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名もなき我ら

名もなき我ら ミイラ取り

作者: 西村 圭

フリーでライターをしています。

専門は、都市伝説とか町の噂とかの仕事が多いです。


いずれにして情報収集は欠かせません。ネットでもリアルでもね。


最初に気になったのは、ネットの噂でした。ちょっと変わった便利屋みたいな連中がいるって話でね。そいつら、劇団というか、演劇集団を名乗っているというんですよ。この世は全て劇場だ、人はみな役者だってね。

でも、公式のホームページもないし、どこに問い合わせていいかもわからない。そこでネットをよく探してみると、どうも直接の接触に限定しているらしいことが分かってきました。


なんとか取材したいと考えた私は、出向いてみることにしました。


まあ、一見普通のバーです。早い時間から行ったのですが、バーテンダー3人に、客が2人。住宅街の中にある、そう流行っている訳でもない普通のバーです。客と店員の様子を伺ってみましたが、常連客らしい馴れ馴れしい会話ばかりでした。空振りだったかな、と財布の中身を確認しようとした私に、店長らしき男が話しかけてきました。

「何かお困りのことはないですか」

「ああ、実はちょっと」

私は探りを入れてみることにしました。

「こちらで助けてもらえるって聞いたことがあって」

男は、私を奥の部屋に招き入れました。小さいながら、VIPルームのようです。

「お力になれるかもしれません。話してみていただけませんか」

とっさに作り話のでてこなかった私は、前職の雑誌記者時代、仕事の方針もやり方も、ついでに気もあわなかった編集長のことを語りました。

「なるほど、その方に一泡ふかせたいというわけですね」

「いや、まあ、どうしてもってわけじゃないけど」

「ご安心ください」

男は、両手でしっかりと私の手を握った。

「私ども、決して法に触れないように致しますから」

連絡先を渡し、しばらく待つことになりました。


しばらくして、かつて私の在籍していた雑誌が誤報をだしてしまい、編集長は閑職に飛ばされたという話が、私のところまで聞こえてきました。

まさか、と思っていた頃に、彼らから連絡がありました。


私の自宅までやってきた男は、請求書を差し出しました。

「え、こんなに?」

「仕込みにそれなりにかかりましたので」

あまり持ち合わせのない私は困りました。その旨を伝わると、彼は契約書を差し出しました。

「どういうことですか」

「是非、私どもにご協力ください」


というわけで、私は彼らの一員となりました。

聞けば、依頼者がスタッフになったという例もいくつかあるようです。

また、例のバーだけでなく、興信所だか探偵事務所だかも運営に関わっているらしいのですが、まだ私の調査でもすべてを把握できていません。


残念ながら、契約書には守秘事務事項が含まれていました。

だから、この文章を世に出すことができるかどうかわからりません。

それでも、この組織がどうなっているのか、なにをなしているのか、つきとめることをやめるつもりはないのです。

私は名前も力もない者かもしれません。

ただ知識欲の奴隷なのです。


私の頭の中で、契約書の最後にあった誓いの言葉が巡ります。



我ら名もなき劇団

どこにでも現れ

何者にでもなりうる

我ら名もなき

名もなき我ら


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