5. モンスター防具を作ろう
一度現実に戻されて強制的に頭を冷やさせられた僕だが、今回はそう時間を置かずにすぐ帰って来ることができた。折角の興奮に水を差されたりしたら、最高潮にまで高まったテンションも一瞬で冷え込むものである。
とりあえずいいところで邪魔をしてくれたセーフティ機能は、システム設定から可能な限り検出基準を下げておいた。これならちょっとテンションが上がったぐらいで強制ログアウトなんてことにはそうそうならないはずである。
ところで、僕は今とても不機嫌だった。
いや強制ログアウトの件はもういい、済んだ話だ。それが原因の1つでないとも言えないが、決してそれだけが原因というわけではなかった。
「もーっ、あんちゃん機嫌直しなよ」
「むー……だってぇ」
「試着してみたくなったらまた来ればいいじゃん、ねっ?」
「むむむ……それはそうだけど」
なぜ僕が不機嫌かと言うと、ゲームに戻ってきて改めてオシャレ防具姿の姪を褒めちぎってから、スクリーンショットで撮影しようとしたらシステムに弾かれてしまったからである。なんとも今日はよくゲームシステムに邪魔される日だ。防具を装備したところを写真に残すには、試着ではなく自分で作らなければならないらしい。
撮れた写真はご丁寧にも、服と体の部分だけが綺麗に真っ黒なシルエットとなっていたのだ。姪はシルエットだけでも充分かわいいが、流石にこれでは本来のかわいさが全く出し切れていない。これは撮影機能の怠慢である。そういう理由で僕は不満なのだった。
「あっ、あんちゃんこの装備とかどう? ウルフシリーズだって」
「ウルフシリーズ……狼系かな?」
「素材もそれほど多くないし、性能も見た目も良いよ」
「ほう」
そんな風に僕がむくれている間に、姪がカタログの中から新たに良さげな防具を発見した。その名も『ウルフシリーズ』。
狼系のモンスターと言えば、真っ先に思い浮かぶのは初めて戦ったボスモンスターである『プレーンウルフ』である。ウサギだらけの平原で突如現れた、額に傷のある一匹狼だ。それと森エリアで戦った、緑の迷彩模様の毛皮が特徴的な『フォレストウルフ』もか。プレーンウルフの方はまず出現条件が分からないので素材集めが大変そうだが。
「まずは手袋を選んで、試着っと。ね、カッコいいでしょ?」
「おぉー、これは確かにカッコいい」
それはまるで腕だけ狼になったかのような、指先には爪まで付いていて肘まで届く長い手袋だった。ファラビットの柔らかな毛皮とは違い、狼特有の硬そうな材質の毛皮は見た目としての防御力も高そうな印象を受ける。
ブーツも同様に、膝下をピッタリと覆う狼の毛皮であった。アバターの身体に直接生えている耳や尻尾と違ってあくまで衣装ではあるのだが、防具のカラーリングを自動調節機能で毛並みに揃えているのも相まって、見た目としては姪のケモ度が上がった感じだ。
「でも、指先そんなんだったら武器使いづらくない? 剣とか振り回せる?」
「ん、大丈夫だよ。このゲーム、手袋とかブーツでも動きやすさなんかに影響出ないし」
「……言われてみれば、僕も今まで普通にブーツで動き回ってたな」
「あと多分なんだけど……うん、やっぱり。問題無さそう」
「るぅちゃん? これ何してるの?」
「あんちゃんもやってみればわかるよ」
「やってみればって……」
しかし僕はそんなゴワゴワした上に爪まで付いた手袋で武器が握れるのだろうかと思ったのだが、姪は何かを確かめるように僕の尻尾をワシャワシャと触ると問題ないと言ってのけた。一体何の目的でこんなことをしたというのか。その厚手の手袋越しでは尻尾の感触も分からないだろうに。
そう思っていたのだが、実際に手袋を試着してから姪の尻尾を触ってみればすぐに姪の言いたかったことを理解した。
「あれ、これ……触った感触がある?」
「でしょ?」
それは手袋をしていながら、まるで素手で触っているかのような触り心地だったのだ。指先に、手のひらに、姪の尻尾の毛並みを感じる。そういえば今まで気にしていなかったが、これまでも手袋のことを邪魔に思ったことなんて一度もなかった。
試しに自分の右手と左手の手袋同士で触ってみれば、互いの毛皮の感触がそれぞれの手の肌に感じられた。ついでに爪部分も触ってみれば見た目ほど尖っていない。ゲーム上の利便性の都合によるものなのだろうが、なんとも不思議なものである。
