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1. 街中で水着は落ち着かない


 家族(と何故かついでにコージ)で焼肉に行った翌日。

 僕たちはLRO(ゲーム)にログインして、海エリアの島の内陸にある森を再び進んでいた。


「とうちゃーく!」

「やっと戻ってこれたのにゃ」

「ほーん、ここが港町なんやね」


 昨日はこの街でログアウトしたので、今日のゲーム開始はこの『海辺の街チェバー・シー』だったのだが。何故また森を抜けてやってきたのかといえば、パーティーメンバーの変更が原因である。

 前回は僕と姪、それからミィとケントさんの4人だったからな。きらりん()が一緒に遊ぶことになった結果、また森を踏破する必要が出てしまったのだ。まぁ今回は特に強敵も出なかったので、別にいいのだが……


「それにしても変な気分やったね、水着で森を歩くって」

「だよね、リアルじゃできない体験って感じ!」

「まぁ海エリア限定ボーナスとはいえ、なぜか防具としての性能が無駄に高いからね」


 ちなみに今回も、性能重視で全員が水着着用である。道中となる森の中に『全耐性バッファロー』のような強敵が潜んでいる以上、最強装備を着る以外の選択肢は無い。

 なお、着ている水着は前回と同じ。姪が明るい花柄のセパレートタイプ、僕が不本意ながらフリフリのついた黒いビキニ、ミィが白いスクール水着、それからきらりんが薄桃色のワンピースタイプの水着だ。

 やはりというか、当然のようにかわいい系の水着を選んでいるきらりん。もちろん似合いはするのだが、中身の実年齢などを考えれば少々キツいチョイスだと言えなくもない。まぁそれについては僕も同じようなものなのだが。


「でも街に着いたんやったら、もう戦闘も無さそうやね。そろそろ服着とこか」

「あー、それなんだけど……この海エリア地域って、普通の防具には着替えられないみたいなんだよね。入ってきた時からずっと通常防具でいる分には問題ないらしいんだけど」

「ん、そうなん?」

「ホントだ! いつもの装備に変えれなくなってる!」

「にゃ? わざわざ弱い方の防具に戻さないから気が付かなかったのにゃ」


 この辺はもうビーチでもないし、水着でうろつくのも変だろうから服を着よう。

 そう考えるのはある意味当たり前のことだと思うのだが、しかし運営はそうは考えなかったらしい。

 そのお陰で、すれ違う他プレイヤーたちもほとんどが水着姿で港町を歩いている。なんとも奇妙な光景だ。NPCは普通に服着てるのに。


「昨日ここに着いたときも、まずは最初に普段の装備に着替えようと思ったんだけどね。まったくバグなのか運営の変なこだわりなのか……」

「ん、でも水着のあんちゃんもかわいいよ? 別にこのままでもよくない?」

「それはまぁその通りなんだけど。ただ僕の場合、胸が目立っちゃうから……」

「あー」


 姪は別に着替えられないなら構わないと思っているようだが、ロリ巨乳狐娘たる僕の場合はそうも言っていられない。

 なにしろ水着などという露出の多い装い、ましてや僕のはフリルがついているとはいえ所詮はビキニタイプ。大きな胸を隠す気などさらさら無いようなストロングスタイルのデザインであり、惜し気もなく(さら)け出された谷間が道行く人々の視線を集めまくるのだ。

 いくらゲームの中とは言っても、男たちからエロい目で見られるのは精神的にキツイものがある。僕が生まれながらの生粋の女であったとしても同じ感想を抱いただろうけど、元が男だっただけにその嫌悪感も一際(ひときわ)大きいのだ。姪が直々に選んでくれたものでなければ、確実にこんな水着を着ることはなかっただろう。


