魔法使いになりたいんだが?
「それで――投資ってなんなんだ?」
生唾を飲み込み、こいつから情報を聞き出すことにした。
「結局、さっきのガム食べるんですね」
あの後、貰ったガムをすぐに頬張った。
見た感じ市販のガムだったから毒は入っていないだろう。
なぜそんなことを気にするかって?
引きこもりをしていると疑心暗鬼になりがちなんだよ。
だが、そんな僕でも信頼しているものがある。
「当たり前だ。僕はシャルロットたんと糖分だけは信頼してるからな」
シャルロットたんと糖分は裏切らない。
これは、僕がネトゲ生活を始めて気づいたことだ。
「え!?それって――」
「言っておくが、お前じゃないぞパチモン。僕はロジカルファンタジーのシャルロットたんを信頼しているんだ」
そういえば、こいつもシャルロットって名前だったな。
どうせ偽名だ。
全く、本当に腹立たしいことこの上ない。
「だから、そのロジカルファンタジーのシャルロットは私だって――まあ、いいです!」
なぜか頬を膨らませ、訳のわからないことを言い出した。
ちなみに、普通の童貞男子高校生はこの行為でイチコロであるが、拙者は2次元を愛し、リアル女と経験のないまま30歳を無事迎え、魔法使いになる者として、落ちるわけにはいかないのだよ。
ムヒヒッ。
「それで、話を戻しますが、投資の何を疑問に持っているのですか?本質的なことですか?それとも、抽象的なことですか?」
両手で天秤を作り、質問を質問で返される。
「本質的なことっていうと、投資の基本的なことだよな」
「はい。というより、先ほども言いましたが、対象にお金を投じることで将来それ以上の利益になって返ってくるのを期待する行為を投資と言います。そして、自己投資と呼ばれる投資も、お金直接を使うといったものも投資というんです」
頭の中にクエスチョンマークがたくさん浮かぶ。
ダメだ、僕の理解が追いつかない!
「隆様、どうかされましたか?」
頭を抱えていた僕に、彼女は首を傾げ、僕の心配をする。
「いや、どうして君はそんなに投資に詳しいの?」
「それは、仕事だからですよ」
あーダメだ。
話にならん。
仕事って、大人じゃあるまいし。
「僕が悪かった。質問を変えよう。何歳だ?見た感じ僕と同じくらいに見えるが――」
「3歳と2ヶ月に決まってるじゃないですか!」
「…」
もっと話にならないことを言い出したぞ。
本当にバカなのか?
ていうか、なんで決まってるんだよ。
だが、3歳と2ヶ月といえば、ちょうど僕がロジカルファンタジーを始めた時だ。
3年と2ヶ月前――
シャルロットたんを作った運命の日だな。
偶然か。
まさかこいつ、拙者のファンだからそのくらい調べることは容易いということか!?
おのれ…
だが、どんな理由であれ、同じシャルロットたんを想う身でありながらやるではないか――
「隆様?」
「うわぁっ!?」
気がつくと少女は至近距離で僕の瞳を見つめていた。
僕は逃げるように引き下がる。
「本当に大丈夫ですか?」
「だ、だ、だ、だ、大丈夫だ、大丈夫!!」
おい、魔法使い予備軍!
何を動揺しているんだ!
相手は貴様の敵であるリアル女!
こんなところで怯んでどうする!
「えっと、その隆様って呼び方かたぐるしいからやめてくれる?その呼び方はシャルロットたんしか認めてないし」
とはいえ、訂正しておかないとシャルロットたんに見せる顔がなくなるからな。
「あえて自分の名前には突っ込みませんが、私はいつもどーり呼んだだけですがね。まあ、いいでしょう」
そして彼女は笑顔になり、一言言った。
「隆さん」