12. 【転生】獣人の試練
無事においしいニンジンを納品して大金を手に入れた僕たちは、獣人の村の村長の家を訪ねていた。レンガ造りで2階建の、他より少しだけ良い家である。
出迎えてくれたのは、当然のように頭にケモ耳を生やした初老くらいの男性である。絵面はキツイが恐らく彼が村長なのだろう。
「ほう、あなたが獣人になりたいという人間の冒険者の方ですか。私は『獣人の村の村長マカロン』と申します」
「名前かわいいなオイ」
「るなちーです! 獣人になりたくて来ましたー!」
「ほっほ、かわいらしいお嬢さんですな。我々獣人一同、歓迎いたしますよ」
精悍な顔立ちとギャップのある名前に思わず僕はツッコミを入れてしまったが、そんなことは意にも介さず村長のマカロンさんは姪へ向けて優しくにこやかに微笑んだ。無理もない、ウチの姪はかわいすぎるからな。見惚れてしまって他のことが気にならなくなるなんてよくあることだ。
「それにしてもまさか再び人間がこの村に訪れることになるとは。『街はずれの錬金術師ロバート』でしたか、人間の技術というのも馬鹿にできませんな」
「うん? ロバート?」
「誰それ?」
「誰だにゃ?」
「おや?」
ところが村長は、目の前の姪のあまりの魅力に目が眩んで幻惑してしまったのかいきなり変なことを口走り始めた。ロバートって誰だよ。
「ふむ……『始まりの街プリミス』の街のはずれで錬金術を研究している人間の男なのですが……彼の伝手でこの村の入り口を探し当てたわけではないのですかな?」
「ケントさん、知ってますか?」
「ワシも知らんな。サブクエストでもあったのか?」
僕たちは誰1人としてロバートに心当たりがなかった。
しかし当然のようにその名前を出してきて、あまつさえその名を知らないと言えば困惑するあたり、村長にとってはここへ来る人間が彼の関係者だというのは大前提だったのだろう。
つまりどういうことかというと、獣人の村を探すための正規の手順を辿っていた場合に一連のクエストの中でそのロバートに出会っていた可能性が大いに高い。
匂いを追ってくるのはもしかするとショートカット、あるいは裏技やバグ技の類だったのかもしれない。
「村長さん、そのロバートさんってどういう人なの?」
唐突に名前が出てきたロバートについて気になったのか、姪は質問を投げかけた。正直ロバートはもう関係なさそうなのでスルーでもいいかなと思うが、ここまで来たら僕も気になって来た。村長から最後まで情報を聞き出してみることにする。
「どういう人……ですか。難しい質問ですな。ただ1つ彼の人となりが分かるエピソードを挙げるとすれば、彼は3年前にこの村で獣人の研究をしていたことがあるのですが、女性の尻尾を勝手に触りまくる悪癖があったので村を出禁となりました」
「なにやってんの!? ただの変質者じゃねぇか!」
姪の何気ない質問に返って来たのは、思わずドン引きするようなロバートの人間性であった。あまりに予想外な返答に、流石の僕も初対面の村長相手に思わず激しいツッコミを入れてしまう。
そんな相手だったなら、尻尾のある僕は会わなくて正解だったかもしれない。流石にNPCがプレイヤーに対していきなり痴漢行為を働いてくるということはないだろうが、万が一ということもある。いくらゲームでも男に尻尾を触られるなんて御免である。
「あとは……風の噂では彼は最近は、人間種族を一時的に獣人化させて感覚ステータスを引き上げる『獣人化薬』の研究をしており、その材料を冒険者にクエストとして発注しているところだと聞いたことがありますね」
「にゃ、なんか獣人の村に関係してそうなクエストっぽいにゃ」
「その薬が完成したから一時的に獣人並みの嗅覚を得た人間がこの村のゲートを見つけるに至ったのかと思ったのですが……違いましたかな?」
「あっ……ふーん」
僕たちは察した。
そっか、普通はそのクエストをクリアしてから森を探索して匂いの痕跡を追跡するストーリーデザインだったんだ。僕とミィがなんか自力で匂いを辿れたからガン無視してきただけで、獣人の村に至るには色々と手順があったのだなと理解する。時既に遅いが。
