あの言葉をもう一度聞くんだが?
ここに来て、1時間が経った。
僕たちは黒崎とずっと話しっぱなしだった。
話題も尽きないし、何より話していて楽しかった。
だが、さっきから僕に対する質問攻めが多い気もするが。
「お兄さんって好きな食べ物はなーに?」
「ポテチとコーラだな。この二つは譲れん」
ポテチはお手頃な値段で食べられるため、何袋でもいける。
そして、ポテチのお供といえばコーラ。
これはあくまで自論だが、炭酸ということもあって、膨れやすくてダイエットにもちょうどいい。
ただ、油と糖分の摂りすぎには注意が必要だ。
「お兄さんの好きな色は!?」
「水色だな。水色はいいぞー!なんせ、ロジカルファンタジーのタイトル画面の背景が空である水色でござるからな!」
水色は僕が今まで見てきた色の中で一番多い色だな。
親の顔より見た水色だな。
あれ?
ふと美沙の表情を見ると、眉を潜めて険しい顔をしていた。
なんだ、あいつ?
「お兄さんの好きな動物は!?」
「やっぱり、ロジカルファンタジーのマスコットキャラクター、ロジちゃんでござる!あのカクカク具合がたまらぬ!」
「お兄さんの好きな女の子のタイプは!?」
すると突然、美沙が椅子から立ち上がって、黒崎の方を向いて大きく深呼吸をした。
「ごっらああああああ!!ひまりちゃん!!お兄ちゃんのこと妹でもないのに、お兄さんって呼んじゃダメでしょ!!」
「お前が言う? それ」
怒る理由、しょうもなさすぎだろ。
美沙は大声を出して怒鳴った。
そしてここ病院。
誤解されることが多いが、美沙は妹ではない。
ついでに言っておくと、年下でもない。
いつからか知らんが、僕のことをお兄ちゃんと呼んでいるただの幼なじみだ。
「ご、ごめんなさい……でも、美沙さんもお兄さんの妹じゃ――」
「わーたーしーはーいーーのーーー!!」
いや、お前も勝手に呼んでるだろ。
黒崎は悲しそうな表情を浮かべていた。
僕は黒崎の頭を撫でて言うことにした。
「大丈夫だ。お兄さんってこれからも呼んでくれ」
「ほ、ほんと……?」
黒崎は優しい目でこちらを見つめる。
僕は笑顔で返してこう言った。
「ああ、僕が許可する」
今度は美沙の方を向き、説教を始めることにした。
とはいえ、美沙も悪気があって言ってるわけではない。
そこら辺は配慮して注意しよ――
「お兄ちゃんが許可したならいっか!」
「ほんと、なんだこいつ……」
別にわかったならいいか。
こいつも高校生だ。
その辺の善悪はついたということだな。
って、それは最初について欲しいんだがな。
「じゃあ、今日から私とひまりちゃんは妹キャラライバルだね!」
美沙は黒崎に右手を笑顔で差し出す。
お前は何を訳のわからんことを言っているんだ?
「ライバル……うん、これからはライバルだね!」
黒崎も美沙の手を笑顔で握り返す。
「はぁ……」
「これで、仲直りですね!」
呆れてる僕になぜか喜ぶもどき。
まあ、仲良くなったならいいけどさ。
だが、笑顔になったと思ったら、今度はまた悲しい表情を浮かべる黒崎。
こいつは昨日から何かを隠している。
ここまできたら力になってやりたい。
そう決心し、黒崎に声をかけることにした。
「なあお前、何か隠してるだろ」
「……やっぱり私、明日流星群が見たい!!」
黒崎はこちらを向き、僕に必死で訴えかける。
だが違う。
隠してることはそんなことじゃない。
それはもっと過酷なことだと、僕は薄々勘付いてはいた。
「それなら、来年に見ればいいって言っただろ」
「だから……それじゃあダメなんだってば……」
黒崎は美沙の手を離し、さらに悲しい表情をする。
だが、僕には知る権利がある。
聞かなくては――
「だから、なんでダメなんだよ!」
「……んじゃうから……」
ボソボソと何かを言ってるように聞こえた。
なんて言ってるかは聞こえなかったわけではない。
その言葉が嘘だと信じたいからこそ、僕の中で聞こえないフリをしているだけだ。
「私は、来週にはもう死んじゃうんだよ!!」
それは、過酷という言葉では済まされないほどの言葉だった。