「あ、それじゃあさ。水着の上から何か羽織(はお)るってのはどう?」

「僕もそれは考えたんだけど、水着以外の防具は単体でも装備できなかったんだよね。せめて『レザーベスト』が装備できてればよかったんだけど……」

「そうじゃなくて、ケントさんとかが着てたようなやつなら着れるんじゃない? ほら、ちょうどあそこにいる人が着てるようなの」

「ああー、アロハシャツ! そっか、その手があったか!」


 と、そこに姪が名案を出した。

 なるほど、アロハシャツとは盲点だった。確かにそれなら水着売り場に売ってたぐらいだし、本来の分類はともかく、システム上は水着扱いかもしれない。実際ケントさんだって、普段着から着替えた結果がアロハシャツだったしな。水着も一緒に着用していたとはいえ。


「とりあえず……試してみたいけど、そうなると水着売り場があるデパートまで戻らないといけないか。流石に時間がかかりすぎるし、買いに行くのは後回しかなぁ。アロハなら着れるって確証も無いし」

「んー、ケントさんがいたら詳しく聞けたのにね。それに借りてみて試せたかもだし」

「せやね。ミィちゃん、今日はお兄さん来てへんの?」

「ケントなら今頃は病院なのにゃ」

「えっ病院!? それって怪我か病気ってことだよね? 大丈夫なの?」


 そんな今は居ない人の話をしていたところ、これまで聞いていなかったケントさんの欠席の理由が明らかとなった。事情を聞かされてすぐに心配できる姪は、相変わらず優しくて良い子である。

 まぁ確かに、ミィだけ1人でゲームやってるのはなんでだろうとは若干思ってたけど。割といつものことだし普通にスルーしてたわ、まさかそんな大事(おおごと)になってたとは。


 ミィの言葉を聞いた僕たちはそんなことを考えたのだが、話の続きを聞けば実際にはそうでもないようだった。


「別に大したことじゃないのにゃ。ただの定期健診にゃ」

「ああ、なんだ定期健診か」

「ていきけんしん?」

「自分自身が健康だと思ってても、たまに病院で診察を受けに行くことだよ」

「せやね。病気も症状が出る前、早期の段階で発見できたら治療も楽やからね」

「なるほど!」


 うん、マジで大したことじゃなかったな。驚かせやがって。姪の心配を返せ。できれば僕に。

 ただまぁなんにせよ、ケントさんのことは心配する必要は無さそうなのでなによりである。

 これで気兼ねなく引き続き、姪のことだけを考えていられるというもの。水着売り場に姪に似合うアロハはあるだろうか。


「あっ! あんちゃんアレみて!」

「うん? るぅちゃん、どうしたの?」


 そんな時、姪が何かを見つけたようだった。

 かわいい指先が指し示す方を見てみれば。そこには3人組の、女子高生くらいの女性プレイヤーたちが歩いていた。

 その子たちも例外なく水着を着用していたのだが、しかし僕たちとは決定的に違うところがあった。


「水着の上に服を着れてる……?」

「もしかしたら、なにかやり方とかあるのかも! あたし聞いてくるね!」


 そう、彼女たちが身に付けているのは水着だけではなかったのだ。

 ビキニの上に薄手のパーカー、スクール水着の上に丈の短いセーラー服(ただしスカートは無し)、ウェットスーツの上にライフジャケット。最後の1人は装備がガチすぎて判定に迷うところだが、とにかく全員が水着の上から何らかの重ね着を身に付けているのは確かだった。


 そんな光景に可能性を見出だしたのか、姪の行動は早かった。

 子供特有の遠慮の無さで、一切の躊躇なく声を掛けに行ったのである。なまじ中身が大人な僕には無い行動力だ。

 ましてや女子高生に声を掛けるなど、童貞の僕にはハードルが高すぎる。事案扱いされても怖いし。今の見た目なら警戒されることはないだろうけど……やっぱりその辺りはなんというか、自分が大人の男だという感覚がなかなか抜けないのだ。仕方ないことだろう。