「まぁ、これなら手袋がゴツくても問題ないか」
「よーし、じゃあ防具はこれで決まり! ……って言いたいんだけど、問題があるんだよね」
「問題?」
僕はこれなら使用感にも問題は無さそうだと判断したのだが、その矢先に姪は問題があるのだと言った。
一見問題は無さそうだが何が問題なのだろう、素材だろうか。そう思ったら実際に問題というのは素材のことであった。
「実はこれ、足りるには足りるんだけどプレーンウルフの素材が1人分しか無いんだよね……あたしとしても、あんちゃんとお揃いだったらいいなぁって思ったんだけど」
「あー、なんだそんなことか。いいよ僕の分は。今の服も、なんだかんだで気に入ってるし」
僕はそこに嘘は言っていなかった。なにしろこの装備、姪が選んでくれたコーディネートなのだ。キュロットとかいうスカートに片足突っ込んだようなボトムスに思うところが無いわけではないが、僕が姪に選んでもらったものを気に入らないわけがなかった。
それに姪とお揃いというのは心躍るファッションではあるが、そのために姪の服装の自由を奪ったのでは本末転倒だ。あくまでも姪には伸び伸びと自由にやってほしいのだ。
……あとついでに、折角昨晩≪剛体≫という新たなスキルを習得したのだから、これまでと同じ装備の同じ条件で試してみたいという気持ちもあった。その方が修行の成果をより実感できるというものである。
「じゃあとりあえず、今ある素材で作れる分だけ作っちゃうね。えーと手袋の材料が『プレーンウルフの爪』と『フォレストウルフの毛皮』と、その他の材料とお金で。それと靴の材料が『プレーンウルフの毛皮』と『フォレストウルフの毛皮』とその他とお金っと」
「おう嬢ちゃん、『ウルフアーム』と『ウルフブーツ』の作成かい? 任しときな、最高の出来栄えに仕上げてやるぜ!」
「うん、よろしくねおじさん!」
「っしゃあ! 仕事だァ! やるぞオラァ!!」
そして早速防具を作ることにした姪は、素材を親方に受け渡す。それを受け取った鍛冶屋の親方は気合いの入った掛け声と共に溶鉱炉に素材を投げ入れ、防具作りを開始した。
「完成だ! ヘイお待ち、ご注文の装備だ!」
「おじさんありがとう!」
最後に水蒸気の中からグローブとブーツが現れ、工程を楽しそうに見学しながら待っていた姪へと手渡された。待ちきれない様子であった姪はそれらを早速装備してみた。
メニューからの操作で瞬時に装備が完了したことにより、ありふれた布の手袋と靴が一気にグレードアップして強そうな毛皮となった。
「おぉー……試着の時よりカッコいい!」
「うん。カッコよくてかわいくて、るぅちゃんにとってもよく似合ってるよ」
「えへへー」
僕から見れば防具の見た目は試着した物と全く同じにしか思えなかったのだが、それでも現物を手にした達成感からなのか姪がより嬉しそうな表情であったので、結果的に僕視点でもその防具は試着の時よりも輝いて見えた。何と組み合わせても絵になる姪はやっぱり最高だぜ。
と、姪の良さを再確認しながら最近の姪のかわいいシーンを思い返していたところ、ふとした拍子に過去の行動とたった今の行動について疑問を感じた。大した問題ではないのだが、僕の記憶と食い違っていることがあったのだ。そのことについて姪に尋ねてみることにする。
「ていうかプレーンウルフの素材なんてよく持ってたね。初日に売ったと思ってた」
「ん、またドロップしたからね」
そう、僕たちは一応初日にプレーンウルフと戦いはしたものの、その素材は直後に防具の代金として売り払ったのである。
しかしそのあとにドロップしたということは、僕が知らない間に1人で倒したのだろうか。だとしたらいつの間にか独り立ちされたみたいで、叔父さん少し寂しいよ。
「あ、別にまた平原エリアで出たわけじゃないよ。もうファラビットとかあんまり狩ってないし」
「あれ? プレーンウルフの素材って別にプレーンウルフからじゃなくても出るの?」
「プレーンウルフからだよ?」
「ん?」
うん? どういうことだろう。プレーンウルフなのか? それともプレーンウルフじゃないのか? いや、でも最後にプレーンウルフからのドロップって言ったからプレーンウルフなのか? これ何だと思う? プルーンウルフの苗木? ダメだ混乱してきた。つまり……どういうことだ?
