4. 服の事情
「……やっぱり、このままだよなぁ」
ゲームの中の仮想現実空間という夢から覚めた僕は、ベッドに横向きに寝ころんだまま体の方を見る。
そこにあったのは今までちょうどいいサイズだったシャツの胸以外がダボダボになっている少女の体、そして尻から生えた狐の尻尾。今朝の状況から何ら変わらない、紛れもない現実だった。
「まぁゲームしたからって解決するわけもないんだけどな」
とはいえ結局はゲームをしていただけなのでがっかりすることもなく、昼食の準備をするためゲーム機を頭から外して枕元に置く。ついでにベッド横に置きっぱなしだった手鏡を覗けばちゃんと狐耳の美少女が映り込んだ。
ちなみにこのヘッドギア、旧型だとヘルメット型だったので危うく狐耳では使えなかったところだ。そうなると姪とゲームで遊ぶ約束をすっぽかすことになってしまっていたので、新型のこの相撲の廻し型ヘッドギアを選んだ過去の自分を先見の明があったと褒めてやりたい。
「さて今日のお昼は、と」
棚を開けて、一人暮らしの定番メニューのカップ麺を取り出す。
選択肢はきつねうどんと天ぷらそばである。カップ麺の定番であるラーメンはちょうど切らしてるので無い。
「んー狐だし折角だからきつねうどん行っとくか……? いや何が折角なんだって話ではあるけど」
別に狐娘になったから油揚げが食べたくなったというわけではないのだが、折角なのできつねうどんに決めてポットからお湯を注ぐ。
「えっと待ち時間は、熱湯5分か。待ってる間に……こっちをなんとかするか」
僕は体を見下ろして問題だらけの現状に目を向ける。
胸だとか尻尾だとか色々あるのだが、今抱えている一番の問題は、服である。
「これが一時的な変化なら治るまで待てばいいけど、治らなかったら……はぁ」
もしもの場合を考えると気が重くなる。というかここまで劇的に体が変化すると、何事もなく元通りになれるとも思えない。
家に買い込んである食料品もそう多くないので、近々この体で買い物に行くことになるだろう。
そうなれば耳と尻尾を隠す変装に気をつけなければならないが、それ以前に外出するなら文明人としておかしくない格好でなければならない。今のダボシャツ&ノーパンなど論外である。ちなみにノーパンなのは尻尾が邪魔だからだ。
「とりあえず、姪には悪いが泊まりに来たとき用の服を借りるか」
そう思い立って姪用のプラスチック衣類ケースから着れそうな服を物色する。
姪が泊まりに来る頻度などたかが知れているのだが、やはり女の子なのでオシャレに気を遣うのかやたらと服のバリエーションが多く気付けば専用の衣装入れを設置することになったのだ。
「なるほどこれは……ふむふむこれもなかなか……」
誤解のないように言っておくと僕は決して姪の服に興味があるというわけではないのだが、自分が着るものだと思って吟味し始めるとなんともイケナイ気分になってくる。
いや、普段はそんなことはないのだ。そもそもこの家に置いてある姪の服を洗濯するのは僕である。しかしながら『姪の服を見る』のと『姪の服を着る』とでは天と地ほどの差があるのだ。
「一通り見てみたけど……とりあえずトップス? っていうのか、この辺は基本的に無理だな」
パーカーなどは前を閉めなければ着られるのだろうが、シャツなんかは無理だ。胸が入ると思えない。
セーターやニットならあとで伸びたのを謝る覚悟さえあれば着れるかもしれないが、今は7月下旬である。流石にこの暑さでは厳しい。
あと当然この最小サイズっぽいスポーツブラ的なやつも着られるはずがなくアウト、そもそも叔父が姪のブラを着けるというのが倫理的にアウトだ。
「自前のシャツなら着られるから、その上に姪のパーカーで誤魔化せば……いけるか?」
衣装ケース1個分とはいえ決して多くはない限られた衣類から可能性を切り開き、今の自分が違和感なく着られる自然なコーディネートを作り出す。気分はさながらファッションリーダーだ。
「上はとりあえずそんな感じにするとして、あとは下半身……できれば防御力の都合でズボンがいいけど」
こちらは見た感じサイズは合いそうだったので後回しにしていた。なのであとは実際に穿いてみて、いけるかどうかの確認だけだ。
「まぁ多少のサイズ違いぐらいは少し我慢すれば服を買いに行くための服にはなるし、最悪着られればそれでいいけど……ギリいけそうだな。いや、女物のズボンって男物よりピッチリしてるイメージあるしこれもこんなもんか?」
裾部分は大丈夫だった、あとはこれを上まで穿けるかどうかだ。この身体は胸こそバカみたいにデカいが尻は別にデカいわけではないので恐らく問題ないだろう。ほら問題な……問題あったわ、尻尾が邪魔で穿けない。あとついでに尻尾に関係なく尻周りも若干キツい気がする。
「くそっ流石に無断で借りてるズボンに勝手に穴開けるわけにはいかねーし……!」
恐らく尻が半分見えるような際どいローライズとかなら問題なく穿けるのだろうが、あいにくウチの姪は清楚系元気娘なのでそんな危ないファッションは所持していない。というかあったとしても僕が穿きたくない。
……こうなったら、かくなる上は。
「……仕方ない、ここはスカートにするしかないか」
理解不能な低防御力の腰布に頼るのは些か遺憾だが、穿けないズボンよりは穿けるスカートである。
意を決した僕は、姪のスカートを物色し始めたのだった。




