バーンしちゃうんだが?
学校が休みになってから、かれこれ三週間とちょっとが経った。
校舎の修復は進んでいるみたいだけど、まだ授業が行われる程度ではないらしい。
このまま、修復作業だけで今学期が終わるんじゃないのか?
それに、最近では副業という副業もなく、家でソーシャル版ロジカルファンタジーを寝転がりながら楽しむ日々。
「そろそろ、真面目に活動したいんだが副業という副業がないんだよな」
そんな独り言を呟いていたら、もどきが近づいてきて、こちらを覗く。
「副業がないなら、探しにいけばいいんですよ!副業が発生する条件って、自分が困難な状態にあったり、誰かが困っていたりする時でしょう」
「その手があったか!よし、もどき、外に行くぞ!」
僕はやる気満々で立ち上がる。
「はーい!」
服を着替え身嗜みを整えて出かける支度をした。
もどきは外に出ない時は一日中寝巻きを着ている僕とは違って朝起きたらすぐに着替える習慣を身につけていたため、もどきの支度は早かった。
とはいえ、もし仮に副業ができなければ僕に待っているのは死……
いや、そんなことを気にしていても仕方がない。
僕は自分のすべきことをするまでだ。
外に出てまず最初に公園に行くことにした。
ここの公園は木々が生い茂り、遊具もたくさんあってのことか、子供たちの憩いの場として有名だ。
「困ってる人……困ってる人……」
あたりを見回していると、小さな男の子が木の上を見つめていた。
そこには風船が枝に引っかかっており、その下で少年は泣いていた。
「うわあーん!僕の風船がー!」
ポケットに入っていたスマホが鳴り出す。
(枝に引っかかっている風船を取る:400円)
思った通り。
やはり、困っている人がいると鳴る仕組みになっているのか。
それがいいか悪いかは知らないがな。
「そこのボーイ!この拙者が木に引っ掛かった風船を取ってあげよう!」
僕は近づき、少年に話しかけた。
だが、僕は口下手なためどう話していいかわからず、こんな喋り方になってしまった。
許せ、少年……
「ぐすんっ……本当……?」
「ああ、本当さ!お代は君の笑顔で十分さ……」
地面から風船までの距離は約3メートル。
ジャンプでいけるか?
僕は足を引き、助走をつける。
そして、走り出した。
「うおーーーーーーーー!!」
僕は思いっきり飛びあげた。
これなら取れ――あれ?
風船にはかすりもしなかった。
だが、それだけでは済まされず、思いっきり顔を気の幹にぶつけた。
「いてえ!!」
その衝撃でさらに風船が上に浮上し、七メートルほど飛んでいった。
「うわあーん!お兄ちゃんなんて死んじゃえー!」
「てめえ、こら!くそガキ!人生の先輩になんてこといいやがる!」
「うわあーん!怖いよー!」
これだから最近のガキは……
なんか言えばびーびー泣きやがって。
人の行為をなんだと思ってる。
「隆さん!何、子供相手にムキになってるんですか!よしよし、怖かったね〜」
「僕が悪いのかよ!!」
もどきは少年の頭を撫でた。
しかし、どうする?
この距離じゃ届くこともなく、枝に引っかかっているという条件だから今、生きてられる。
下手に触って枝から外れでもしたら風船は飛んでいき、僕の命はバーンとなる。
風船だけに?
あっはっはっはっは!!
全っ然笑えねえ〜。
そんなくだらないことを考えていたら、もどきまで助走し始めた。
いや、七メートルもあるんだぞ。
あの高さは流石に無理だろ。
そして、もどきも走り出した。
「ふっ!!」
勢いよく飛ぶ。
って、あそこは風船の方向ではなく……枝?
「嘘だろ!?」
もどきは枝に着地した。
それだけではない。
枝から枝に軽快なステップで飛び移っていくではないか。
「うわあ……!!」
少年は目を輝かせながらもどきを見つめる。
僕もその姿を見てはいるんだが……
水色の縞模様の下着が見えてしまう。
「取れましたー!」
いつのまにか、もどきの手には風船を持っていた。
そのあとはきれいに着地してフィニッシュ。
「はい、どうぞ!」
もどきは笑顔で風船を少年に渡した。
こいつ、跳躍力もあるんだな。
運動神経良すぎってレベルじゃないぞ、これ。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
少年は笑顔で受け取った。
それと同時に、スマホからは副業達成を知らせるアラームが鳴った。
めでたしめでたし。
いや、僕またなんもしてないじゃんか。




