1. ロリ巨乳狐娘はかなり目立つ
ここまでのあらすじ。朝、目が覚めたらロリ巨乳狐娘になってた。
なので全ての問題を未来の自分に押し付けて新作ゲームにログインし、チュートリアルクエストを姪と一緒に楽しんだところである。
今はとりあえず当面の拠点となるこの『始まりの街プリミス』を探索してみることにした……のだが、1つ問題が発生した。
「なんていうか、目立つね」
「うん……なんかごめんね」
「あ、あんちゃんは気にしないで! 責めてるわけじゃないから! だってこんなにかわいいんだから仕方ないじゃん!」
そう、僕のこのロリ巨乳狐娘なアバター、ひたすらに目立つのである。とにかく人目を集める。
音がするたび反射的に動いてしまう耳、ふわりふわりと揺れ動く尻尾。サービス開始直後なので周りもみんな初期装備である中、こんな目立つ見た目は無い。僕だって二度見するだろう。
そして何よりこの巨大な胸。人間として規格外というわけではないのだが、お椀をくっつけたかのようなこのサイズは体格からすれば充分規格外である。恐らく姪レベルの平らな胸からではアバターを弄っても骨格制限に引っかかって作れないであろう大きさなのだ。
それ故さっきから、すれ違う男からの今まで感じたことのないような角度の視線をいくつも感じるのである。世の女性は街を歩くだけでこんなにも……これはなかなか精神的に来るものがあるな。
「ねぇ、るぅちゃん。ちょっと向こうの路地裏っぽいとこ行かない? 一旦人のいないとこで落ち着きたいんだけど」
「ん、いいよ。ずっと見られてたら気疲れしちゃうもんね」
流石にここまで注目されると居心地が悪い。ひとまずこの状況をなんとかすべく作戦会議でも開きたいが、往来の真ん中で見られながらというのも嫌なので、一旦隠れることにした。
サービス開始直後ということもあって多くの人が行きかう始まりの街の大通りを離れ、人目に付かない暗い路地裏に姪を連れ込む。元の姿だったら通報されたかもしれない。
「ふぅ、ようやく落ち着いた。こんなに見られたのは初めてだよ……」
「かわいいから仕方ないとは思うけど、だとしても見すぎだよね。いっそちょっと残念だけど、街の中にいるときだけでも外す? その耳と尻尾の装備」
「あーそれなんだけどね」
姪の意見はもっともだった。装備なら外せばいい、それは少し考えれば簡単に思いつくことだ。
だが少し待ってほしい、これは現実世界でも僕の体から直接生えているのである。つまりこれ、装備ではない。アバターにとっても同じことで、普通に体の一部なのだ。
「残念ながらこの耳と尻尾は装備じゃないから外せないんだ……」
「装備じゃないの? まぁバグアバターだし仕方ないか。でもさぁ、それならもうどうしようもなさそうだけど」
「大丈夫、多分なんとかなる……かもしれない」
そう言いながらもなんとか出来ることを祈りながら僕は目の前の空間に半透明のメニュー画面を開き、MPを消費して発動する技能である『アクティブスキル』の項目を開いた。
「何見てるの? アクティブスキル? でもまだ何も習得してないんじゃ……あれっ何個かある?」
横から僕の画面を覗き込んだ姪がかわいらしく首を傾げる。心なしかいつもより距離感が近く感じるのは、これが女の子同士の距離感というものなのだろうか。……いや普段から僕のスマホを覗き込む時とかもこれぐらいくっついてくるのは普通だった気もするな。この子は男に対してノーガードすぎるのが心配になる。
まぁその話は置いといて、とにかく先程のチュートリアルで気付いたのだが、何故か僕にはゲーム開始直後からスキルがあったようなのだ。恐らくこの体をゲームが誤認識でもしたのか、クエストか何かで獣人になるのが条件であるスキルなどを取得してしまったのだろう。
「今あるアクティブスキルは≪獣化≫、≪人化≫、≪狐火≫の3つ。この≪人化≫とかそれっぽいなと思ったんだけど」
「確かに名前的には人間になれそうだけど、えーっとなになに?」
僕と姪は一緒にステータス画面を覗き込み、目星をつけたスキルの説明文をよく読んでみる。
≪人化≫
消費MP:10
人の姿に化ける。各種ステータスにマイナス補正がかかってMPが自然回復しなくなり、15秒毎にMPを1消費。
または≪獣化≫の効果がある場合はそれを解除する。
「結構がっつり変装用のスキルだった。今の僕のMPは30だから、そのままなら最初に10消費したあとの残り20を15秒に掛けて合計300秒で……5分だけか」
「ずっと使えないのは残念だけど、まぁ人通りの多いところを移動する時だけでも使えるのはいいんじゃない? ……それにずっと使えちゃったら折角のケモ耳がなくなるわけだしあたしとしても……」
「ん? るぅちゃん最後の方なんて? ちょっと周りがうるさくて聞こえなかった」
「あ、なんでもないよただの独り言! じゃあこのままクエストボードの近くまでは路地裏通って行っちゃおっか」
「あーそうだね。クエストボードから街の出口までが一番人多いみたいだし、とりあえずそこで使おっか」
なにはともあれ希望は見えた。あとはキチンと効果を発揮して、耳と尻尾が隠れることを祈るだけだ。
僕たちはチュートリアルで手に入れた街のマップを頼りに、人通りの少ない路地裏を通ってクエストボードの方へと向かった。
しばらく進み、たまにすれ違う通行人には驚いた顔をされたが流石に人通りの多い場所ほどしっかりと視線を向けられることはなかった。
どうやら人混みの中でその内の1人を見るのとでは随分とハードルが違うらしく、せいぜい二度見かチラ見程度で済まされる。これは路地裏さえ通れば結構普通に動けるかもしれない。
「この先の角を曲がった先ぐらいだよね」
「うん、そろそろスキル使っとこうかな」
かくして無事に第1の目的地付近まで辿り着いた僕たちは、変装のために一旦立ち止まった。
「いくぞ……≪人化≫!」
そして僕は音声認識によってスキルを発動する。
選択されたスキルをシステムが識別して、その発動手順を模したかのように体の中に魔力のようなものが動くのを感じる。なるほど五感だけではなくそれ以上のファンタジーな感覚さえも再現するとは、流石の最新ゲームだった。
ちなみに音声認識とはいえ発動させる意思がなかったら発動しないので、会話の中などで暴発しない安心設計である。
「どう? るぅちゃん、ちゃんと変わった?」
「うん、バッチリだよあんちゃん。これなら目立たないし大丈夫!」
念のために頭と尻に手をやってみれば、耳と尻尾はキチンと消えていた。
「じゃっ時間もないしクエストボードまで競争ね!」
「あっるぅちゃん!? 走ったら危ないって!」
それを確認するや否や、姪は僕の手を引いて笑顔で走り始めた。
こんなこといくら妹のようで親しいからといっても年頃だからなのかここ数年はされなかった気がするので、つい友達感覚でやったのだろうか。
そう思うとなんだかこの子との距離が近くなったような気がして、少し嬉しくなった。
……この体も、案外悪くはないのかもしれないな。姪と遊ぶ分にはという但し書きは付くが。
ちなみに人通りの多いところを走った結果、子供の体格の割にやたらデカい胸が上下にバルンバルンと跳ねまくって結局目立ちまくった。
そのあとは羞恥心からずっと俯いてたので街を出るまでのことはあまり覚えていない。