「あ、平原エリア以外でプレーンウルフが出たってこと? それを1人で倒して、ドロップゲット?」
「違うよ? 流石に1人で勝てるかどうかはわかんないし」
「うーん……?」
「倒したじゃん、あんちゃんも一緒に4人で」
「僕も一緒に? ……ああ! そっか、獣人の村の試練か!」
「そういうこと」
そうか、そういうことだったのか。
確かに僕たちは獣人の村で転生の試練を受ける中で、プレーンウルフとも戦った。言われてみればそうである。
だが僕はてっきり、あの試練の敵モンスターはアイテムを落とさないものだと思っていた。なぜなら余程に運が悪かったのか、僕はどのモンスターを倒しても1ゴルか2ゴルしかドロップしなかったからである。
とはいえ、実際ドロップ率は絞られていたはずだ。でなければあの受注条件が無いに等しい試練さえ受ければ、レアなボスモンスターとも何度も自由に戦えてしまうからである。獣人の村を最初に見つけることは難しいのだが、それさえクリアできればあとはボスドロップでウハウハになってしまうだろう。
まぁ一応その辺りの対策は僕たちがクリアしたあと、姪が楽しかったからもう1回やりたいと言い出した時に村長が軽く教えてくれたのだが。
なんでも連続では挑戦出来ないので、どうしても再挑戦したければ3日ほど空けてからまた来てほしいとのこと。
それとプレイヤー毎に挑戦可能回数に上限があるみたいなことも言ってた。僕としては何度も腕試し出来た方がいいんじゃないかと思ったけど、そもそも獣人に転生するための試練なんだからそう何度も遊びで受けるものでもないなという結論に至った。
話が逸れたが、何の話だったか。そうそう、姪があまりにかわいすぎて幸運の女神に愛されてるとかって話だっけ? 確かそんな感じだったな。
「あたしあの時、運良く素材が2個も出てたんだよね。牙も頭の防具の素材として使えるけど獣人は帽子って被れないし、上下の服にはプレーンウルフ素材使わないから実質全部作れるよ」
「なるほど……ドロップしたのが必要な素材かどうかっていうのも上手いこと一致してたのか。るぅちゃんは本当に運がいいなぁ」
「えへへー。あとなんか後からアイテム欄見たら、なんかレアドロっぽいのも出てたみたいだし。あの日は最近の中では結構上位に入るラッキーデーだったかも」
「え、レアドロまで出したの? ヤバくない?」
あれ? これもしかして試練でドロップ全く無かったのって、僕が異常に運が悪かっただけでは?
いや……そんなはずはない。僕は運が良いとも悪いとも言えない普通ぐらいの運の良さなはずだ。今年は厄年でもないし。最近は唐突にロリ巨乳狐娘にされたりしてはいるが。
どちらかと言うと姪の運が良すぎる説を推したい。姪はこんなにもかわいくてあと普段から宿題とかもちゃんとやってる頑張り屋さんだし、人には親切にできる良い子である。これほどの人徳がある美少女であれば複数の幸運の女神を囲っておねロリ百合ハーレムを作っていたとしてもおかしくはないだろう。少なくとも僕は全くおかしいと思わない。
「そういうわけで、あとは森エリアで足りない分のフォレストウルフの毛皮を集めて、最後に『北の平原』の『ホワイトウルフ』の毛皮を集めたら服の材料は全部だよ」
そんな姪の可能性を究明していたら、いつの間にか姪は残りの素材について教えてくれていたようだった。『ホワイトウルフ』については知らないモンスターだが、あくまでも低レベル帯である平原エリアの敵だし、僕と姪ならば問題ないだろう。
先行きが問題なさそうなことを再確認したので、僕はふとした疑問を姪に興味本位で質問してみる。
「そういえばるぅちゃん、残りの防具はどんな見た目なの?」
「ん? んー、完成してからのお楽しみっていうのでもいいんだけどね。でも気になるなら特別に見せたげる! だってあたしもたとえ試着でも早く着てみたいし!」
「うん、それなら是非とも見せて欲しいな」
果たして残りの部位はどんな見た目なのか。さっきカタログで見た時は手袋だけ表示していたので、残りは知らないのだ。
腕と脚が結構そのままな毛皮なので、服も毛皮なのだろうか。だとしてもその予想はあくまで材質についてだけだし、形についてはお世辞にもファッションセンスがあると言えない僕にとっては見当もつかない。はてさて果たして――
「じゃーん! こんな感じのセクシー系のカッコいいやつでーす!」
「えっ……ちょっるぅちゃん!?」
だが僕の期待は、全くの別方向に振り切られることとなった。
なぜなら10歳の姪が試着したその毛皮の防具は、あまりにも露出が高すぎたからである。
上の服は布幅の狭いチューブトップ型の毛皮で、胸元より上とお腹が丸見えである。もちろん背中も広範囲に丸出しであり、何なら前から見た場合に肋骨の部分も結構見えるのが視覚的に危険すぎる。
当然ながら下の服も同レベルの危険度であり、ホットパンツではあるもののローライズ気味な上に下半分も面積が少なすぎる。ホットパンツだとして考えてもこれは少ない。攻めすぎである。
そんな見た目のヤバさから童貞のメンタルに思わぬ奇襲を喰らってしまったが、僕はなんとか叔父としての理性で動揺と興奮を抑えて咄嗟に注意した。
「ダメダメっ! エッチすぎ! こんなの子供が着ていい服じゃないから! いけません!」
「えーっ……カッコいいのに。なんでダメなの?」
「ダメなものはダメなの! ていうかこの鍛冶屋だって公共の場なんだし、外から誰か入ってくるかもしれないから、早くそれ脱い」
そこでプツンと、何かの電源が切れるような音。
急に目の前が真っ暗になったので目を開けると、いつの間にか自室の風景。
「……またかよぉ!?」
姪なんて今まで何度もお風呂に入れてきたぐらいなので、来ると分かっていれば平常心を保つこともできたのだが。しかし女の子のいきなりのセクシー衣装は、例え姪のものであったとしても童貞の僕には厳しかったらしく。あるいは大切な姪が大胆すぎる衣装に着替えたことによる動揺による動悸のせいなのか。
設定の基準値を下げた甲斐も虚しく、またしても強制ログアウトを喰らったのであった。




