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第69回投資議会

 ここは、地上とは別次元にある投資家たちの世界、インベスト。

 地上のあらゆる投資を管理し、地上を影で支えるためにある世界。

 そこでは、年に数回投資の条例やルールを見直すために6人の投資家たちにより不定期で行われる会議がある。

 それが、投資議会。


 そこに、いつものように6人の男たちが集まる。

 だが、今回はいつもとは雰囲気が違う。


「おい、龕您!てめえ、どういうつもりだ!!」


 鉦蓄は椅子に座ってはいるものの、何本もの鉄の鎖で体を縛られていた。


「当然だろう。我々にまで危害を加えられたら困るからな。それに罰は罰だ。そこでしっかりと受けるんだな」


 2週間前に起きた、地上での火災事件。

 被害は決して小さいなものではなかった。

 学校の一部は全焼。

 重傷者2名。

 軽傷者1名。

 そのうち1人は意識不明の重体だった。


 鉦蓄がインベストにいないことを知り、すぐさま駆けつけた龕您だったが、すでに被害は出ていた。


「ちっ……!」


「ということで、お前はそこでじっとしていろ」


 鉦蓄は舌打ちをし、機嫌を悪くしていた。

 だが、こんな状況でも鉦蓄は一人で笑っていた。

 そう、彼にはある考えがあった。


「今回のことで投資家東條隆らは重傷を負い、そのうちの友人一人は意識不明の重体だ」


「これもあれも、全部鉦蓄のせいなんだけどねー」


 軌賀は相変わらず、人ごとのように言ってみせる。

 その発言に対して鉦蓄は軌賀を睨みつけていた。


「おーおー、怖い怖い。龕您、続けてー」


 龕您は軌賀たちの方を振り向いたが、すぐに正面を向き、話を続けることにした。


「だが、東條隆が投資をすれば、意識不明の重体の少女も――」


「おいおい!そんなことよりも、もっと話し合うべきことがあるんじゃねえのか?」


 ――一同が龕您の話を聞く、その時だった。

 鉦蓄が口を挟んだのだ。

 鉦蓄の口調はいつもとは何か違う。

 自信のようなものを感じた。


 だが、鉦蓄の言葉を誰一人として聞こうとするものはいなかった。


 しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは蘭壽だった。


「鉦蓄。少し静かにしてもらえないか?今はお前に構っている場合では――」


「俺が言っているのは()()()()()()()()俺は裏切り者のことである情報を握っている。もう、言いたいことはわかるよな?」


「まさか、貴様っ……!?」


 その場にいた全員は衝撃を隠しきれなかった。

 鉦蓄が裏切り者の情報を握っている。

 これは、今後のインベストの命運に関わってくるからだ。

 そう、鉦蓄は取引を持ち出したのだ。


「取引だ。俺を解放する代わりに、俺が持っている情報を渡そう」


「誰が貴様なんかの取引に応じるか!?」


「いいぜ、別に。ただ、ここがインベストのターニングポイントってだけだ。取引に応じなければ、ここでインベストは滅びるかもな!!はっはー!!」


 あたりに再び沈黙が続く。

 鉦蓄が言っている、滅びるという言葉も本当だった。

 だが、ここで鉦蓄を解放すればまた暴れだすかもしれない。

 龕您はそんなことを考えていた。


 だがそこで、一人の男が動いた。

 投資業界トップ1の男、篆だ。

 彼の判断には誰も逆らえない。

 投資業界で最高の権力を持つ男だからだ。


 篆は無言で小さく頷いた。


「わかった。取引に応じよう」


「しかし、龕您……!!」


「篆の意向だ。篆も何か考えあってのことだろう。……蘭壽」


 龕您は蘭壽の名を呼んだ。

 なぜ呼んだのか。

 それは、蘭壽のもつ能力が関係していた。

 蘭壽は鉦蓄のいる方向を向き一旦目を閉じた。


 しばらくして、5秒ほど経ってから再び目を見開いた。


「大丈夫だ。こいつは嘘をついていない。何らかの情報を持っている」


 蘭壽の能力。

 それは、対象者の相手の心を読めることだ。

 蘭壽は鉦蓄が嘘をついていないと言った。

 龕您は蘭壽を疑うこともなく、取引に応じることにした。


「鉦蓄。さっさと話せ」


「扱いが酷いなあ、龕您。話してやるからよく聞いとけよ」


 鉦蓄は不気味な笑みを浮かべた。

 だが、彼はどうしてこんなにも冷静なのか。

 彼はインベストの命運に関わる情報を握っている。

 それを知っているにもかかわらず、この冷静さ。


 そして、鉦蓄は口を開いた。


「俺があんな人間どもに簡単にやられると思うか? あの時、俺は胸を貫かれたんだよ。()()()()()()


 鉦蓄の言っていることは本当だった。

 あの時、鉦蓄にとどめを刺したのは天空城でも隆でもなかった。

 青色の光。

 その光が彼を無力化したのだ。


「なっ……!? 青色の光だと……!?」


「まさかあいつが……!?」


 その場にいる全員は衝撃を隠しきれなかった。

 そして、その能力を使えるのは1人しかいない。


「そうだ。それが、インベストの裏切り者と呼ばれてる、玄橆(げんむ)。あいつは、東條隆の近くにいることは間違いねえ」


 鉦蓄にはそう断言できる自信があった。


「あの短時間で俺を撃てる距離にいるということは、学校外部のやつではない。あいつは、東條隆の近くにいて、今も東條隆のことを監視し続けているだろう」


 筋は通っていた。

 あの時、生徒たちが避難していたため、学校外から校舎に侵入することはほぼ不可能。

 したがって、裏切り者と呼ばれる人物があらかじめ学校にいたということになる。


「その話は本当なんだろうな!?」


「当たりめえだろ!インベストが滅べば俺らも死ぬようなもんだ!」


 龕您は立ち上がり、手を前に出して指示を出すことにした。


「こうしちゃおれん!!投資議会は中止だ!!解散!!」


 龕您は一人、早足で扉の奥へと消えていった。

 他の投資家たちは龕您の背中を見て、続々と立ち上がり、扉の方へと向かった。


「おい!取引だ!俺を解放しろ――っておい!お前ら聞いてんのか!!」


 一人縛られている鉦蓄は、解放を要求していた。

 だが、誰一人として振り向こうとはしなかった。


「多分、『今すぐ解放するとは言ってない!』みたいな感じじゃないー?」


 部屋から出ていくと同時に軌賀が声をかけた。


「ふへへっ!今日の表紙は紗凪世ちゃんじゃあ!最高最高……!ふぉぉぉぉぉ!!」


 その後ろに、雑誌を歩き読みしながら極兒が歩いていた。


「極兒は今日も何もしなかったねー。いい加減、投資議会参加しないと投資議会に出られなくなるよー」


 軌賀と極兒な言葉を最後に、部屋には鉦蓄一人取り残されてしまった。

 部屋はしばらく沈黙が続いた後、男は一人で叫んでいた。


「俺を解放しやがれえええええええ!!」

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