「ありがとうございます村長さん、だいたい事情は把握しました。もう大丈夫です、そろそろこの子の転生クエストの方お願いします」
「おお、そうでしたな。では獣人の試練を始めると致しましょうか」
ロバートの事情は大方把握したので話を進めることにして、僕は村長に話を進めるよう促した。
本題に入ろう、姪の転生クエストである。
「それではこれから始める試練についてですが、まぁあくまで力試しですな。今からイベントマップに転送し、順番に何体かモンスターを出しますので、どこまで倒せるかが試練となります。推奨PT人数は1~4人、参加可能最大PT人数は4人。死亡してもデスペナルティはありません」
「急に説明口調になったのにゃ」
「ゲームだしな、こんなもんだろう」
どうやら運よく最大4人で挑戦するクエストだったようで、偶然にも今の人数がピッタリだった。推奨人数が1~4人となっている辺りソロでも問題はないのだろうが、人数は多い方が良いに決まってる。当初の予定通り僕と姪だけで来ていたら、戦力に不安があるまま挑戦することになっていたかもしれない。
とりあえず簡単なルール説明は聞いたが、僕にはいくつか分からなかったことがあるので質問しておくことにする。目標は曖昧なままにはしておくべきではないのだ。
「試練っていう割にはPTメンバーも戦闘に参加していいんですか? あと、たくさん倒すと何か良いことがあったりするんですか?」
「時には仲間の力を借りるのも大切なことですからな。この試練では4人PTまでなら参加に制限は設けておりません。それと、討伐数が多ければ転生できる種族に良い物が出やすくなりますので是非とも頑張ってください」
「おぉー。いっぱい倒せばいいんだ! あんちゃん頑張ろうね!」
「うん、全部倒そう」
「やってやるのにゃ!」
村長の話によると、倒せば倒すほど転生の結果が良くなるとのこと。もうその情報だけで、僕たちの士気は最高潮にまで達していた。我ながらチョロい士気だとは思うが、ゲームのプレイヤーたるものだいたいそんな感じである。
「それでは準備ができましたらシステムウィンドウより転送を承諾してください。未来の同胞に、ご武運をお祈りしていますよ」
「よーしっ! みんな準備はいい?」
「いつでもいいよ」
「まかせるにゃー」
「ワシも構わんぞ」
「それじゃあ転生クエスト……スタートっ!」
全員の準備が整ったことを確認し、姪がシステムウィンドウを操作して転送を承諾した。
その瞬間に僕たちの視界は一瞬暗転し、僅かなロード時間の後に森の中の木が開けた広場に転送されていた。ここが今回の戦場であるらしい。
【クエスト『【転生】獣人の試練』を開始します】
【STAGE1】
そして開幕を告げるシステムメッセージが流れ、僕たちは武器を抜いて戦闘態勢を取った。
「始まった! いっくぞーっ!」
「「「おーっ!!」」」
姪に合わせて掛け声を上げる僕とミィ。付き合いの長い僕ならともかく、いきなり打ち合わせも無しでこれに合わせられるとはミィもなかなかの順応性である。ケントさんはまだまだだ。
さてさて鬼が出るか蛇が出るか……などと期待半分、不安半分に敵の出現を待っていれば。
「……これは?」
「試練? ま、ステージ1って書いとるしな。こんなもんだろう」
「キュキューイ!!」
そんな僕の予想をどちらも裏切って現れたのは、1匹のファラビットだった。
「よゆーじゃん! ドンドンいくよっ!」
「ギュィッ!?」
しかしそんなものは障害にもならないとばかりに、姪が流れるように一太刀でファラビットを斬り伏せるとシステムログにはステージクリアと表示された。
その後は最初ファニービーやフォレストウルフなど雑魚敵を1体倒すだけのステージが入ったあと、雑魚敵が2体3体と徐々に増えて難易度が上がっていくのを感じる。僕たちは4人なので余裕だが、ソロだとそろそろキツくなってくるぐらいだろう。
