、エネルギーといったものを感じるのはこんなときだ。ちょっぴり気恥ずかしくて、でもあったかくって気持ちが良い。

 ぐっと右手に力を入れてジェードを引き寄せると、彼は身体を硬くした。何だってんだ、あたしが、この公衆の面前であんたを襲うとでも思ったのか?

 いささかならずむっときたので、即座に奴の手を振りほどいた。虚を衝かれて愕然としたところを逃さず、抱きしめて肩をぱんっとたたいて身体を離す。

「ほらほら、次のが来るんだから、さっさとこのへん片づけちまいなっ」

 照れ隠しというわけではないが、わざとぶっきらぼうに言って、あたしは艦内に向かう。

 たたかれた肩を押さえ、佐々木稜が何やら考え込んでしばらく立ちつくしていたことなど、あたしの知る由もない──。











── PRAISE ───────













エテルナの性格だと丸ガリータにしていそうですが、キャラクターとして当初から長い黒髪のイメージです。切れば楽なのに、とは思うのですが。



ラクダというのは昭和の親父の定番肌着らしいです。あったかいみたいです?(#^.^#)


章タイトル、初発は『PRAISE』だったのですが、個人本(コピー製本)としてまとめた際は『BLAUER HIMMEL』にしていました。今回、打ち込むうちに『碧空』じゃないな、と思い『PRAISE』に戻しました。






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