23. Sランク特別報酬
「よし、これで終わりっと」
迫りくる全ての敵を打ち倒し、見事に街を守り抜いた僕たち。
最終的に10分ほどの時間であったが、経験値だけ見ればフィールドでの狩りと比べて数倍は効率がよかったと思う。その分ゴルやアイテムのドロップは無かったが。
「俺たちはログインしてたから構わんが、参加できなかったプレイヤーからクレームが来るレベルの美味さだったな」
「あー、確かにそれはあるかも」
「大丈夫よ、参加してなきゃこの効率は分からないわ」
「なるほどー! サラさん頭いい!」
すっかりお疲れ様ムードになっていると、街の方からまたNPC兵士が走ってきた。開始時の説明と同じく、新兵のエリックだ。新兵だって何人かいるだろうに、毎度走らされる彼は一体何なのだろうか。
「ファラビットの迎撃作戦、ご協力感謝致します! 今回は外壁への被害ゼロということで、成功評価はSランクとして特別報酬が出ております! どうかお納めください!」
なんとこれだけ経験値を貰った上に、追加で報酬まで貰えるらしい。至れり尽くせりとはまさにこのことか、などと感服しているとインベントリに特別報酬アイテムが放り込まれた。
『ニンジン』
栄養豊富なオレンジ色の緑黄色野菜。
独特な風味と甘味があり、栄養を豊富に含む。
品質:A
「えっニンジン……? これが特別報酬……?」
それは紛れもなく見慣れた根菜だった。初めて参加した防衛線の報酬は、どこにでもあるようなニンジンが1本であった。
しかもこれ説明文の中に栄養豊富って2回も出てきてるし。他に書くこと無かったのか?
「コイツらは労働者への対価を舐めているのか……? こんなものが報酬としてまかり通るなら世の経営者は苦労しないんだが?」
「ま、まあまあ。いいじゃない、どうせ経験値だけでも満足してたんだから。……それにしても本当にニンジンね」
「ほりぇなふぁなふぁおいひいよ」
「コラるぅちゃん、お行儀悪いから食べながら話さな……えっ食べてるの? イベントの特別報酬を? 生で?」
僕たち大人組が報酬の野菜に困惑している中、子供である姪はそんなことはお構いなしとばかりにニンジンをポリポリと齧っていた。口いっぱいに頬張って咀嚼する姿は非常に愛らしいのでスクリーンショットを撮影して姪フォルダに保存しておく。
「ちょ、ちょっとるなちゃん? 生はマズイんじゃないかしら?」
せめて調理してから、などと続けるサラさんは完全に混乱していた。コージもフリーズしてしまっている。
だが無理もない、ゲーマーとしては使い道の分からないアイテムでも考えなしに使うなんてことはありえない。ましてや特別報酬などと言われて受け取ったものならば、何かしら意味があるはずなのだ。無かったとしても記念品として取っておくものだ。
それはそれとして今のサラさんのセリフ、ちょっと別の意味に聞こえるな……生はマズいだなんて、健全な男子の僕としては――
「むぐぅっ!?」
「ね? おいしいでしょ?」
そんなことを思案していたら唐突に、姪にニンジンを口の中に突っ込まれた。細い方から半分ほど食べ進めてあったのでほどほどに太く、それなりに深く突っ込まれたので無理矢理に口を押し拡げられる。
……はっ!? これはいくらゲーム世界だとはいえ間接キスなのでは……!? いや、姪から僕への間接キスならまだいい。まだ幼い姪が食べきれなかったものを代わりに僕が食べるなんてこと、この10年で何度もあったので慣れたことだ。
だが今はどちらかというと逆の方が問題だろう。多分これは一口くれたぐらいのことだと思うのだが、一口というには多く、また生のニンジンは思いのほか堅い。噛み切れないので一旦口から離して少しだけ齧りたいところだが……それをすると僕の唾液でベタベタのニンジンを返すことになる。おいしいからと自分の分を一口分けてくれた姪に対して、そんな恩を仇で返すような真似はできない。
「ちょっ……るなちゃん? そんなに一気に奥まで入れるのはどうかと思うの」
「今のアンの見た目だと絵面がヤバいことになってるな……」
「ていうか、太くて堅すぎるんじゃないかしら? アンちゃん噛めてないわよ?」
「あ、そっかぁ! ごめんね!」
マズい! サラさんがエロいこと言いながら説得してしまったせいで姪が納得してしまった! このままでは口から抜かれてしまう……!
「ほらあんちゃん、一回抜くから噛むのやめて」
「ふぎぎぎぎ……」
「食い意地が汚いぞアン、それ噛み切るのは無理だから一旦離せ」
くそっ、コージまで敵に回ってしまった以上いくら僕が意固地になっても論破されるのは時間の問題だ。多少強引だがここで一気に勝負を決めるしかない。このまま噛み切る! うおおおおお!!
「ふんっ!!」
「わっすごい、噛み切った」
「無駄に気合で押し通したな。口の中いっぱいいっぱいになってるぞ」
「どうあんちゃん、おいしい?」
「……うぉいひい」
流石はイベント特別報酬というだけあって、そのニンジンは中々の上物だった。まだ上手く咀嚼できていないので口の中には噛み切ったニンジンの塊がほとんどそのまま入っている状態だが、それでも断面から沁み出した甘味と風味の良さで分かる。
なんというか、食レポとか苦手なのであまり上手くは言えないのだが……強いて言うなら栄養が豊富そうな味であった。




