3. スキャンダル
会社でのコージとの話し合いの後、僕は他の社員にバレないようコッソリと会社を後にした。
ちなみに僕が休むことの職場への説明は、コージが適当に誤魔化しておいてくれるらしい。頼れる親友だぜ。
今は帰りにスーパーでの買い出しも終えて、自宅に帰って来たところである。こんなに早く会社から帰って来たのは久しぶりのことだ。前に間違って祝日に出勤したとき以来か。
「よし、ゲームしよ」
僕は早速パーカーを脱いでゲーム機を頭に被り、電脳世界にダイブするためベッドにダイブ……したところで思い出した。
「冷たっ!? あっそうか消臭剤……!」
ベッドは現在、出発前に吹き掛けた消臭剤でびしょ濡れだった。あまりに帰ってくるのが早すぎたため全然乾いていなかったのだ。
仕方がないので僕は居間のソファに移動し、そこでゲームを起動することにした。2人掛けのそのソファは本来は僕が寝られるほどの大きさではなかったのだが、今の僕はロリ巨乳狐娘である。この小さな体躯ならば、多少ハミ出るものの脚を伸ばして寝るのにも充分な大きさだ。
そしてゲームの電源を入れようとしたところで、ちょうどスマホの通知が鳴った。この音はメッセンジャーアプリ『ファイン』のものだ。こんな時間に一体誰だろう。
自分で言うのも何だが、僕の交友関係などたかが知れている。基本は親か姪か職場仲間ぐらいなものである。
なのでこの時間帯は仕事中である同僚を除いて、恐らく家族の誰かであろうと予想をつけたのだが、しかしメッセージを送って来たのは職場の後輩の小杉であった。お前は仕事しろよ。
『飯塚氏、急に休んだからみんな心配してるでござるよ! サボリでござるか?』
やべぇ、こいつエスパーか? 一瞬でサボりってバレたぞ。いや、仕事に出られない事情はあるから厳密にはサボりではないんだが、今からゲームしようとしてた身としてはサボりかと問われてしまうと非常に肩身が狭い。
とにかく何か弁明をしないとマズい、そう判断した僕はすかさず返事の文章を入力した。
『サボりじゃねーよ。ちょっと風邪ひいちまってな』
僕が選んだのは仮病という選択肢だった。古今東西、これがスタンダードにして最適なサボりの理由付けである。いやサボりじゃないが。
だがそのあとに小杉から返って来たのは、僕の予想外の返信であった。
『風邪? 社長からは季節外れのインフルエンザと聞いてるでござるが』
しまった、口裏合わせもせずに適当言ったせいで開幕ボロを出してしまった。くそっなんでコージの奴そんなレアな言い訳するんだよ聞いてねーぞ!
ひとこと文句を言ってやろうとコージとのチャットを開いたら、未読だったが既にそのことがキチンと説明されていた。そういえばスーパーのレジで支払いしてる時に通知来てたな。確認するの後回しにしてすっかり忘れてたけど。
そんなわけで社長に非が無いことが判明したのでやり場の無い怒りは収め、僕はこの場は言い訳に言い訳を重ねてカバーすることにした。
『あー、そうそう本当はインフル。いやー心配させたらダメだと思ってな。まぁそういうわけだから伝染ってもいけないし、お見舞いは来なくていいからな』
『なるほどそういう理由でござったか! お心遣い感謝でござる!』
ふぅ、なんとか誤魔化せたか。これも僕の普段からの人望のお陰だな。かなり無理なく自然に誤魔化せたはずだ。我ながらパーフェクトな演技力である。
などと完璧な言い訳の成功を自画自賛していたら、小杉から次のメッセージが届いた。正直さっさと仕事に戻れよと思うが、僕自身も姪からファインで連絡が来たら仕事中だろうと際限なく会話を続けてしまう部分があるのであまり強くは言えなかった。
『そういえば飯塚氏、拙者とんでもないスキャンダルを仕入れたでござる』
話が変わったということは、いよいよさっきの失言は誤魔化しきれたと思っていいのだろう。
とはいえその手の話題には僕はあまり興味が無いので、早くゲームをしたいという気持ちが徐々に強くなってきた。仮病設定なので正直にそれを言うことはできないが。
……いや、誰のスキャンダルなのかぐらいは聞いておこう。僕は噂話が好きだというわけでもないので基本的には気にならないが、誰のものなのかによっては気になるかもしれない。
『スキャンダルって、誰の?』
『よくぞ聞いてくれたでござる! なんと社長の女性関係の話でござるよ!』
『は? マジ? 詳しく』
『実は拙者、社長が知らない未成年の少女を会議室に連れ込むところを見たのでござる!』
『マジかよ!? マジでやべぇやつじゃん!』
それはマジでヤバいネタだった。予想の数百倍以上はヤバい、会社の存続にすら関わるガチのスキャンダルであった。
しかし何よりもヤバいのは、これがコージの女性とのスキャンダルだということだった。
あのコージが女を連れ込んだだと? 高校時代にはあまりに女っ気が無さ過ぎて文芸部の腐女子に目を付けられたことすらあるコージが? そんなことあり得るのか?