「すみませーん!」

「んー? えっなにこの子!? かわいー!」

「きゃーっケモ耳幼女! どうしたの? お姉ちゃんたちに何か用? ちょっと撫でていい?」

「かっわ……」


 うむ、やはりウチの()はかわいいからな。如何に相手が(はな)の女子高生といえども、こんなにかわいい子に声をかけられたらああもなるだろう。わかる。

 僕は自慢の姪がチヤホヤされているのを見て満足げに、腕を組みつつ壁に軽くもたれかかりながら、自分でも分かるぐらいのドヤ顔でうんうんと頷いた。


「おねえさんたちみたいに水着の上から装備つけるのって、どうやったらいいの?」

「あー、これね。これ実は普通の防具じゃなくてね、水着カテゴリなの」

「えっ! それ水着なの!?」

「そうそう。パッと()だと普通の服っぽいけど、水着の上から着る用のやつでね。実はデパートの水着売り場にもあったのよ」

「そーなんだ!」

「かっわ……」


 女子高生3人のうち2人は丁寧に姪に教えてくれていたが、残りの1人……ウェットスーツにライフジャケットという重装備の子は、姪を前にしてかわいい以外の言葉を出すことが出来なくなっていた。

 うん、分かるよ。僕だってたまにそうなるからな。ウチの姪がかわいすぎるのだから無理もないことである。大切な姪の良さが分かってもらえたようで、僕も鼻が高い。


 というか話によればパーカーやセーラー服も水着分類の装備なようだが、言われてみれば昨日や一昨日にもビーチで見たような気がする。

 当時はあまり意識していなかったから色んなファッションがあるなと軽く流していたのだが、今思えば水着だから着れてたんだな。なるほど。


「あとねー、確かこの街にもあるよ。水着屋さん」

「ホント!?」

「小さな店だから品揃えはデパートほどじゃないけど、むしろ重ね着メインで置いてたからちょうどいいんじゃない?」

「水着で街中うろつくのもなぁって需要をよくわかってるよねー」

「その分ちょっとだけ割高だったけどねー」

「足元みてるよねー」

「ねー」

「こっちの子も……かっわ」


 有能な姪が順調に情報を聞き出す間、重装備の子はこちらへと距離を詰めてきていた。僕たちは少し離れたところで姪の様子を窺っているだけなのに、なぜわざわざこっちに来るのか。しまいには僕の頭を撫で始めたではないか。

 やめろ、僕いまカッコいいポーズで姪を見守ってるから動けないんだよ。なんで動けないかって? だってさ、この体勢から急に動いて逃げたらダサすぎるじゃん。何事にも動じないクールな男……もといロリ巨乳狐娘を気取ってる以上、今更もう後には引けない。黙って耐えるしか……くっ、予想以上に耳の付け根の触り方が上手いッ……!


「ちょうどそこの(かど)を曲がったとこにあるから、行ってきてみたらいいよ」

「かわいいの見つかるといいねー」

「ん、ありがとー!」


 そうして姪は、初対面の相手にも(おく)することなく無事に情報収集を終えることができた。流石のコミュニケーション能力。100点満点である。


 姪と話していた2人が立ち去ると、流石に重装備の子も一緒に去っていった。

 ふぅ、なんとか耐えたな。思いのほかテクニシャンだったから、危うく変な声が出るところだった。もう少し姪の話が長引いていたらヤバかったかもしれない。でもまぁセーフだしな。この勝負、僕の勝ちだ。


 そうやって勝利を噛み締めていたところ。元々ジト目なきらりんが更にジト目になりながら、周りに聞こえない程度の声量で話しかけてきた。


「んー……なんていうかアンちゃん、ピチピチのJKに撫でられて満更でもなさそうやったね。その見た目で女の子を油断させたりとか、いかがわしい目的で悪用したらアカンよ?」

「は? そんなつもりは毛頭ないが? いや満更でもなかったのは……まぁ間違いではないけど……でもどっちかっていうと、初対面の見知らぬ女子高生に撫でられるとか、恥ずかしいからやめて欲しかったぐらいなんだけど」

本当(ほんま)に? それやったら、やめてって()ったらよかったんちゃう?」

「それは……なんていうか、初対面の女子高生相手に話しかけるとなると勇気が足りないっていうか……」

「相変わらず人見知りすぎひん……? そんなんやから彼女もできひんのとちゃう?」

「それは大いに関係あるけど、今は関係なくない?」


 なぜ僕はロリ巨乳狐娘になってゲームをしてる最中にまで、母から童貞を弄られないといけないのか。

 孫の顔ならもう見ただろ、姪があんなにかわいいんだから満足しておいてほしい。


 ていうかこの身体で彼女作るのって厳しくない?

