迎えにきたんだが?
意識不明の重体……?
こいつは何を言っているんだ……
僕はどこか笑みを浮かべていた。
気持ちの悪い微笑み。
なんで……なんで僕は笑っているんだ……
「お、おい……冗談がすぎるぞ、もどき……だって……だって……あいつは――」
「医師の診断によると、全身大火傷で臓器すらも焼けているそうです。まさに、生きているのが奇跡と言ってもいいぐらいに」
その瞬間、僕の微笑みは消えた。
なんだよ……それ……
あんな炎の渦に巻き込まれてりゃ、ひとたまりもないって言いたいのかよ……
全部……全部あいつのせいだ……
いや、違う。
僕に力がなかったからだ。
僕に力さえあれば、天空城を助けられたかもしれないのに……
僕のせいだ……
僕が……
「じゃあ今天空城はどこにいる!?」
「天空城さんは今、治療室でオペが行われて――って、あれ?隆さん!?」
もどきの言葉を最後に、僕は廊下を走っていった。
廊下は広く、まるで迷宮のようだった。
治療室がどこにあるかなんてわからない。
だが、僕はそこに行かなくてはならない。
行って、天空城の無事を確認しないと……!!
しばらく歩いていると、廊下の壁に地図のようなものがあった。
この病院は1階から7階まであり、フロアごとに見てもかなりの大きさだ。
だが、すぐに治療室はわかった。
こういうのは大体、1階にあることぐらいはゲーム脳の僕ですらわかる。
ここは4階。
今はエレベーターに頼るよりも、階段で降りた方が早いと感じた。
待ってる間に、もどきに出会すかもしれない。
そうなれば、病室に連れ戻されるだろう。
階段を一気に駆け下りていく。
途中、そんな僕を変な目で見るやつがいたが、気にしている場合ではない。
階段を下りるたびにお腹に力が入り、傷跡が痛む。
吐きそうなくらいの痛み。
階段を5段降りるたび、吐血をしていて床に血を溢す。
だがな、天空城はもっと痛いんだよ!!
痛む傷を押さえながら降りた。
そんなことを考えていたら、1階に着いていた。
ここまでくればもう少しだ。
地図を見た限り、直線距離で約100メートル。
それから僕はどんどん天空城のいる治療室まで距離を縮める。
……80メートル。
……50メートル。
……40メートル。
どんどん、距離が近づいていくのがわかる。
もう少しで……!
もう少しで……!!
……30メートル。
……20メートル。
……10メートル。
そして、一つの部屋が見えた。
赤く点灯して頑丈な部屋。
その前には警備員が1人と、40代ぐらいの夫婦がいた。
吐血し過ぎて貧血で倒れそうだ。
だが、もう少しで……
もう少しで……
……5……4……3……
「なんだね、君は。ここは関係者以外、立ち入り禁止だぞ」
警備員が僕に向かって何かを言っている。
だが、僕は耳を傾けなかった。
……2……1……
警備員は唖然としているのか、動かなかった。
警備員の横を通り過ぎ、扉の前に立つ。
治療中と赤い点灯とともに書かれた扉の前までたどり着いた。
「おい、お前!何を!!」
「あなたなんなの!?娘の治療を邪魔しないで!!」
警備員と夫婦のうちの女が大きな声をあげる。
会わないと……!
天空城に会うんだ……!
僕は扉に手をかけた。
0!!
扉を思いっきり引っ張った。
だが、扉は開かなかった。
それから何度も扉を力強く開けようとしたが、開かない。
「何で開かないんだよ……!!天空城!!僕だ!!東條隆だ!!ここを開けてくれ……!!」
大きな声で扉を叩く。
すると、後ろにいた警備員が動き出した。
「やめなさい君!!」
「邪魔だ!!」
僕は近づいてくる拳を警備員に突き上げ、顔面を一発殴った。
「ああ……!!ああああああ……!!」
警備員は大量の吐血をした。
警備員は倒れ込んで、口を押さえていた。
こんなやつを見ている場合ではない。
そして再び扉を叩き、大きな声で叫んだ。
「天空城……!!開けてくれ……!!開けてくれ……!!」
何度も何度も……手にあざができる痛むほどに。
もう、自分が何をしているのかがわからなかった。
「いい加減にしなさい君!!」
後ろから声が聞こえる。
さっきの警備員ではない。
夫婦のうちの男の方だろう。
「天空城……!!天空城……!!天空城……!!」
扉を何度も叩いていたら、手にもう感覚がなくなっていった。
「天空城……!!天空城……!!天空城……!!天空城……!!天空城……!!天空城……!!――」
次の瞬間、ポケットに入っていたスマホが鳴り出した。
スマホにかまっている暇はない。
早く、この扉を開けないと!!
扉を叩こうとした瞬間、バングルが赤く光り、ものすごいサイレンの音がバングルから鳴る。
そこで、僕の手は止まった。
なぜ鳴った?
僕はしばらく考える。
まさか……!
僕はポケットからスマホを取り出し、確認した。
(天空城空の治療妨害をやめる:100円)
「治療妨害……? 誰がそんなことしてるんだよ……」
僕の目からは涙がこぼれ落ちていた。
治療妨害をしていたやつなんて、他にいない。
この僕じゃないか……
はははっ……僕って……飛んだクズじゃないか……
スマホからは、副業達成を知らせるアラームが鳴った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……!!」
僕は号泣し、気を失った。
そのあとのことは覚えていない。
どこで僕は間違えたのだろうか。
時間を巻き戻せられるなら、どこに戻ればいいのだろうか。
仮に巻き戻せだとして、力のない僕に彼女を救えたのだろうか。




