15. 湯あがり狐のドキドキ接待
今日はなんというかなかなか濃い1日であったと、僕は湯舟に浸かりながら本日の姪との冒険を思い返していた。
本当は勝利の余韻のまま祝勝会のマツタケパーティーに突入したかったところだが、姪が夕飯の時間となったので残念ながら今日のところはお開きとなった。まぁ次の機会までに僕も料理を作っておくとしよう。
ちなみにミィは大ダメージを受けて『気絶』状態になっていたらしく、全てが終わった後に目を覚ましていた。道理で呼びかけても反応が無いはずである。
「……それにしても」
土壇場で発動したあのスキル……いや妖術か? とにかく≪祟火≫は一体なぜ使えたのか。僕にはそれが気がかりだった。
確かに技の仕組みは夢の中でドヤ顔で説明されたが、果たしてそれをイメージしたからといってゲームのスキルとして使えるものなのか。
LROではオリジナルスキルを作ることも可能だが、それはあくまで既存スキルの組み合わせとか応用といった範疇のはずである。あそこまで自由にスキルを創造できるものなのだろうか。それともプレイヤーである僕の記憶を読み込んで再現した? あるいは……
「まぁ、いいか」
そうやって難しく考え込んでいた僕だが、どうせ判断材料が少ないので答えは出ないのだ。よくわからないが今回はそのお陰で姪に勝利をもたらせたので良しとした。
「ふー、そろそろ上がろ」
考えも纏まったところで、そろそろ風呂から上がることにした。最近すっかり長風呂になってしまったが、その辺はだいたい湯船の中が快適すぎるのが悪い。
だって浮力があると楽なんだよ、ロリ巨乳狐娘になってからは特に。今や若い身体なので肩が凝るようなことはそうそう無いが、それでも常に胸に重い物をぶら下げているのは疲れないわけではない。男だった時にはおっぱいには夢が詰まっているのだと思っていたものだが、現実は脂肪であったのだ。自分の身体に付いてみればこれほどにまで重いとは。
それでも童貞の僕にとっては本来、これまでもこれからも無縁であったものである。自分の身体の一部とはいえ、好きなだけ見れる触れるつまりお得。少なくとも現段階ではそう考えているため、多少邪魔に感じることなど必要経費だと割り切れている。こんな身体になってしまったのは不本意で不便で最悪だが、どうせどうにもならないのなら少ないメリットを見出してなんとか自分を納得させるしかなかった。
あとはこのありがたみに慣れてしまわないことを願うばかりだ。なぜならメリットが薄くなれば、ただの邪魔な肉に成り下がってしまうのだから。色んな意味で、いつまでも心は男を失わないでいたいものである。
そんなことを考えながら尻尾も洗い終わって、僕は風呂場を後にした。バスタオルで身体を拭きながらエアコンの効いたリビングに出ると、感じる温度差が心地良い。
そのまま冷えすぎないようバスタオルを身体に巻いてドライヤーをかけていたのだが、髪と尻尾を乾かし終わったところである問題に気付いてしまった。
「あっやべっ……パジャマ干しっぱなしじゃん」
そう、今朝ベランダに干した洗濯物。金縛りのせいで漏らしてしまって洗濯することになった、パジャマとシーツ。それらを取り入れ忘れていたのだ。
「うーむどうするべきか……」
正直なところ、着替えの手間とかを考えればこのままバスタオル巻いて出て行ってササっと回収して終わりにしたいのだが、時間的にもう暗いとはいえ、ベランダも一応は家の外である。半裸で出るのは良くないだろう。年端も行かない少女の身体ならば尚更である。
「仕方ない、着替え直すのは面倒だけどシャツか何かを……」
あ、でもどっちみち姿見られたら耳と尻尾生えてるからアウトかな? などと考えながらベランダに出るための服を選んでいると、ピンポーンと玄関のチャイムが響いた。
一体誰だよこんな時間に、ていうか風呂上がりだからすぐには出られな……いや、どのみちこのロリ巨乳狐娘の姿で出るわけにもいかないか。とはいえ誰が来たのかぐらいは、インターホンのカメラで確認しておこう。
「ってなんだ、コージか」
とりあえず今は居留守を使っておくかと思っていたのだが、一応来客を確認してみたらモニターに映ったのは親友のコージの姿であった。スーツ姿ということは仕事帰りだろうか。コイツは僕の身体の事情も知ってるし、耳と尻尾を隠さなくても大丈夫だな。
ていうかよくよく考えれば狐要素を隠していたとしても、僕の家だと思って訪ねてきた相手に金髪ロリ巨乳美少女の姿で出ていくのは誤解が生まれそうでヤバいな。下手をすれば社会的に死ぬ。
