女子風呂を覗きに行ったんだが?
僕は直線距離を進んでいた。
15メートル先には女子風呂が見える。
現時刻は20時26分。
少し遅れたが、まだリアル女どもは入っている。
「意外と楽に通れたな」
「ああ、所詮はメス。何も怯えることはなかったというわけさ……」
僕と山田は廊下を走りながらイケボで会話をする。
こいつ、普段はおどおどしてるが調子に乗り出すと口調まで変わるのか。
ふっ。
嫌いじゃねえ。
目の前はガラ空き。
あと10メートルほどで女子風呂に入れる。
あと一歩だ。
「さあ、行こうか!!――って、あいつらは!?」
僕は立ち止まり、周りを見渡す。
上条とムキムキはいなかった。
「上条くんは晩ご飯の食べ過ぎでトイレに駆け込んだらしいよ」
「馬鹿かよ!?分量考えて食べろよ!!」
「まあ、おかわり自由だったから仕方がないよ。その上、味付けも最高だったし」
そういえば上条、めちゃがっついてたな。
食べ終えたあとは腹を抱えて布団に潜ってたし。
だから食べすぎるなって言ったのに。
「で、ムキムキは?」
「彼も牡蠣がお腹に当たったらしくてトイレにこもってるよ」
あいつは上条ほど食べてはいないが、まさか牡蠣が当たってしまうとは。
つくづく運のないやつだ。
「お前ら、まさか覗きにきたんじゃねえだろうな?」
正面からリアル女の声が聞こえる。
この声には半分、トラウマのようなものを感じている。
「昇龍妃……」
そこには因縁の女、昇龍妃がいた。
それだけではない。
クラスの女子が他にも数名いる。
この女は過去にシャルロットたんを傷つけた挙句、前回の副業も妨害されかけている。
今回も邪魔しようってか……
「その通りさ。僕らは女の子の裸を覗きにきたのさ……」
山田が一歩前に踏み出して反論をした。
「アホ!堂々と言ってどうする!?」
「は〜ん。これは、お仕置きが必要なようだね。レスリング部!」
すると、前後からものすごい地響きが鳴る。
正面の女子風呂からはめちゃくちゃガタイのいいジャージを着たリアル女が2人現れた。
あんなの……触れられるだけで殺される……
「山田!ここは一旦体制を整えてから……」
山田に声をかけて後ろを振り向いて逃げる準備をした。
だが、後ろを向くとさっきの2人と似たようなガタイのリアル女2人と数名のタオルという名の武器を持つリアル女が立ちはだかっていた。
「嘘……だろ……」
挟まれた……
もう、終わりだ……
「きゃはっ!!あんたたちはここでリンチにあうんだよ!さあ、やっておしまい!!」
「アイッサー!!」
昇龍の掛け声により、リアル女はこちらに接近を始めた。
パッと見、リアル女は前後に20人。
そのうち、4人は巨体のレスリング部。
どうする……
どうすれば……
「東條くん、ビビってんのか?僕はやるさ。ここを突破して女子風呂を覗く!」
山田は脚を震わせながら言った。
こいつ、意外とやるじゃねえか。
「ばーか。お前だって脚、震わせてんじゃねえか」
僕らは互いに背を向ける。
お互い、顔を見なくてもわかる。
背中でお互い語り合う。
山田が何が言いたいのかはわかった。
こっちの敵は任せろってことか。
僕らはお互い呼吸を整え、走り出した。
「いくぞ!!」
「いくぞ!!」
こうして僕らはリアル女の群れに突撃を始めた。
20対2。
数としてはこちらが不利。
だが、僕らならやれる!
――この理不尽を越えられる!!




