贈り物が届いたんだが?
それから僕は重い足取りで家に帰り、玄関までたどり着いた。
指導を受けて帰りが遅くなったが、そんな僕をもどきは待っててくれて一緒に家に向かった。
だけど、もどきとは一言も話さなかった。
朝、あんなことがあったから仕方がないか。
それでももどきはそばにいてくれた。
それだけでも嬉しかった。
僕はそっと玄関の扉を引く。
開けた瞬間、目の前にいたのは母さんだった。
「あんた!!また問題起こしたの!?どうしてあんたはいつもそんなに問題を起こすの!!母さんを困らせないでよ!!」
母さんが何かを言っている。
だけど、僕には何て言っているかわからなかった。
母さんの声にはノイズがかかっていた。
「ちょっ――隆っ!!」
僕はそんな母さんを素通りして階段の方へと進んでいった。
階段を一つ一つ登っているつもりなのに、もう2階に着いた。
登っている間に下から何かが聞こえてきた。
何て言ってるんだ?
「お母様っ!!お母様っ!!うっ……!!ううっ……!!」
「シャルロットちゃんどうしたの!?向こうで話聞いてあげるからおいで」
もどきの声だ。
もどきは母さんに抱きついて泣いていた。
微かにそんな音が聞こえただけだ。
何で泣いているんだ?
僕には何のことで泣いているのかがわからなかった。
自分の部屋に入ると僕は、電気もつけずに部屋に置いてあった全身鏡を見て自分の顔を見る。
なんて酷い顔だ。
僕の顔は廃人のような顔をしていた。
目は細くなり、瞳の輝きを失っていた。
僕は床に四つん這いになり座った。
そしてある考えが浮かぶ。
――投資の力があれば黒崎の病気を治せたんじゃないだろうか。
今までだって僕の傷痕が治ったり、学校が一瞬にして修復されたりしたんだ。
そのくらい投資の力があればできるはずだ。
僕のせいだ。
僕がもっと投資をしていれば、黒崎を助けられたかもしれない。
僕は取り返しのないことをしてしまった。
僕は……
僕は……
しばらく下を向いていると、外の風の流れが微かに変わった気がした。
気配すら感じる。
「やっほー!隆くん!会うのははじめましてかな?僕の名前は軌賀。投資業界トップ5だよ」
窓の声から10代ぐらいの男の気楽な聞こえる。
外に立てる場所はない。
じゃあどうして外から声が聞こえる?
それもすぐ近くだ。
っていうか――投資業界?
投資業界の1人がここにいるのか?
ならちょうどいい。
「僕はもっと投資をしていれば黒崎の病気を治せたのか?僕は……」
僕は俯きながら男と会話をする。
こいつなら何か知ってるかもしれない。
副業の利益を操っているのはこいつらだ。
だったらもっと多額の資金を投資すればその分の利益、つまり、病気を治すことだってできたと僕は考えた。
「はぁ〜あ。そんなことだと思って来てみれば。あのね、投資は万能じゃないんだよ。投資の利益にも限界がある。不治の病や人を生き返らせることは不可能なんだよ」
「そうか……」
男の口調は冷静になり少し変わる。
じゃあ、僕は最善の選択をしたということか。
だとしても結果的に黒崎は死んでしまった。
どうしようもないことぐらいわかってる。
けど、それでも……
「まあ、元気だしなって。今日ここに来たのはこれを渡しに来たんだ」
その男は窓から勢いよく何かをを投げつける。
それは僕が四つん這いになってる近くの床に刺さった。
「手紙……?」
そこにはリアル女らしい丸文字で書かれた【お兄さんへ】と書かれた文字があった。
僕はそれを手に取り、その字を真剣に見つめる。
「その手紙はひまりちゃんが生前に書いた手紙だよ。病室の引き出しにあったらしく、ご両親が訳もわからず持ち帰ってたからつい、盗んできちゃった!」
ひまりちゃん……
黒崎が書いた手紙……!
これはきっと黒崎が書いた手紙だ。
僕は震える手で手紙を持つ。
「じゃあ、僕はここら辺で!」
「待て――」
声のする男の方を向いたが、男の姿はなかった。
あいつは何者だったのか。
どんな顔をしていたのか。
いや、そんなことよりもこの手紙だ。
再び手紙に注目し、【お兄さんへ】という字を見つめる。
お兄さんと呼ぶのは多分、僕しかいない。
僕は思い切って手紙を開封した。
手紙の入っていた封筒を床に置き、手紙の中身を開く。
ピンク色のいろんな動物の絵柄がついたとても可愛らしい手紙だった。
「……っ!?」
何行もあるたくさんの文章。
そこにはこう記されていた。
【お兄さんへ。これを見ている頃には私はもう、この世にはいないと思います。お兄さんやシャルロットさん、美沙さんと過ごした時間はかけがえのなく、本当に楽しかったです。不思議な出会いでしたね。お兄さんが私を急に車椅子ごと病室に連れ戻した時はびっくりしました。いくらロリコンだからってそんなことしちゃダメなんですよ!シャルロットさんはいつも私に優しく接してくれて、こんな人が私のお姉ちゃんだったらよかったなって思っちゃったりもしました。美沙さんとライバルになれたのも嬉しかったです。そのライバルっていうのは別の意味だったりしちゃったりして!そして、みんなで見た流星群は私が今まで見ていたもので一番綺麗でした。でも、やっぱり死ぬのは怖いです。もっとお兄さんたちと過ごしたかった。だけど、わがままも言ってられません。だから私は流星群に想いを乗せて、空からお兄さんたちのことを見守っています。だからお兄さんも前を向いてください。そして、彼女さんと美沙さんを幸せにしてくださいね】
文章の最後には小さく【お兄さん大好き♡】と書かれていた。
思いのこもった文章。
そんな文章を何度も読み返す。
視界がぼやけ、紙が段々濡れていく。
僕はずっと堪えていた涙を流した。
「あああああああああああああああああっ!!」
黒崎の一言で目を覚ました。
僕は前を向いて歩いていく。
黒崎のことは忘れない。
黒崎が空から見守っていてくれてるから。