ちなみにあの時は必然的に一番親しかった僕がカップリングに選ばれて巻き添えを喰らったのは苦い思い出である。思い出したら腹立ってきたな。腹いせに小杉からもっと詳しく聞いてみるか。
『相手の子ってどんなだったんだ?』
『メチャクチャおっぱいデカかったでござる。あとチラっと見えただけでござるが、恐らく金髪でござった』
『金髪ボインのねーちゃんか……アイツそんな趣味だったんだな、長い付き合いだけど知らなかったわ』
『いや、ねーちゃんでは無いと思うでござる』
『ん? ああそうか、未成年とか言ってたもんな。じゃあギャルか』
『ギャルという表現も……うーむ』
『あ、ギャル系ではなかったのか? 清楚系のJKとかそんな感じ?』
『そうではないでござるが。その女の子、身長からして恐らく小学生ぐらいのロリだったでござる』
『うん?』
おっ流れ変わったな。
僕の額に冷や汗が滲む。本当に社長がロリコンだったらそれはマジでヤバいのだが、今の僕は別の懸念事項で頭がいっぱいだった。
それはつまり、自分が当事者なのではないかという可能性である。
『そういや聞き忘れてたけど。それ、いつ見たんだ?』
『今朝の始業前でござる!』
ふむ。今朝の始業前の時間帯、社長が会議室に連れ込んだ金髪ロリ巨乳の小学生か。心当たりがありすぎる。ほぼ間違いなく僕だわ。だとすればとんでもない誤解だぞ。
とはいえコージが僕と同じような見た目のガチ小学生を連れ込んだだけだという可能性もまだ残されているので、決めつけるにはまだ早い。それはそれで色んな意味で嫌すぎるが。
『ちなみにどんな服装だった?』
なのでとりあえず判断材料を増やすため、小杉の見た少女がどんな服装だったかを聞いてみることにした。流石に白いケモ耳フードに赤いリュックを背負っていたと言われれば、それが僕だったと認めざるを得ない。
……しかし、その質問からしばらく待っても小杉から返事が返ってくることは無かった。
そして痺れを切らして返事を催促しようかと思っていたところ、メッセージの受信を知らせるファインの通知音が鳴った。
だがそれは小杉からの返事ではなく、コージからであった。
『小杉は仕事に戻らせた。司、お前は自宅待機なんだからしっかり待機してろ。というか病人設定なんだからあまり長時間チャットに応じるんじゃない』
それはあまりにも正論すぎた。正論すぎて反論の余地が一切残されていない。
うん、小杉あいつ結構な時間仕事サボってファインしてたからな。そりゃ社長に見つかったら怒られるわ。それに付き合ってた自称インフルエンザ療養中である僕も僕だが。
「よし、今度こそゲームしよ」
反省した僕はしっかりと自宅待機をこなすべく頭にゲーム機を装着する。先程は邪魔が入ったが、自宅待機中はゲームをしていて構わないというのが社長との取り決めなのだ。いわばこれが僕の職務である。
そして犠牲になった後輩や社長の危険なスキャンダルのことなど忘れて、今度こそゲームの世界へと意識を旅立たせたのであった。