まぁ今回はコージだし大丈夫だ。それにちょうどいいタイミングでもある。
そう判断した僕は念のためバスタオルを巻いた下にパンツだけ穿いて、幼馴染にして親友にして雇用主でもある男を出迎えるべく玄関のドアを開いた。
「おっすコージ」
「おお司、悪いなこんな時間に……ってお前なんて格好で出て来てるんだ!?」
コージはバスタオル1枚の僕の姿に驚いていたが、あいにくこちとら女としての羞恥心などは持ち合わせていないのだ。隠すべきところさえ全て隠していればセーフである。
隠しきれなかった谷間のサービスショットぐらいは相手が相手なので問題ない。主にコイツなら直視してきたりしないだろう的な意味で。
「いやぁ風呂上がりでさ。ところでちょうどいいところに来たな! まぁ上がれよ」
「上がれよじゃないが。とりあえず俺は一旦外で待ってるからまずは服を……」
「そのことなんだけど。ベランダにパジャマ干してるの忘れててさ、わざわざ他の服着るのも面倒だしちょっと回収してきてくんね?」
「断る。面倒でも服着て自力で回収してこい」
「まぁそう言わずに。ほらっ遠慮すんなって!」
「遠慮とかじゃなくてだな……って引っ張るな! 力業で引きずり込むんじゃない!」
僕のその頼みにコージは終始消極的な態度であったが、そこはこちらも長い付き合いから扱い方を心得ているので問題ない。徹底して目を逸らしていた隙を突いて無理矢理に部屋へと引っ張り込み、最終的にゴリ押しで洗濯物の回収を押し付けた。
「サンキュー、助かったわ」
「まったく……社長に洗濯物を取り込ませるのなんてお前ぐらいだぞ」
「まぁそう言うなよ親友」
「ホント都合よく使い分けてるな」
ベランダから帰ってきたコージは若干呆れ気味だったが、口ではそう言いつつもなんだかんだついでにシーツまで回収してきてくれていた。こういう部分はやっぱりコイツの面倒見の良いところである。
「それで? わざわざウチに寄ってどうしたんだ?」
「折角取ってきたんだからとりあえず脱衣所かどっかでそれ着てこい、話はそれからだ」
「へいへい」
「あっお前……」
僕は一応コージの方に背を向けて、すっかり乾いたパジャマに着替え始めた。
軽く確認した感じ、染みにもなってないようでよかった。やはりすぐ洗ったのが功を奏したのだろう。
ちなみに声の向きが変わったので、コージはこちらを見ないように目を逸らしたようだ。僕はこの身体だからといって特別気にしないが、つくづく気遣いのできる男である。
「よしコージ、着替え終わったぞ」
「いやなんでそこで着替え始めたんだ、俺がいるだろう」
「脱衣所はエアコンの効きがイマイチなんだよ」
「だからってお前……ってパジャマすごいことになってるな!?」
「しょうがねぇだろサイズ無かったんだから!」
そうしてパジャマ姿を露にしてみれば、流石のコージも胸のところのピッチピチ具合にツッコミを禁じ得なかったようだ。いつものコージならセクハラ対策とか言って言及しないはずであったが、今回ばかりはピチピチが過ぎたらしい。
ちなみにこのパジャマ、黄色い星柄の子供っぽいデザインであるが故にサイズが無かっただけである。他のもっと無難な落ち着いたデザインであれば多少マシなものもあったのだが、その辺は姪とサラさんに却下されたので最終的にこのピチピチ具合に至った。解せぬ。
「まぁそんなことより何しに来たんだって話だよ。これから僕、夕飯作るから忙しいんだよ。手短に頼むぞ」
「あ……ああ、そうだな。とりあえず先にコイツを渡しとこう。差し入れのプリンだ」
「おうゆっくりしてけよ。あ、なんか飲む? 牛乳でいい?」
「プリン1つで態度変わりすぎだろ。あとなんでそこで飲み物のチョイスが牛乳なんだよ普通お茶かコーヒーだろうが」
「いやでも風呂上がりだし」
「それはお前だけだからな」
実はコージがぶら下げていたコンビニ袋の中身は気になってはいたのだが、どうやら中身は僕のためのプリンであったらしい。やったぜ。
僕はそれを嬉々として受け取ると、後で食後のデザートにするべく冷蔵庫に入れておいた。
「じゃあそろそろ聞かせてもらおうか」
「……ああ」
そしてようやく本題に入れるとばかりに、僕はコージの向かいの椅子に座る。先程冷蔵庫に行ったついでにコップに淹れた牛乳の片方は、おいおいマジで牛乳かよと言いたげな目をしているコージの前に置いておいた。
「と言ってもそんなに大層な話じゃないんだがな。何なら玄関口で用件だけ伝えて帰ろうと思ってたぐらいだ」
