19. その男、誤魔化せない
ビジネススーツを着こなしたその男は、威風堂々と平原に革靴で立っていた。後ろに控えているのは良家のお嬢様のような金髪縦ロールの美しい女性だが、それでも僕の親友の男は彼女にも負けないほどの存在感を放っていた。
「あっ! 社長のおじさん!」
僕の後ろに隠れていた姪も頼もしい助っ人の出現に目を輝かせる。やはりこういう場面では大人の男という見た目は非常に頼りになるのだ。僕としても、この非常に頼りない見た目になってしまった今ではコイツの登場は非常にありがたい。
ちなみに社長というのはコージの高校時代からのアダ名の1つである。僕が度々そう呼んでいたら姪までマネして使い始めたのだ。そのため社長というのは現役のアダ名である。もっとも、実は彼は現実でも本当に社長をやっているのだが。
「これで4人だな。行こうか、瑠奈ちゃん」
「うんっ!」
どうやら姪を助けに来てくれたらしい。こんなところにもう用はないとばかりにコージが姪の手を引いてナンパ男たちの巣窟から抜け出し、僕とお嬢様風のお姉さんも黙って後についていく……が、途中でふと重大なことに気付いた。何コイツ勝手に人の姪の手握ってんの? お前それセクハラじゃねぇの?
そんなことを考えながら、流石にここからの逆転は不可能だと諦めて解散する男たちから少し離れたところにまで移動した。途中、前を歩くコージと姪が楽しそうに話しているのを傍目に、僕の隣を歩くお姉さんが「怖くなかった?」「もう大丈夫よ」などと子供扱いして心配してくれるのを適当に生返事で受け流すのは心苦しかったが、とりあえず危機は去った。姪にも何事もなかったのでこれで一安心だ。
「ふぅ、助かった。いやーありがと……ぅ、ございます」
そんな気の緩みからかつい普段の口調と普段の距離感で話そうとしてしまったが、よくよく考えれば今の僕はコージに取っては見知らぬロリ巨乳狐娘である。
ましてや僕としてもこんなアバターでゲームをしてることが発覚してしまえば、リアルの体もこの姿になっているなどという苦しい言い訳が通用するはずもないので、間違いなく『バグを利用して性癖全開のアバターで遊ぶ変態ロリコン野郎』の烙印を捺されてしまうことだろう。コージには既に僕の性癖などだいたい知れ渡っているが、だとしてもそれだけは阻止しなければならない。
なのでなんとか初対面の少女を装った言い回しに修正してみたの、だが。
「……なんで敬語なんだ? というかお前、キチンと瑠奈ちゃん守らないとダメだろ。姪っ子に悪い虫は寄せ付けないんじゃなかったのか? どうなんだ、司」
「あああああっ! なんで分かるんだよお前!?」
「すごーい! よくあんちゃんだってわかったね!」
誤魔化そうとする努力も虚しく、あえなく僕の正体は幼馴染でもある親友に見破られてしまった。バカな、どうしてバレた? 見た目も元の姿とは全然違うし、中身のボロが出るほど話してもいないはずだ。
「どうして分かったって。いくつか理由はあるんだが、まずはメッセンジャーアプリの『ファイン』だよ。このゲームのチャットと連携して使ってるだろう? あれな、連携したらファインの友達リストから同じく連携してるプレイヤーの情報が検索できるんだよ」
「えっ……マジで? 個人情報筒抜けじゃん……!」
「とはいえ検索できるのは所在マップ名だけだ。今回の場合は『東の平原』ということだけが分かった。それとこの機能は設定画面から検索されないようにできるから設定しとくといい。コンプライアンスは重要だぞ」
「なるほど。早速やっとこう……」
社長直々にコンプライアンス教育を受けた僕は早速設定する。これ以上知り合いにこの姿を見られるわけにはいかない。
「それで、だ。この『東の平原』に司がいると分かったから探していたら、瑠奈ちゃんと知らない子供が男たちに絡まれているのを見つけた訳だが……あれだけ今日姪と一緒にゲーム世界で遊ぶのを楽しみにしてた司が側にいないはずがない。だから瑠奈ちゃんの隣にいるのは、どんな姿であれお前だと確信できたわけだ」
「なるほど……! すごく納得できる理由だ……!」
つまり僕の姪への愛が隠しきれないほど強すぎてバレバレだったというわけか。
だからといって見知らぬロリ巨乳狐娘の正体を知人の三十代男性だと断定するのはよっぽどぶっ飛んだ思考回路を持っていないとそうそう出来ることではないが。
そんな親友の名推理……もとい姪推理に驚いていると、ここまで話についてこれなくて聞きに徹していたお嬢様風のお姉さんがおずおずと口を開いた。
「ねぇ、これまでの話聞いてる感じ……もしかしてその子って、天城瑠奈ちゃん?」
「ああそうだ、司の姪っ子だな」
「ん、あたしのこと知ってるの?」
ふと嫌な予感が胸をよぎる。
僕の姪のことを知っているが、瞳カラーを黄色にしている以外はリアルと同じ姿のアバターでやっている姪を見ても本人だと分からない……つまり誰かから聞いた話によるものである可能性が高い。
そしてコージが補足した、僕の姪だという情報。それはすなわち僕のことの方がよく知っているというわけで……
「じゃあ、さっきから社長が司って呼んでるこの子ってまさか……司くん、だったりするのかしら?」
「……司くんって、その呼び方……もしかしてサラさん?」
変な誤解が生まれないようにするためにも、なるべく知り合いにこの姿でゲームしてることを知られないようにしようなどという想いはあっさりと裏切られて。
僕はこの時、綺麗なお嬢様風の金髪お姉さんが職場の同僚の女性の渾身の力作アバターなのだと気付かされたのだった。




