強者の役目なんだが?
さて、どうしたものか。
リアル女どもの群れに押し込まれたせいであいつらと逸れてしまった。
あ、そういえば携帯があった。
携帯でもどきぐらいには連絡を取れるはず。
携帯にはもどきの連絡先と美沙の連絡先しかなかった。
まったく、寂しいアドレス帳だ。
ってあれ?
伊集院の連絡先も入ってる。
入れた覚えないぞ?
まあいいや、とにかく電話するか。
ボタンを押し、携帯を耳にあてる。
しばらくすると、声が聞こえた。
だが、それはもどきではなかった。
【おかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません】
おいおい!
携帯ぐらい持ってるだろ!
なんででないんだよ!
再びボタンを押し、掛け直す。
「あれ。画面が……」
画面は止まり、次の瞬間真っ暗になり出した。
「……」
……
……
……
しまったあああああ!!
ロジカルファンタジーのやりすぎで充電を使い果たしてしまったあああああ!!
バスの中ですることがなく、ロジカルファンタジーをずっとやっていた。
いや、僕は悪くない。
悪いのは長時間の暇を与えたバスだ。
とにかくどうする!
どうすれば!
「おーい!隆さーん!」
手をブンブン振って近づいてくる白髪のリアル女。
もどきだ。
「お前、携帯は?」
「携帯?」
もどきは背負っている鞄を下ろし、中を探る。
携帯ぐらいすぐ出せるところに置いとけよ。
まあ、こういうのは奥に入ってて見つかるっていうのが定番――
「バスに忘れてきました!」
「おい!!」
通りで電話に出ないわけだ。
なにがともあれ、これで一人目合流っと。
「ん?」
「どうしたんですか?」
僕の目線の奥には見覚えのある2人の人影。
僕は2人の近くに行き、そっと岩の後ろに隠れる。
もどきもよくわからないまま、僕の真似をする。
「みんなどこにいっちゃったんだろうね」
「知るか。馬鹿だから逸れるんだろ」
熊倉と伊集院だ。
お前だって十分逸れてるじゃねえか。
つまり、伊集院も馬鹿という解釈。
「あの、なんで隠れてるんですか?」
「なんとなくだ」
「なんとなくって……」
実際のところ、理由という理由はない。
ただ、なにか今は隠れていた方がいい気がする。
僕ともどきは岩からひょっこりと顔を出し、様子を伺う。
「伊集院くん、人を馬鹿にしちゃダメだよ。自分がもし馬鹿にされたら嫌でしょ?」
熊倉はこんなときにもすごいな。
だが、相手はあの伊集院。
さあ、どう反論する?
「馬鹿にされないために俺は頭を良くしているんだ。だから俺はあいつらを馬鹿にする権利がある」
うっわ。
クズだなあ。
学力でしか物事を見れない人ほど頭が悪いというのに、どうしてそれが理解できないんだ、こいつは。
「酷い言いようですね」
もどきも賛同しているようだ。
「まったくだ。このまま、あいつは大人になっていくと考えると拙者は涙が止まらんでござるよ――」
「伊集院くん、それは違うよ」
熊倉は伊集院の意見を否定した。
熊倉は何かを言おうとしている。
それを伊集院は不思議そうにする。
「たしかに、伊集院くんより頭の良い人はあまりいないかもしれない。けど、みんな努力してるんだよ」
真剣な表情で訴える熊倉。
心なしか、伊集院は少し動揺しているようにも見える。
「みんな、目標に向けて走ってる。伊集院くんにも目標があるでしょ。その同士を馬鹿にしちゃダメだよ、ね!」
熊倉はにっこりと笑顔になった。
弱者に対して、強者は寛容であるべきだ。
心を広く持ち、相手の言動を常識の範囲内で受け入れること。
それを伊集院は理解していなかったんだ。
「ふっ。俺としたことが、そんなことにも気が付かないとはな。俺はもしかしたら、馬鹿なのかもな……」
伊集院は空を見上げてぶつぶつ言い出した。
たく、気付くのが遅えんだよ。
でもこれで、伊集院も吹っ切れただろう。
僕が仮面を剥がすつもりが、剥がしたのは熊倉の方だったな。
僕ともどきは熊倉たちのいる方向へ向かって歩き出した。
「あ、東條くん!シャルロットちゃん!」
「おう」
「あの、どちらか携帯を貸してもらえないでしょうか? 他のメンバーに連絡を取りたいのですが、生憎スマホをバスに置いてきてしまったので」
もどきは2人にお願いをする。
この二人と合流できたということは、携帯で他の奴らと連絡が取れるということか。
まあ、僕やもどきみたいになってなければの話だが。
「ごめんなさい。うち、男の子とはやりとりしてなくて、上条くんたちのは連絡先に入れてないの」
ドンマイ、上条。
お前はよく頑張ったよ。
「なら、俺のを使え。こんなことがあろうかと、昨日、あいつらが寝ている間に俺の連絡先を登録しておいた。東條も例外ではないぞ」
「勝手に触るなよ!どうやってロックを解除したんだよ!」
「そう褒めるな。俺の手にかかれば朝飯前だ」
「褒めてねえよ!!もし、スマホの中にあるロジカルファンタジーのデータに何かあったらどうしてくれるんだ!?」
伊集院は自分のスマホをもどきに渡した。
ロックはすでに解除されており、電話帳から上条に掛ける。
その間、伊集院は僕の目をじっと見つめる。
「なんだよ」
「お前、よく見たらかっこいいな……」
伊集院は頬を染めていった。
なんだこいつ。
こいつもアレなのか?
「やめろ、気色悪い」
「困ったことがあれば力になってやる。その時は俺がお前に構ってやるよ」
伊集院は手を差し出した。
さっきまでとはまるで別人だな。
これも熊倉のおかげか。
その手を握らない意味は僕にはなかった。
「おう!」
僕は伊集院の手をガッチリと掴んだ。
その後、上条たちとも合流し、無事奈良の散策を終えた。
だが、この後、旅館であんな地獄を見るなんて、この時の僕らは知る由もなかった。




