ホームルーム
今日の太陽はいつにも増して気合いが入っているなぁ……
席を立ち、カーテンを閉め溜息を吐きながら席に戻る。
「おい、ハルゥー?朝のホームルーム前にもうバテてんのか?貧弱だな!」
笑いながら肩を叩いてくるこいつは僕の幼馴染の坂本輝翔。
名前負けしない程度には明るくて運動もできる。そして何より、モテるのだ。
「うるさい。全部、温暖化が悪いんだよ。輝翔が来るともっと暑苦しくなるから離れてくれ。」
「んだよ、つれねぇなぁー。」
あぁ、僕も男前な顔に生まれたかったなぁ。生まれてこの方、「可愛い」とは言われても、「格好良い」とはお世辞以外で言われた事は無かった。
名前のせいで女性に間違われる事も多い。
僕は輝翔が羨ましかった。
「いいから離れてよ、早く離れないとアイツが……」
その時、教室のドアが開いた。
「おーい!なーにイチャコラしてんだよ、んん?ほらほらー、オジサンにもっと見せてご覧なさい?!」
この鼻息を荒くしながらズンズンと歩いてくる残念美人。この人も僕の幼馴染で、椎名香澄だ。全科目総合の学年次席で成績優秀者なのだが、その腐った性格が全てを台無しにしていて、輝翔からは「お前は喋ったら全部が終わる。」とまで言われている。
「ほら来た。」
「うんうん。続けて。」
「『うんうん。』じゃねぇよ!俺らでそういう妄想すんじゃねぇっつってんだろうが!」
「あははは!アッキーも、ハルちゃんも、冗談に決まってるでしょ!言ってみてるだけだって!」
「それでも不快なんだよ!てか、アッキーってのやめろってのも前から言ってるだろうが!」
「僕も、ちゃん付けはもうそろそろやめて欲しいな……」
高校生にもなって同級生の女子からクラスメイトにも聞こえるような形でその様に呼ばれるのは流石に恥ずかしい。
「うーん、じゃあ、アッキーはアッちゃんで、」
「やめろ!」
「ハルちゃんは若童君?ムフフ……」
「やめてくれ!ハルちゃんの方がまだマシだよ!」
若童だなんて呼ばれたら、それこそ色んな噂が立っちゃうじゃないか……
「はーい、ホームルーム始めるぞー。」
話の途中ではあったが、担任の教師が入ってきた為、中断する。
担任からは、中身が有るのか無いのかよく分からない、いつもと同じような事を聞かされる。
体育祭や文化祭等のイベント事が無ければ、大して話すべき事も少ないのだろう。
「最近、急に暑くなってきたので皆も熱中症には気を着けるように。では、朝のホームルームを終わりにする。」
その時だった。
教室が一瞬、暗くなったのだ。
そしてその後、何がとは分からないが空気の質が何となく変わったように感じた。
そして、木に止まったムクドリの群れの様に騒ぎ出すクラスメイト。
全員が一斉に喋り出す。
「えっ?今、一瞬……気のせいだったのかな……?」
「今、暗くなったよな?」
「暑いぃ……」
「何が起こったんだ?」
「やべぇ、家でエロ本隠すの忘れてきちまった……」
「皆も気付いたよね?」
「えっ?えっ?!」
どさくさに紛れてエロ本がとか言ってる奴いるし、それにしても騒ぎ過ぎだろうとクラスメイトを見た瞬間、僕は訳が分からなかった。
クラスメイトの不安そうな顔。
しかし、口が動いている者はほぼいなかったのである。