関門が現れたんだが?
翌日、僕ら4人は黒崎の病室で待機していた。
20時30分。
そろそろか。
約束の時間まではあと30分はあるが、道中何があるかわからない。
余裕を持って向かったほうがいいな。
「よし、行こう」
僕はみんなを見渡し、足を運ぶことにした。
何があるかわからない。
最悪の場合、見回りの警備員との戦闘にもなるかもしれない。
そのことを考え、先頭は僕が歩くことにし、後ろには美沙、もどき、そして黒崎がいた。
もどきは黒崎を乗せた車椅子の手足ハンドルを持っていた。
そのときだった。
いつものようにポケットから振動が鳴り出す。
歩きながら確認することにした。
(黒崎ひまりに流星群を見せる:1000000円)
今向かってるっての。
そして、今はこの金額を見ても驚かなかった。
なぜこの金額なのか。
それは今の僕ならわかる。
こいつはもう長く生きられない。
そのため、最後ぐらいはいいものを見せてやれという投資議会の考えなのだろう。
こいつと出会った時もそうだ。
金額が明らかに桁違いだった。
あの時から今日まで全てがこいつの希望のための行動だったというわけか!
「……ッ!?」
僕は足を止めて、息を飲んだ。
「お兄ちゃん、何止まってんの!」
「監視だ」
ナースステーション。
廊下は暗いが、一際光が見える場所。
本来ナースステーションとは、病棟で看護師が常駐する部屋のこと。
患者からのナースコールに対応したり、家族の面会に応えたり、病棟での看護の窓口ともなる場所。
所謂、看護師たちの拠点だな。
だが、そのナースステーションは僕からしてみれば邪魔でしかない。
「ここを通らなければ、屋上に続くエレベーターへは到達できない」
エレベーターでないと車椅子は運べない。
そのため、エレベーターに乗る必要がある。
どうする?
どうやってあのリアル女どもを引きつける……
「あ、そうだ!お兄さんがあの看護師さんたちをメロメロにしてきてよ!」
何かを閃いたと思ったら、訳のわからんことを言い出す黒崎。
「お前、何言ってんだ?」
「だから、メロメロにすればいいんだよ!お兄さん、それなりに顔はいいんだし、気を引いといて欲しいんだけど――」
「馬鹿言え!拙者はシャルロットたんを愛する身!その他のリアル女なんぞ、落とす価値もないわ!!」
そう、どこかでシャルロットたんが見ているかもしれない。
それに僕がメロメロに落とすなんて無理だ。
だが、他に方法はあるのか?
「お願い、お兄さん……」
黒崎は上目遣いでこちらを見つめる。
「ぐっ……!」
そんな目で見られたら断れないではないか……
メロメロにさせる……
いや、させずとも気を引けばいいんだ。
ていうか、そもそもメロメロにさせる必要はあるのか?
僕、遊ばれてないですか?
そんなことを考えながら僕は一人先にナースステーションに向かって行った。
「なんか、最近彼氏に疲れたんですよね〜。デートの時、毎回キスを要求してきますし」
「そんな男、別れちゃいなよ。絶対、体目当てだって」
ナースステーションの看護師たちが入る扉の前まで来たはいいが、ここからどうする?
ナースステーションの受付には今の会話を聞いた限り、20代ぐらいのリアル女と50代ぐらいのリアル女がいた。
それに、受付に2人いたというわけで中に何人いるかはわからない。
いや、考えても仕方がない。
僕はナースステーションの扉を開けた。
ごめん、シャルロットたん!!
「やあ、子猫ちゃんたち……」
出たーーー!
拙者的イケボ!
僕は輝くほどイケメンボイス、通称イケボで2人のリアル女に話しかける。
壁に手を当ててる姿がカッコよく見せる秘訣でござる。
「あの、ここは関係者以外立ち入り禁止なんですが……」
20代ぐらいのリアル女が僕に困った様子で話しかける。
そりゃそうだわな。
こんな深夜にナースステーションに入るやつなんて不審者にしか思えない。
だが、僕は戦うさ!
「じゃあ、俺がお前の立ち入り禁止の恋を踏み越えてやるよ……」
僕は椅子に座っている20代ぐらいのリアル女のところに行き、リアル女の肩に手をかけた。
「お前も大変だったな……だが、これからは俺がいるから大丈夫だ……」
僕が甘いセリフを言うと同時に、リアル女は席を立ち始めて、メスの顔をしだした。
「は、はい……」
僕はそっとリアル女を抱きしめる。
甘いシャンプーの香りが鼻を通ってくる。
ていうか僕、何やってるんだ?
その間にナースステーションの窓口の外を見ると、黒崎たちが通り過ぎていくのが見えた。
黒崎は僕にウインクをして、親指を立てていた。
「ちょっとあんた!うちの可愛い後輩に何してくれてんのよ!」
今度は50代ぐらいのリアル女が立ち上がり、僕に怒鳴りつける。
僕は20代ぐらいのリアル女を離し、ターゲットを変えた。
「やれやれ……君のそれは、俺に対する嫉妬かい……?」
僕は50代ぐらいのリアル女の顎に人差し指を当てた。
「な、なによ……」
「怒った君も……また、cute girl……」
あれ?
このリアル女、頬一つ染めていないだと……
50代ぐらいのリアル女は怒った表情のままだった。
そのリアル女は僕に向かって太ももを上げ始めた。
ん?
こいつ、何して……
「私にはね、30年間一緒にいる旦那がいるのよ……!!この、不審者が……!!」
「うはっ……!!」
太ももでお腹を蹴られた挙句、頭を抑えられ、床に叩きつけられた。
看護師がこんなことしていいのかよ!
あ、僕不審者って見られてるから当然の対応か。
「あんた、早く警備員に連絡!!」
50代ぐらいのリアル女は20代ぐらいのリアル女に連絡をするよう呼びかける。
まずい……
やり過ぎたか……!
「私、決めた!あんな彼氏とは別れる!」
「ちょっとあんた、聞いてんの!?」
と思ったが、その心配はいらないようだ。
生憎、あのリアル女は自分の世界に入っていて、話を聞いていないようだったな。
「警備員を呼ぶ前にこの場にいる全員に聞いて欲しい俺の想いがあるんだ……」
僕は立ち上がり、ナースステーションの奥を見る。
ナースステーションの奥には看護師が4人ほどまだいた。
よし、ここからは念には念を入れておくか。




