魔法使い
ホームルーム後、僕らは家に帰ることになった。
非常に残念な事に、暗闇の後、僕に起きた不思議現象は更に悪化していて、人の感情だけではなく、窓の外に見える鳩の気分や、僕が接触している物の情報等の大量のデータが僕の意思などお構い無しに濁流の様に襲いかかってくる。
下校中も、脳がパンクしてしまうのではないかと思うくらいに頭の中が様々な声で埋め尽くされ、そのせいか、頭が割れるように痛い。
それはもう、狂って叫んでしまいたくなるほどで、足元も覚束無い。
そんな中、輝翔と香澄の肩を借りながらやっとの事で家の前に辿り着いたのだった。
「お前、本当に大丈夫か?家、一人暮らしだろ、俺ん家泊まるようにお袋に頼むか?」
「私もそれが良いと思う。さっきからまともに歩けてないじゃない。」
2人の厚意は嬉しいが、今は一刻も早く人から離れたくて、
「ありがとう。でも大丈夫。1人でゆっくりするよ。」
そう言って僕は家に向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっとハルちゃん!」
「おい!やべぇって!」
「いやぁ、ごめん。ここまで送ってくれて本当にありがとう。じゃ、僕はもう休むね。」
2人は引き止めるが、僕はそう言って家の門を閉めた。
僕の家は一人暮らしなのに無駄に広い。
門から玄関まで丸石が敷き詰められたアプローチをヨタヨタと歩く。
「あっ、痛っ!……もうっ!」
もう少しで家で休めると気が急いでしまったのか、丸石につまづいて転んでしまった。
丸石に全く非は無いのだが、激しい頭痛にイライラしていた僕は丸石に腹が立ち、つまづいた周辺の丸石を睨み付けた。
すると、僕が睨み付けた周辺の、凡そ半径30cm程にあった丸石が、
サシュッ!!!
と言うような音を立ててサラサラの砂になった。
「えっ?!……あれ?」
僕は驚くと同時に身体から力が抜けていくのを感じた。
立っているのも儘ならなくなり、その場に倒れ込み、すぅーっと目の前が暗くなっていく。
ついに意識を手放してしまいそうになった時、すぐ側で丸石を誰かが踏み付ける音がした。
「全く、何をしておるんじゃ。耐熱魔法も使わずに、こんな炎天下の中で寝たら、頭がパーになってしまうぞ。」
声を掛けられたことによって、意識が復活する。
声がした方へ目を向けると、口元が見えない程に立派な白髭を生やしたお爺さんが立っていた。
真夏だというのに、足先から首まですっぽり覆うような分厚いローブを着ていて、それなのに涼しい顔をしている。
「あなたは……?」
「グロッキーじゃのう……早く耐熱魔法をかけぬか。儂はの、魔法使いじゃよ。」
「はい?」
魔法?魔法使い?何を言っているんだこの人は。