 いや、だからといって彼氏なんて作る気は無いが。どうせ元から恋人いない歴(イコール)年齢だし、結婚はほとんど諦めてたので同じことである。


「服のこと聞いてきたよー!」

「おつかれさま、るぅちゃん」

「話は終わったにゃ?」


 それはさておき。

 聞き込み任務をやり遂げて帰還した姪を僕が(ねぎら)っていると、途中から近くにある食べ物の屋台を見に行っていたミィも帰って来た。やはりこの猫耳少女は色気より食い気なようで、服飾店の情報などには興味が無いらしい。


「るぅちゃんが手に入れた情報によれば、すぐ近くに水着用の重ね着を売ってる店があるってことだよね」

「ん、そだね。今からいってみる?」

「いいの? 僕の都合で付き合ってもらうのはちょっと悪い気もするけど……」

「別にいいよ、あたしも自分のほしいし!」

「今から服買いに行くのにゃ? それならミィは、この辺にある屋台を見て回っておくのにゃ。美味そうな食べ物が無いか、情報収集だにゃ」

「ミィちゃんは服見にいかないの?」

「ミィは服とか着ない派なのにゃ」

「そっかぁー」


 いや服は着ろ。服とか着ない派って裸族かよ。水着の上には何も着たくないってことなんだろうけど、言葉足らずなせいでかなり意味が違ってるから。

 そうツッコミたいところだが、姪が納得しているなら別に問題ないか……? 子供同士のコミュニケーションだと、大体の意味が通じていたら構わないのだろうか。


 僕は身体こそ(ある一部分を除いて)この中で一番小さいロリ巨乳狐娘だけど、ガチの子供じゃないからその辺の感覚はよく分からないんだよな。

 あ、でも姪の友達のリリアちゃんとかなら普通にツッコミそうだな。あの子なかなか鋭いツッコミを僕にも入れてきてたしな。姪が細かいことを気にしない性格というだけな気がしてきた。そんな気がする。


「まあいいや。あんちゃん、ばーちゃん、いこっか! あそこの(かど)を曲がったとこみたいだから、競争ね! よーい、どんっ!」

「はははっ、負けないぞー」

「ふふっ、瑠奈(るな)は元気やね。じゃあミィちゃんはまた後で」

「終わったら呼んでくれなのにゃ」


 というわけで僕たちはミィと別れ、水着の上に着れる服を求めて店へと駆け出した。

 ホント子供ってすぐ走り出すなぁ、そんな姪はかわいいなぁ。などと考えながら走っているので若干頬が緩んでるが、港町には決して少なくないプレイヤーがいるのだ。これでも通行人に見られることを考慮して可能な限り表情は引き締めてるし、あとついでに水着しか着けてないせいで揺れまくる胸を制御するための妖力操作も忘れていない。

 視線は姪の後ろ姿を全力で追っているので、キチンと揺れを抑えられているかどうかの確認は出来ていないが、まぁコツさえ掴めば簡単な技術だからな。実は失敗していて胸の揺れを抑えられてない、などということは無いだろう。我ながら完璧である。


 ――なお、ちょうど昨日こんな感じで港町を水着で走っていた時に運営から届いた不具合修正のお知らせがあったが、あれやこれやと後回しにしたので結局まだ目を通していない。

 その内容の1つが、特定の操作を行った際にキャラクターモデルの揺れが無効化されてしまう不具合の修正……つまり妖力で胸を固定出来なくなったということなのは、今の僕にはまだ知らない事実なのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 水着の重ね着がTシャツで、水濡れ透け透けになって掲示板民大喜びな未来が視える!
[一言] >「水着の上に服を着れてる……?」 >重ね着メインで置いてたから  バスターマシ○に乗るときに着てたやつのような、ハイレグワンピースにジャージ風(?)半袖シャツのも売ってるかな?
[一言] そう、無駄な努力になっているのです( ˘ω˘ )
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