と、そんなことを考えていたら次のステージが始まる。このクエストでは敵モンスターが出現する際に召喚エフェクトが先に出るのだが、今回は大きな召喚エフェクトの光が1つ。僕は素早くそれが意味するところを理解し、恐らく次はボスモンスターなのだろうと予測する。
そしてボスの風格を伴って威風堂々と出現したのは、僕たちも知るボスモンスター。鋭い目つきと鋭い牙、フォレストウルフの数倍はあるかという巨大な体躯に額の十字傷。それは僕と姪が初めて戦ったボスモンスター、草原エリアの生態系の頂点である『プレーンウルフ』だった。
「ガルルルルルァァァアア!!」
「ケント、アン! ぶちかませにゃー!」
「わかっとる! ≪ファイアボム≫!」
「≪狐火≫ッ!」
「ガァッ!?」
威嚇の咆哮が終わるのも待たずに、僕たちは遠距離攻撃で先制する。どちらも獣系モンスターの弱点である火属性だからなのか、敵のHPバーもガリガリと景気よく削れていく。いくら2人がかりだとはいえ今の攻撃でHPを6割以上消し飛ばしたあたり、僕の≪狐火≫もスキルレベルの成長により威力も上がってきているのだろう。
「かかれにゃ!」
「≪ソードスラッシュ≫!」
「畳み掛けるよ!」
そしてすかさず近距離勢による追撃が加えられる。僕も短剣を構えながら距離を詰め、MP等の節約のために近接攻撃で斬りつける。プレーンウルフはボスモンスターだが、このクエストのラスボスとは限らないのだ。次のステージがあるかもしれないので余力は残すべきだろう。
「よしっ!」
「やったにゃ!」
そのまま反撃を回避しながら物理による連続攻撃を叩き込んで押し切れば、プレーンウルフは討伐エフェクトの光となって消滅した。蓋を開けてみれば僕たちは無傷、それどころか敵にほとんど攻撃すらさせない完全勝利に終わっていた。
「やったねあんちゃん! いぇーい!」
満面の笑みを浮かべて手を掲げてきた姪に対し、僕も頭の上に手を挙げてハイタッチに返す。姪ほどではないが、僕もおそらく今は笑顔を抑えきれてないのだろうと自身の表情筋から感じ取る。
ケントさんどころかミィからさえも微笑ましく見守るような視線を感じるので、恥ずかしながらそういうことなのだろう。
笑顔の姪とのハイタッチで頬が緩まないはずがないというのもあるが、それを抜きにしても前回のプレーンウルフ戦ではなかなかにダメージも受けて苦戦したものだ。だというのに今回は余裕の勝利だった。PT人数が2人から4人に増えたとはいえ、それでも初撃の威力や終盤の削り速度、更には回避の成功率からも明らかに成長が見て取れる。
ゲームの上達やステータスの向上などは、こうして実感できると嬉しいものなのだ。思わず笑顔も零れるというものである。
まぁ僕のことなので実際のところは、姪とのハイタッチってだけで余裕で笑顔になるんだろうけど。
「あっ次のステージ始まるね」
「ん、さすがに終わりじゃなかったか」
案の定クエストはそれで終わりではなく、次のステージの開始へのカウントダウンが始まる。どこまで倒せるかという試練なだけあり、やはりまだまだ続きそうだ。こういう限界への挑戦は男心が揺さぶられてワクワクするし、まだ見ぬ強敵のことを思えば腕が鳴る。
「次はどんな敵なんだろ? 楽しみだねあんちゃん!」
「うん、頑張ろうねるぅちゃん。大丈夫、僕たちならやれるよ」
「ミィもやるのにゃー」
「ワシだっておるぞ」
かわいくて強くて頼もしい姪に加え、今はミィやケントさんといった仲間たちだっている。みんなで力を合わせれば、どんな試練も超えられそうだ。
そんな一体感がなんだか心地良くて、僕は思わず掛け声を上げる。
「よーしみんな、いくぞー!」
「「「「おーっ!」」」」
このクエストは、僕たちの戦いはまだまだこれからだ!
そしてフィールドに召喚エフェクトの光が現れ、僕たちの次なる戦いが始まったのだった。
※なんか打ち切りの最終回みたいになりましたが次回以降も普通に続きます




