18. じゃあ4人組作ってー
「えっ? 急になんだ……?」
「わっ……なになに!? イベント!?」
それは突然のイベント告知だった。今日から始めた僕たちにとっては当然初めてのイベントだ。他のプレイヤーも多くは同じ状況だろう。僕も姪も、急にやって来た未知との遭遇にワクワクが隠せない。
【開始時間になると『始まりの平原』などの平原エリアにいるPTが自動的に特設イベントマップに転送されます。参加希望者の方は奮ってお集まりください。推奨PT人数は4人前後です。デスペナルティ―はありません。】
「……4人前後?」
だがその告知の中に気になる一言があった。推奨PT人数4人前後とは、2人でも大丈夫なのだろうか?
そもそもサービス開始直後でフレンドやPTを組んでいないプレイヤーだって多いだろうと思うのだけど、なぜPTを推奨するのか。
気になるその答えは、周りを見渡してみれば分かった。
「どうするあんちゃん、他の人もPT誘う?」
そう、周りではちらほらと居たソロプレイヤーたちが集まって野良PTを組みつつあったのだ。もしかするとこのイベントでの即席PTを機にフレンド登録、なんてこともあるかもしれない。きっと運営はこれを狙って初日からPT推奨イベントにしたのだろう。
しかしそれはいいのだが、そうなってくると問題が出てくる。
「4人ぐらいで組めるならその方がいいんだろうけど……ちょうどいい人、いるかなぁ」
なにせここは出現モンスターも採取アイテムも『始まりの平原』と変わらないのにわざわざ数分かけて移動したところにある『東の平原』である。人は疎らでそう多くはない。
そんな少ない人数の中に、都合よく女子小学生らしき2人組とPTを組んでくれる人はいるだろうか。ゲームなので体格によるステータス差などは無くても、それでも精神的・技術的な面などで大人の方が頼れるはずだ。
かといって言い寄ってくる大人がいてもロリコンである可能性が高いし……正直、そんな危険な相手を姪と関わらせたくはない。
そんなことを考えていたら、何組かの人数不足なPTやソロプレイヤーが周りから近付いてきた。
どうやら姪のあまりのかわいさに、蛾が灯りに引き寄せられるが如く誘き寄せられたらしい。決して僕の方を目当てにしているわけではないと思いたい。
「嬢ちゃん、俺たちとPT組もうぜェ!」
「君良い装備を着てるね、強そうだしお兄さんと組んでくれないかい?」
「その耳と尻尾について教えてくれたら我々のPTに入れてやっても良いぞ」
「君たちかわいいね、どこ住み? てか邪淫やってる?」
ライバルに先を越されないようにと焦ったのか、一斉に声を掛けてくる男たち。その異常な圧に気圧されて、姪は思わず僕の小さな背中に少し隠れた。
「あわわわ……あ、あんちゃん、どうするの……?」
「心配しないで、るぅちゃん。この人たちとは組まないよ」
僕のその言葉に何人かは不機嫌になったものの、だからといってPTを組んでやる謂れはない。
まず最初に声を掛けたチンピラ風の男とそのPTメンバーたちの3人組は、ここに近付く途中で僕たちをエロい目で見てるような話をしてたのが聞こえたので恐らくロリコンだろうし却下。狐耳の聴力は誤魔化せない。
次に声を掛けてきたソロの男は、一切ブレることなく僕の胸に視線を送り続けているのが気持ち悪いので却下。気持ちは分かるので多少は許すがバレバレにしてもせめてチラ見にしてほしい。
あとの2組は言わずもがな論外だし、ここは野良PTなんかに頼らず2人でやるのが正解だろう。プラスマイナス2人程度ならギリギリ4人前後のPTだと言えなくもないはずだ。
「そんなこと言わずによォ、お兄さんたちと遊ぼーぜェ? ついでに情報交換とかもしながらよォ」
「僕たちもうPTは組んでるので。他を当たって貰えますか?」
「つっても2人だろ? 俺たちと組んだ方が楽になるぜェ?」
「だから組みませんって」
「んだとォ?」
「やめないか君、その子たち困ってるじゃあないか。ほら君たち、お兄さんがPTに入って守ってあげるから一緒にやろうじゃないか」
「チッ、良い奴ぶりやがって」
「PTを組まなくても別にそのケモ耳装備のことを教えてくれれば我々はそれでいいぞ」
「ねぇどこ住み?」
厄介な奴らに絡まれたものだ。男にナンパされるのがこれほど厄介だとは。元の姿であればこんなことにはならなかったのに……
しかし面倒だがここは何としてでも追い払わなければならない。百歩譲ってソロの男は僕の胸を凝視してくるだけで人間性も比較的マトモそうなので実害は少ないが、だとしても姪はコイツらを怖がっているのだ。叔父である僕がそれを許容するはずもない。
どうやって追い払うべきか、そう考えている時に後ろから新たに2人近付いて来た。
これ以上敵が増えるのは正直勘弁してほしいなどと内心ぼやいていたのだが、しかし彼らから掛けられた一声が天よりの救いの手となって差し伸べられた。
「こんな所にいたのか、探したぞ」
「えっ?」
聞き慣れたその声に思わず振り返ってみれば、そこにいたのは剣と魔法のファンタジーな世界観を丸々無視したかのようなビジネススーツを身に纏った長身の男。
後ろに控える綺麗な女性には見覚えが無いが……僕たちのピンチに満を持して登場したそのスーツの男は。安心感すら覚えるほどに見慣れた僕の親友、本堂弘治だった。