「あ、そうなの? じゃあなんで牛乳飲んでゆっくりしてんの?」
「お前に引っ張りこまれたからだが」
ぐうの音も出ないほどの正論を真正面からぶつけられた僕は、返す言葉も無かったので美少女スマイルで誤魔化した。
それに対して一切動揺することなく、表情一つ変えずに牛乳を一口飲むコージ。やはりコイツは童貞の僕とは違って一筋縄ではいかないようだな。鏡に映った自分の表情で遊んでた感じ、見た目だけならかわいさに自信はあったんだが。
「で、肝心の用件なんだが。俺が病院を手配しておくと言っただろう?」
「ああ、昨日会社で言ってたな」
「その日程が決まった」
「おお、予約できたのか。いつ? 今週末とかか?」
「明日だ」
「えっマジ? 昨日の今日で急じゃね?」
「むしろ明日しか空いてなかったんだ、急で悪いが明日は朝から空けておいてくれ」
「まぁどうせ空いてるからいいけど。あ、でも明日遊べないってあとでるぅちゃんにファインだけ送っとくか」
なかなか聞けなかった用件は何なんだろうと思っていると、なんでも僕の身体の変化の件で病院に行くことの話であった。
そうか、病院に行くのか。正直なんか病院ってあんまり行きたくないんだけど、まぁ流石に今回は行くしかないか……行ってもあんまり解決するとは思えないけど。
そんな思いが無かったわけではないのだが、どうせコージのことである。かなり無理矢理に予約をねじ込んでくれたのだろう。コイツは結構そういうところあるからな。どんな時でも……僕のことを心配してくれる、良い奴なのだ。
「なんていうか……ありがと」
「いいさ。俺とお前の仲だ」
僕は少し気恥ずかしくなりながらも若干改まって感謝を伝えたのだが、コージは相変わらず動じない余裕の表情で返してきた。しかも僕もいつかは使ってみたいようなイカしたセリフもセットである。
でもなんかここまでカッコいい返しをされると……なんかムカつくな。カッコよすぎてムカつく。コイツ本体も高身長高収入イケメンで中身もカッコいいとか弱点無さ過ぎかよ。分かってたことだが。
ただまぁ、そう思うのは単なる童貞の僻みである。感謝しているのは事実なので、素直に厚意に甘えるとしよう。
「あ、でもさ。僕って普段から色々世話になってるじゃん?」
「まあ本当に色々とな」
「本当にってなんだよ。とにかく、日頃の感謝ってもんがこっちにはあるわけだよ」
「ほう、殊勝な心掛けだな。とはいえさっきも言った通り、別に構わないというのが俺の答えだ。特別何かをしようだなんて思わなくていいぞ」
「けどこんな身体になったからには有効活用しようと思ってな。身体で返すってわけでもないが。お礼の意味でさ、お前になら特別に……コレ、触らせてやってもいいぞ」
「……なんだと?」
その時コージの表情が動いた。なんだ? 僕が触ってもいいって言った瞬間に……もしかして態度には出してなかっただけで実はコイツも興味津々だったのか? なんだよクールぶりやがって、仕方ないやつだな! こんな機会滅多に無いから誘惑して遊んでみるか。
僕は完璧超人な幼馴染の弱点を見つけたとばかりに、思わず僅かに上機嫌になる。そしてまるでその部分を見せつけるかのように揺らしながら、コージの隣へとゆっくり移動した。
「ほら触ってもいいんだぞ? いつもお世話になってるからなぁ、どうだ触りたいだろ?」
「くっ……確かに魅力的な話ではある。だが一応は雇用主である俺がお前の身体を触るというのは問題が」
「へーきへーき、合意の上だしプライベートだし。それにこっちが良いって言ってんだから今ちょっと触る分には文句なんか言わねーよ」
「……確かに問題は無い、か?」
「だろ?」
僕は手応えを確信する。コイツは頭がキレるので普段は僕なんかがからかっても華麗に切り返されてしまうのだが、今ばかりは違った。視線がその部位に釘付けだし、思わず生唾を飲み込んでいる様子から期待さえ伺える。
あと一押しだ。そう判断した僕は、自らの小さな手でそっとソレに触れて見せた。
「ほぉら、本当はずっと触りたかったんじゃないのか? 今だけの期間限定サービスだぞー? 癖になる触り心地だぞー? 僕もな、手が空いてるとついつい触っちまうんだよ。見ろよこの指が沈むほどの柔らかさ」
「くそっ触りたくないと言えば嘘になる……しかし、なんだかここで触ってしまっては司の思う壺な気もするが……!」
「なんだ触らないのか? 言っとくけどこの機会を逃したら次はいつ僕の気まぐれで許可出すか分かんねーぞ? 勝手に触るのは当然ダメだからな?」
