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引かれたら終わるんだが?

 僕の頭の中はずっとそのことでいっぱいだった。いや、もういい。ここはハートの1を引かれなければいい話!


「じゃあ、僕の出番だね。あ、別にシャッフルとかしてもらって構わないよ」


「言われなくてもそうするよ。ここで引かれたら終わりだからな」


「ま……僕に……無駄……んだ……ど……」


 軌賀は何かを呟いた。何を言ったのかはわからない。だが、今の言葉がどうにも嫌な予感がしてたまらなかった。全身の神経をこの手に集中させ、相手に悟られないようにするのが引かれる側の役目でもある。そんなことを考えながら、相手に見えないように手に持つ2枚のカードを10秒間しっかりとシャッフルする。


 そして僕は2枚のトランプを再び前に出した。


「よし、じゃあ引いてい――」


「はーい!こっちだね!」


 軌賀はスッと手を伸ばし、ハートの1を目掛けてそれを引こうとした。

 なんだこいつ! まるで最初からわかっていたかのような――


「チェックメイト。どうやら僕の勝ちみたいだね」


 気がつくとハートの1は取られ、ジョーカーは床に落ちていた。


「負け……た……?」


「そうだね、君は僕に負けたんだよ」


 おかしい! 絶対にこいつ何か仕込んでやがった!


「お前、ズルをしただろ! 僕はずっとトランプを見ていたはずだぞ!」


 なによりこいつは投資議会の一人。亜空間を作り出すほどの力や物体を出現させる力。どうせこいつらのことだ。前の鉦蓄同様、何か特別な力を使ってカードに何か細工をしたのだろう。


「本当に隆くんはずっとトランプを見ていたの? 見てたとしてもそれは本当に自分の考えと合っていたのかな?」


「どういうことだ?」


「僕はズルはしていない。ただ、心理戦としての力は発揮させてもらったよ。()()()()。またの名をブレインダイブ。この言葉を聞いたことはない?」


「思考誘導だと?」


 思考誘導とは、一種の暗示のようなもの。トーク術で使われるものだ。それがこの間に使われた? そんな感じは一切しなかった。 強いて言えばこいつの話。だがその言葉自体、特にそれっぽい言葉はなかった。というか、どこからが正しい記憶なんだ? それすらもわからなくなってきた。


「隆くんは僕の言葉に誘導されていたんだよ。誘導と言っても誘導しやすい文字数や言葉を並べて話していただけなんだけどね」


 わからない。なんだよそれ。ズルではないにしろ、こんなの認めるかよ。だとしたらこいつ、あの一瞬でかなりの速度で頭を回して言葉を選んだってわけか!


「そしたらトランプから視線がずれたのか、あるいは記憶にエラーが生じたのか、それでジョーカーを引いちゃったってわけだね」


「くっ……! だったらなぜ、シャッフルしたにも関わらず、お前は迷いなく一瞬でハートの1を引くことができた?」


「ああ、あれ。 僕は視力も生まれつきよくてね、両目共に13.0あるみたいで、そのカードについているほこりや小さな汚れの位置を暗記したんだよ」


 そんなのありかよ……!? マサイ族の視力は8.0から10.0と言われている。だとしたら、とても人間業とは思えない。

 いや、そもそもこいつは人間なのか? 見た目は人間。だけど、特殊能力も使えてスペックも高すぎる。


「こんなの、勝てるわけがない……」


「だから最初に言ったじゃん。2分の1ババ抜きだって。2分の1っていうのは引く時に選べる枚数ではなく、最初の隆くんのターンで僕に勝てる確率だったんだよ」


 何が2分の1だ。こんな不利な勝負、99.9%こちらが負けるじゃないか。


「ということで、副業を失敗したペナルティにより、隆くんには()()()()()()()()()


 斬賀はマントの中から再びあの銃を取り出した。勝てなかったから死ぬってか! ふざけるなよ!


「ちょっと待てよ……! こんなのおかしいだろ……!」


 僕は立ち上がり、必死に斬賀から離れ、走りだした。だけど、走っても走っても同じ光景ばかり広がって元の世界に戻ることができない!


「どうなってやがる……!? 誰か! 誰か助けてくれ!」


「逃げても無駄だよ。助けもここは亜空間だから誰も来ない。バインド」


「うっ……!?」


 その瞬間、体が一瞬にして動けなくなった。金縛りのような感覚。体が本当に動かない。間違いない!こいつは僕を殺す気だ!


「この銃はね、銃口からトランプを発射させて人の皮膚を簡単に切り裂くことができるんだ」


 後ろが見えないが、斬賀は歩きながらこちらに近づいてくる。くそっ……!どうすれば……!


「トランプの厚さは約0.3ミリ。発射の速さは、ジャンボジェット機の速さを超える1126キロメートル。まさに、殺戮マシーンさ」


「……っ!?」


 いつのまにか目の前に現れ、顔を近づけてニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 やばい、漏れそうだ……! いや、体が身動きすら取れなくて漏らさない! 漏らすことすらできないなんて、最後ぐらい楽にさせろよ!


「最後に言い残すことは?」


 最後? さ、さ、最後? 体は動かないが、口だけは動く。もしこれが僕の口から発する最後の言葉だとしたら……!?


「シャルロットたん、愛してるぞおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 バンッ


 その瞬間、こちらに向けられている銃口から、物凄い速度でトランプが発射された。

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