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ふれあうんだが?

 目の前には鹿。

 僕の右手には1枚の鹿煎餅(しかせんべい)

 これをやつの口に……


 僕は右手をスッと差し出し、鹿の目の前で止めた。

 さあ、勝負だ鹿。

 これで僕の指を噛んだらお前の勝ち。

 逆に噛まれなかったら僕の勝ち――


「ぎゃあああああ!!拙者の指がああああ!!」


 かぷりと思いっきり噛みつき、その場で倒れた。

 まずい!

 このまま指がやられればロジカルファンタジーが一生できなくなる!!

 それに、シャルロットたんに指輪をはめることだってできないじゃないかっ!!


「団長ーーー!!見ててください、団長!この俺が団長の仇を打ちます!」


「いや、死んでないから」


 ていうか、仇ってなにする気だ?

 まさか、天然記念物である鹿に手をあげようっていうのか!?

 やめろ、ムキムキ!

 お前はそんなやつじゃないだろ!

 優しかったお前はどこにいった!?

 また僕らで馬鹿やろう――


「はい、ど〜ぞ」


 ムキムキは笑顔で鹿煎餅を持って鹿に差し出た。

 なんだ、心配して損した……

 って、なんかあいつの持ち方、僕のと似てるぞ。

 あ――

 気づいたときにはもう遅かった。


「うおあああああ!!」


「ムキムキーーー!!」


 ムキムキも指を噛まれ、倒れた。

 このまま全員、鹿にやられてしまうのか。

 逃げろ、お前ら……

 僕のことを置いて逃げるんだ……!


「東條くん、ムキムキくん、大丈夫!?」


 熊倉がカバンの中から絆創膏を持ち、僕のそばに来た。

 なんだ?

 ていうか、熊倉までムキムキって呼んでるし。


「し、失礼します……!」


 熊倉は僕の右手を持ち、指に絆創膏を貼っていく。

 絆創膏の柄は動物柄で可愛かった。

 それに熊倉の手……

 柔らかいな。


「あ、ありがとう……」


「応急処置くらいしかできないけど。でも、気をつけてね」


 熊倉は笑顔で言った。

 ていうか、絆創膏を貼るまでもない気もするが。


 あれ?

 ふともどきを見ると黄昏(たそがれ)れたような表情を浮かべていた。

 今までに見たことがない表情。


「どうした?」


 僕は立ち上がり、もどきに声をかける。


「え? なにがですか?」


 もどきは不思議そうにこちらを見つめる。


「いやなにがって……なんか、顔色悪そうだったから」


「気のせいですよ。ほら、鹿さ〜ん」


 もどきは鹿せんべいを摘むように持ち、鹿に鹿せんべいを差し出す。


「ええ!?どうして噛まれないんだ!?」


 鹿はもどきの指を噛むどころか、ゆっくりと鹿せんべいを噛み始めた。

 僕とムキムキがあげたときは噛んだのに。

 リアル女にしか興味のない鹿。

 まさか、上条と同じ部類か!


「なんでこっちを見るの」


 上条の方をふと見た。

 まったく、けしからん奴らだ。

 リアル女のなにがいいんだか。


「君たちの持ち方が悪いだけだよ。先生言ってたじゃん。摘むように持ってあげないと噛まれるって」


 山田はもどきと同じように持ち、鹿せんべいを鹿に差し出す。


「そういえばそうだった!」


 ムキムキも起き上がり、謎に空を向いて叫び出した。

 そういえば僕とムキムキは鹿煎餅を鷲掴みにしてあげようとしていた。

 だから噛まれたのか。


「鹿せんべいあげないの? 鹿さん、可愛いよ」


 熊倉は伊集院に声をかける。

 伊集院は鹿煎餅は持っているものの、鹿にあげようとはしなかった。


「この鹿せんべいならくれてやる。俺は俺に構ってくれそうな奴にしか興味はない。どうやら、ここの鹿は俺には興味はないみたいだ」


 鹿もわかってるな。

 お前、目つき悪いもんな。

 でも、鹿せんべいを持っているのに1匹も近づかないのはある意味かわいそうだ。


「自分から近づくことも大事だよ。ほら、アプローチアプローチ!」


 熊倉は伊集院の腕を持ち、鹿の目の前に持っていった。


「おい……!」


 すると鹿は伊集院の持つ煎餅をもぐもぐと食べ始めた。

 鹿は伊集院のことを別に嫌ってるわけではないのか。

 まあ、僕は嫌いだがな。


「おい、隆!あれはどういうことだ!ふわりちゃんと伊集院くんが仲がいいじゃないか!」


「知らん」


 横でうるさい奴が吠えている。

 たしかにクラスでは話すところを見たところがない二人だが、この修学旅行で仲が良くなったんだな。

 まあ、熊倉の一方的ってのはあると思うが。


「頭も良くて運動もできてあの甘いフェイス……!ひねくれた性格以外は何もかも完璧じゃないか……!ぐぬぬぬぬ……!」


「お前はとりあえず黙れ」

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