2. 冒険のフィールドへ
色々あったが僕たちは無事に初心者向けのクエストもいくつか受けて街を脱出した。
街の外にはまず平地が広がっており、ところどころに林や茂みもあるものの基本的には歩きやすく戦いやすい地形となっているようだ。
とはいえまだ街を出てすぐのところなのでこの『始まりの平原』という狩場は初心者で混雑しており、あまりゆっくりと遊べそうには無い。
なので空いている場所へと移動することにして、ついでに一旦林の中に身を隠した。
「うぅ、まさかおっぱいがあんなに跳ねるものだとは……」
「あはは……ごめんね、あたしも知らなくて」
落ち込んで地面に膝と手をついたところでちょうどMPが無くなり、自動的に≪人化≫が解除されて耳と尻尾が出てくる。
林に隠れたのは慣れない視線に晒された心を落ち着かせるためでもあるが、ここでMPを回復させてから空いてる場所へと移動するためでもあった。いくらフィールドに出たと言ってもまだまだこの辺りは人が多すぎる大混雑狩場なのだ。
「両手で押さえれば走っても大丈夫……か?」
「んーどうなんだろ、やったことないからわかんないや。あたしのはそんなに揺れるほども無いし……」
僕のつぶやきに対して、姪は残念そうに自分の胸を見下ろしながら答えた。
そんな様子を見てハッと我に返る。どうして僕は姪におっぱいの相談をしているんだ、普通にセクハラでヤバいやつだぞこれ。話題を変えなければ。
「ま、まぁこの話はこの辺にしといて次の目的地の話をしようか。えーと『東の平原』だっけ?」
「そだね、出てくる敵はここと同じみたい。街からはちょっと遠いけど混んでるここよりはマシかなって」
そう言われて東の方を見てみれば確かにここよりかなり空いていた。
いくら混雑しているからといっても、この場所も空いてないわけではないので敢えて移動する必要も無いのだろう。
「じゃあもうちょっとでMPも回復するし、そしたら変装して一気に走って行こうか」
「でもあんちゃん大丈夫? また、その……揺れない?」
「今度は一応手で押さえて走ってみる。試してみてダメそうならすぐ歩きにするよ」
「そだね。じゃあそんな感じで!」
そんな風に作戦会議をしながら適当に休んでいたらMPが全快した。これでもう一度≪人化≫が5分間使える。
ちなみにMPの自然回復量は3秒につきMP1なので、90秒待機すれば満タンになる計算である。
「よしっ休憩終わり! いくよ、≪人化≫!」
そして僕は再び耳と尻尾を隠すスキルを使用した。一応軽く手で触れてキチンと発動していることを確認してから駆け足で林から飛び出す。もちろん両腕で抱えるように胸を固定するのも忘れない。
「おっこれは……作戦成功かな?」
「いいね、あんまり目立ってないんじゃない?」
フィールドに疎らに居るプレイヤーたちは、走っている子供を一瞬見る程度には視線を向けるもののそれ以上見てくることはなかった。どうやら腕で押さえながら隠していることもあってそれほど注目されなくなったらしい。
それから程なくして僕たちは目的地に到着した。
移動速度ボーナスが乗る街道の上をスタミナが許す限り走り続けて、街からかなり離れたところまで来たので人も少ない。
「あっMPなくなった。まぁ、ここまで来ればもう大丈夫かな?」
「だね、全然人いないし。じゃあクエストの『ファラビット30匹の討伐』、さっさと始めよっか」
「ファラビットって……あれのこと?」
「うん、あれ」
スキルが解除されて狐耳と尻尾も出てきたところで、そろそろ討伐クエストに着手することにした。
ターゲットは『ファラビット』。額に小さな突起のような角があり、背中に星のマークが付いたファンシーな白いウサギである。今は目の前でキュイキュイと鳴きながら草を食べている。ここまで来る道中にも散々見てきた、というよりまだ他のモンスターを見てない。
「見ててねあんちゃん! あたしやるからっ! えいっ! とうっ!」
「ギュィーッ!?」
「ああっウサギが!」
姪は腰に差された初期装備の剣を抜くと早速近くのファラビットに斬りかかり、素早く2回斬りつけて倒してしまった。
「いえーい! どう? かっこよかった?」
「ハハハ……うん、るぅちゃんかっこよかったよ」
倒したファラビットは光の粒子となって消えていった。このゲームは全年齢対象なのでスプラッタな表現にならなかったのはよしとしても、女子小学生が嬉々としてウサギに斬りかかるのは絵面的に如何なものかと思う。
「意外と簡単だったよ。じゃあ次あんちゃんね、がんばって!」
「あっ……ああ!」
かわいいウサギと戦うのは気が進まないが、もっとかわいい姪に期待されたからには応えないわけにはいかない。僕は覚悟を決めて次のファラビットに相対した。