「……本当に触っていいんだな?」
「ああ」
そんな売り込みの甲斐あってか、あえなくコージは陥落した。僕はこの時、非常に悪い笑顔をしていたことだろう。
なにせ普段から上手くやり込められている相手に勝ったのだ。その方法がロリ巨乳狐娘ボディによる誘惑というのは少し釈然としないところもあるものの、勝ちは勝ちだ。
「それじゃあ遠慮なく……」
「あ、でもちょっとだけだぞ。あと優しくな」
「分かってるさ。……おお。実際に触れてみると、こんなにも柔らかいのか。しかもなんて滑らかな手触りだ」
「なんせ風呂上がりだからな」
「実は俺も前々から触ってみたいとは思っていたが……瑠奈ちゃんが夢中になるわけだ。最高だな、この尻尾は」
「だろ?」
誘惑に負けて尻尾を触ってみたコージの感想としては、それはそれは好評だった。
ん? 胸? いや触らせるわけないじゃん、なんで男同士で乳繰り合わないといけないんだよ。尻尾だよ普通に尻尾。最初から指差してたし。
ともあれ僕は誇らしかった。なにしろあのいつも冷静なコージが僕の身体に夢中なのだ。つまり完全勝利。しっかり手入れした甲斐があったというものである。
思い返せばコージはこれまで、僕の尻尾を触ったことなかった。姪やサラさんは結構普通に触ってきていたが、やはりコイツなりの遠慮だったのだろうか。まったく、そんな遠慮なんてするような間柄でもないだろうに。
まぁ僕の尻尾は基本的に姪のための物でもあるので、今回のような気まぐれでもなければあまり許可しないのだが。
「……おっと! あまりに手触りが良すぎて長居しすぎたな、そろそろ帰るとしよう」
「ん? ああ、もうこんな時間か」
そんな勝利の優越感に浸っていた僕だが、いつの間にか思ったより時間が経っていたらしい。尻尾をモフるコージの姿ですっかり良い気になって、時間を忘れていたようだ。
用件は伝えたしプリンも渡した、つまり今日ここに来た用事は既に終わっていたわけだ。我に返ったコージは帰るべく玄関に向かい、僕も見送るために後ろを追いかけた。
「じゃあ司、明日の朝は9時に車で迎えに来るからな。寝坊するんじゃないぞ」
「9時だな。任せとけよそれぐらいの時間なら余裕だよ余裕」
「余裕ぶりすぎてて不安だがまあ信じるとしよう。あと使えるかどうかは分からんが、保険証も忘れるなよ」
「その辺は大丈夫だわ、財布に入れっぱなしだし」
「寝る前にはちゃんと歯磨きをするんだぞ」
「するわ! 僕のこと何歳だと思ってんだよ!」
「見た目的に……10歳ぐらいか?」
「お前と同い年だよ!」
コージが別れ際にいくつか注意点を追加で言い残し、ついでに放たれるボケに対して僕がツッコミを入れていく。僕たちの中では慣れ親しんだ、いつものやり取りである。コージは基本は如何にも真面目そうな雰囲気ではあるものの、なんだかんだで面白いヤツなのだ。このようにボケに回っても隙が無い。
「じゃあな、また明日。……あ、それと」
「ん? まだ何かあるのか?」
ひとしきりボケてからドアを出て、まさにもう帰ろうとしていた時。コージにしては珍しく、まだ言い忘れていたことがあったらしい。ここで敢えて足を止めて言わねばならない大切なことなら、この男はもっと早くに伝えてそうなものだが。
しかし家に入り直すほど重要なことではなかったようで、コージは一旦は閉めようとしたドアを半開きにして最後の言葉を置いて行った。
「寝る前にジュースとか飲みすぎるんじゃないぞ」
「おう……うん?」
あれ? 追加のボケ? わざわざ帰ろうとした足を止めてまで?
一瞬困惑した僕は思わず素の反応を返してしまったのでこのままノリツッコミに移行するべきか、と僅かに思案したところでバタンとドアが閉められた。どうやら普通に返事をするだけで充分だったらしい。なんでだ?
「……あっ!?」
よく知る男の言葉の意味がよく分からなかった僕は、しかしすぐさまその意味に気が付いた。気が付いてしまった。
「ちょっ待てコージィ! これには理由があって……事情があるから! ただ我慢できずに漏らしただけじゃねーから!!」
迂闊だった。
コージほどの男が、ベランダに不自然に干されたまだ新しいパジャマとシーツを見て何も気が付かないはずがない。何があったのか察するはずだ、どういう経緯でそこに至ったのかまでは気付かなくとも。
だがいくらドア越しに叫んでも既にその場を離れたコージにはその釈明が伝わることなど無く、僕はただただ面倒くさがらずに自力で洗濯物を取り込めばよかったと後悔するのであった。




