魔法
「魔法使いじゃよ。」
「…………」
「魔法使いじゃy」
「いや、聞こえなかった訳ではないんですよ?」
「ふむ、そうか……」
「…………」
再び二人の間に流れる沈黙の中、焼け付くような陽射しのせいで頬を流れる汗だけが、時間が止まっている訳では無い事を教えてくれる。
「魔法って、何ですか?」
「む?」
僕がそう聞くと、魔法使いは片眉をピクリとあげる。そしてそれから、僕の事をじっと見て数秒経つと魔法使いは何かに納得したような顔をして、再度口を開く。
「……随分と長い年月が流れてしまったのだな。」
すると同時に僕は、先程までの茹だるような暑さと、地面に焼かれるような熱さが平気になった。
「空気中に漂う魔素を体内の魔術回路を通すことで様々な物質やエネルギー等に変換させる。それが魔法じゃ。今、お前にかけたのもな。まぁ、見せた方が早いじゃろう。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
女の子がスヤスヤと寝ている。
ベッドの近くには窓があり、暖かな朝の陽射しと小鳥達が部屋を覗いている。
「レイ〜!朝よ!起きなさ〜い!」
母の声だろうか。
少女は目を開けると、渋々といった様子で動き出した。フヨフヨと宙に浮きながら、まだ眠そうな目を擦り、指先をクルッと回して布団をたたみ、シーツを伸ばす。そしてまた、フヨフヨ浮きながら声がした方へ動き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「っ?!この映像は?!」
僕の頭の中に直接、映像が流れてきたのだ。
「儂じゃよ。特に害は無い。安心せい。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ほぁ〜……」(おはよぉ〜)
レイはリビングに繋がるドアを手を使わずに開けながら、欠伸をする。欠伸の声と同時に声が聞こえた気がしたのだが……
「おはよう。もう、喋る時はちゃんと口動かしながらってママ、言ってるわよね?」
(えー、めんどくさいー)
どうやら気の所為では無いようで、レイは声を出さずに意志を伝えているようだ。
リビングには、レイの父と母だと思われる男女が食卓を挟んで座っている。
「こら、レイ、行儀の悪い事はやめなさい。」
「……はーい。」
二人共に注意されたレイは口を尖らせて不満そうに返事をしたが、朝食のサンドウィッチを口に運ぶと、今までの機嫌が嘘であったかのように満面の笑みになる。
「おいし〜!」
「ママの料理は世界一だからな。」
「ありがとう。挟んだだけなんだけどね。」
ここだけを見ると、テレビの中でもよく見る朝の家族団欒の一時である。
「あ、レイ。今日から学校でしょ?そろそろ時間なんじゃない?」
「わかったー」
母に促されると、サンドウィッチをササッと食べ終え、歯を磨き、制服を着て、鏡の隣りにかけてある帽子をヒュンッと頭の上に瞬間移動させた。
「じゃ、パパ、ママ、行ってきます!」
レイは手を振りながら言い、元気に家を飛び出たのだった。
「……あなた、今の、高位魔法のテレポートよね?」
「……そうだな。」
「あの歳でテレポートを使える子、聞いた事ある?」
「ない。」
2人は顔を見合わせると、駆け寄る。
「やっぱりレイは天才だわ!」
「あぁ!天才だ!将来が楽しみだな!」
そして、良い大人が手を繋いでピョンピョン飛び跳ねる。
「将来は高名な魔法使い?!」
「有名ギルドのギルド長になっちゃったりしてな!」
「王宮魔導師にだってなれるかも!」
レイが学校に向かって家を出てから暫くは、この夫婦のキャーキャーワーワーが続いたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これが、魔法……」
「そうじゃ。便利じゃろう?まだまだ続くぞい。」