10. 新たなるギミック・温度調節機能
なにかと疲れたが、無事に買い物を終えて僕たちは帰路に着いていた。時刻はもう夕方、結局丸1日買い物に使ってしまった。
今は僕の家から最寄りの駐車場で車から降りて、みんなで荷物を運んでいるところである。
「それにしても、ドライヤーも良いのを買ったわね。これ細かい温度調節機能が付いてるやつでしょう? 髪に気を遣えるだなんて、すっかり女の子ね」
「いや違います。尻尾を乾かすのに欲しかったんですよ。今のドライヤーだと熱すぎるんで」
「あはは。あんちゃんすっかり狐だね」
「うーん……違うと言いたいけど否定できない……」
これは別に姪に言われたから否定できないというわけではない。単に正論だからである。普通の人間は尻尾の乾かし方とかに気を遣わないのだ。ていうか尻尾が無いし。
そんな他愛もない話をしながら夕暮れの空の下を歩き、やがて僕の部屋へと到着した。
適当に荷物を降ろしてもらい、僕は2人に改めて感謝を伝える。なんだかんだで様々な面で助かったわけだし。
「サラさん、今日は1日付き合ってもらってありがとうございました。しかも花村さんのお店の紹介とかもしてもらって」
「いいのよ。困っている女の子が居たら放っておけないもの」
「……それ僕にも適用されるんです?」
「うふふ、さぁどうかしら?」
悪戯な笑顔で微笑むその様子は、それでいて蠱惑的な大人の魅力に溢れていて少しドキッとした。
こういうところサラさんは綺麗で絵になるので、色々と反則である。僕は思わず目を逸らして、そのまま姪の方へと向いた。
「るぅちゃんもありがとう。るぅちゃんが僕の変化に気付いて動いてくれてなかったら、今日の買い物は無かったわけだし。本当に助かったよ。それに買い物も手伝ってくれたし、荷物も持ってくれた、あとクレープも分けてくれたり、それから……」
「多いわね」
「だ、だっていっぱい感謝することありましたし。他にも沢山あるけど……とにかく、ありがとう!」
「えへへー。どういたしまして!」
そう言って返してくれた姪の眩しい笑顔は、子供の無邪気さと可愛らしさをこれでもかと言うほどに詰め込んだ満点の笑顔であった。
そんな輝かしい表情を向けられた僕は思わず癒され、全身に活力が漲る。1日中買い物で歩き回った足の疲れも吹き飛んだ。体力全回復である。
やっぱり姪のかわいさは心身共に染み渡って最高だぜ。
「じゃ、そろそろ遅いし帰りましょうか。るなちゃんは私が送っていくわね」
「何度も運転してもらってすみません、るぅちゃんのことお願いしますね」
「ばいばーい! またゲームで会おうね!」
そしてサラさんに大切な姪を託し、玄関で見送って別れた。
最近はゲームの中で会っていたが、それでもやはり生の姪には叶わないものである。久しぶりに新鮮な姪成分を補給できてよかった。もうすぐ夏期休暇で実家に帰るのでその時にまた直接会えるが。
……ん? 実家に帰る? あれ? 僕今こんなんだけど帰って大丈夫なのか? 急にこの姿で帰ったら驚かれる……っていうかもしかして、僕だって言っても信じて貰えなかったりする? だとしたら結構ショック受けそうなんだが。
せめて親には事前に説明しておいた方がいいか……いやでも、どうやって説明しよう。電話やメールじゃイタズラと思われるかもしれないし……うーん……
「まぁいいか、そのうち考えよう」
どうすればいいのか分からなくなった僕は、思考を放棄した。未来の自分を信じて丸投げするスタイルである。柔軟な発想力に定評のある僕のことだ、いずれ名案を思い付くことだろう。
「よっし、気分転換に風呂いこ風呂」
というわけで、少し早いがバスタイムとした。夏のこの暑さの中でフードを耳まで被っていたせいで、駐車場から荷物を運んだだけで結構汗ばんでいるのだ。ちょうどいいだろう。
僕は買ってきたものを早速活用すべく、エコバッグからお風呂用品類を取り出して風呂場へと向かった。
そして一時間後、僕は若干のぼせ気味にリビングに戻って来た。
「ふー、さっぱりしたけどちょっと長湯しすぎたな……」
新しい品々の使い心地を確かめたり、今日の事を思い返しながら新品のアヒルを浮かべて遊んでいたら、いつの間にかかなりの時間が経っていたのだ。身体を洗うのに少し時間をかけすぎたというのもあるが。
いや、変な意味は無くてただただ新しいスポンジの使い心地がよかっただけなのだ。女の子用のちょっといいスポンジだと言って買わされたのが、思いのほかきめ細かくて肌触りが良かったのでついつい身体を洗うのが楽しくなっただけである。これは本当の話だ。
ともあれ温まりすぎた身体がまだ熱くて仕方ないので、一旦エアコンの風が当たるところまで移動する。一人暮らしの男に自宅で羞恥など感じようがないので、無論全裸である。ロリ巨乳狐娘のボディでもそれは変わらない。
「あー涼しい」
ガンガンに効かせた冷房が火照った身体に心地良い。風呂上がりの直風はあまり長時間やりすぎると風邪をひきかねない諸刃の剣なので素人にはオススメできないが、僕にはこれまでの経験から寒くなるギリギリの見極めが可能なので問題ない。
「へぶちっ!」
……と、思っていたのだが。
どうやらこの小さな身体は予想以上に早く冷えてしまったらしく、思わぬくしゃみに見舞われてしまった。この僕が限界を見誤るとは不覚である。
だいぶ涼しくなったのでこれぐらいで切り上げ、続いて今日買い換えたドライヤーで髪と尻尾を乾かすことにした。
流石は良い物を選んだだけあり、尻尾の乾燥は非常にスムーズであった。温風がちょうどよく調節できるため、毛量の多い尻尾を乾かすのに当てすぎても芯の部分が熱くなりすぎない。
もちろん髪を乾かすのにもこの機能は役立つし、高いドライヤーが売れるわけだ。
そうして髪も乾かし終えたところでおもむろに、まだほんのり暖かい髪を手に取って匂いを嗅いでみた。
「るぅちゃんと同じ匂いがする……」
そうだ、これだ。実家で姪がお風呂上がりに漂わせていた匂いだ。
何ならセミロングの長めな髪であるが故か、今朝だってまだ香りが残っていた。こういうとき自然に匂いを嗅ぎ取れる狐の嗅覚は便利である。
「あ、パジャマのズボンに尻尾の穴開けてなかったな……いやでももうちょっとだけ……」
思わず髪の匂いを嗅ぐのに夢中になってしまった僕は、途中で不意にやるべきことを思い出したものの。そんなこと今はどうでもいいかと、もうしばらく同じシャンプーの残り香を姪の匂いと重ねて堪能したのであった。
その光景は端から見れば全裸で自分の髪を嗅いでいるロリ巨乳狐娘という非常にマニアックなものであったが、端から見る他人がこの部屋にはいないので僕の中では全く問題はなかった。




