ここからまた始めればいいんだが?
「それで、お前は何しにきたんだ?」
あれから数分後、目を覚ました上条になんでここにきたのか聞くことにした。
ほんと、何しにきたんだよ。
人のベットの上まで上がって、僕の体を触ろうとした変態がよお。
「一線を超えにきた」
ドヤ顔で言い張る上条。
だが、これが冗談ということぐらい、僕にはわかっていた。
理由は特にない。
ただの勘だがな。
「嘘だな」
「嘘だよ」
やっぱり、嘘だった。
とはいえ、心のどこかで安心してしまう自分もいた。
襲われずに済んだから?
こいつをもう、疑わずに済んだから?
まあ、なんでもいいか。
「で、なんできた?」
「やだなあ、お見舞いに決まってるだろ」
上条は笑顔で答えた。
お見舞いで普通、あんなことしないと思うが。
「頼んでない」
「頼まれたんだよ」
「誰に?」
「先生に。仲がいい子がお見舞いに行けば、喜ぶだろうからって」
余計なことしやがって。
いや、別にこいつが来たところで喜ばんし、仲もいいとは思ってはいない。
ただ、成り行きでつるんでるだけだ。
「あれから学校はどうなった?」
「南館の全焼や、例の犯人がテロリストの可能性があるから、これ以上被害が出ないように学校はしばらくお休みらしいよ」
南館……僕らが鉦蓄と戦った場所。
あれだけ火が出れば、校舎もそりゃ焼ける。
それにあいつは、テロリストではない。
だが、いつまたやつが来て、今回のようなことが起きるかわからない。
警戒しておかないとな。
「それで、そっちはそっちで派手にやったそうだね。なんでも、警備員の歯を3本折った挙句、天空城さんの手術の邪魔をするとはね」
違う。
そんなこと、僕がするはずがない。
僕はただ――
「僕は――」
「僕じゃないって言いたいの?」
「え?」
その瞬間、上条は僕を睨み付けるような鋭い眼光になった。
口調もいつものような柔らかな口調ではない。
怒りの入った口調。
「隆が焦る気持ちもわかる。僕だって同じ気持ちだ。今回の犯人は許せない。それも、殺したいほどに」
『殺したいほどに』。
こいつがこんな言葉を使うなんて思わなかった。
それだけ、許せなかったということだろう。
「だけど、その怒りを周りの人にぶつけてどうするんだよ!!周りに迷惑をかけてどうするんだよ!!」
「だから僕は――」
「まだ言うか!!隆には他にやるべきことがあるんじゃないのか!?それが僕にはなんなのかわからないけど、とにかく頑張れよ!!」
他にやるべきこと……
そうだ、僕は投資をしなければならない。
投資をすれば、天空城を救えるともう1人の男は言っていた。
もし、それで本当に救うことができるなら……
「そうだな、ありがとう上条。お前のおかげで何か大事なことを思い出せた気がする」
「いいってことよ!」
上条は満面な笑みを浮かべ、親指を立てた。
またこいつに助けられたな。
だが、ここである疑問が僕の中で生まれる。
どうしてこいつは、僕にやるべきことがあることを知っていたんだ?
投資のことを話した覚えはない。
だとすると、ただの偶然か?
「ということで、僕はここらへんで退場するとして、あとはスペシャルゲストにバトンタッチさせてもらおうかな」
「スペシャルゲスト?」
そう言うと病室の扉が開き、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
カーテン越しだから、人影しか見えない。
その人影はカーテンに手をかけ、こちらに手だけが姿を表した。
一見すると、しなやかな手。
そして、カーテンが開いた。
「隆さん!」
そこには、学生服に身を包んだもどきがいた。
こいつにも、色々と迷惑をかけてしまったな。
「ではでは〜」
もどきが入ってきた直後、上条は座っていた椅子から立ち上がり、カーテンの外に行き、部屋を出ていった。
別に、このままいてもらってもいいんだが。
あいつなりの気遣いなのだろうか。
もどきは上条の座っていた椅子に座り、僕の方を向く。
「もどき、色々と迷惑をかけて悪かった。僕、やっぱり投資するよ」
「隆さん……」
一度は諦めていた投資。
だけど、ここからまた始めればいいんだ。
副業をこなし、お金を得て、投資をして、利益を得る。
これを繰り返していけば、天空城は……
信じてやってやる!
待ってろ、投資生活!!




