投資業界トップ4の男との直接対決なんだが?
あれら走り続けた。
そして、南館に繋がる通路に着いた。
――だが、そこに目にしたのはありえない光景だった。
「なんだよ…これ…」
どこを見ても火の海。
一面が真っ赤に染め上がる。
おかしいのはそれだけじゃなかった。
この炎は熱くなかった。
床のアスファルトもなぜか燃えているが、熱くはない。
「どうなってやがる…」
僕は通路を渡り、南館に着いた。
ここに、もどきと奴がいる。
しばらく走っていると人影が見えた。
2人。
もう後戻りはできない。
生唾を飲み込み、覚悟を決める。
「よお!遅かったじゃねえか!」
先に話し出したのは誘拐犯の方だった。
「隆さん!!」
僕は声のする方向を向く。
そこには、淡い赤い何かで吊るされたもどきがいた。
制服は燃えていて、肌が少し見える。
「もどき!!おい、お前!僕は来た!さっさともどきを離せ!」
僕の声に再び怒りが混じる。
こいつだけは許さない。
それに、一発殴らないと気が治らない!
「そうはいかねえな!俺を倒したらこの女は解放してやる!言っておくが俺は能力者だ」
誘拐犯は壁に左手を当てた。
何してるんだ、あいつ…?
「ヒート!!」
その瞬間、やつの手からは炎が出て、コンクリートでできた壁を突き抜ける。
コンクリートの壁は徐々に溶けていく。
能力者なんて、どこの異世界ものだよ。
僕には当然、能力も無ければ、力もない。
どうやってやつを倒す?
次の瞬間、ポケットに入っていたスマホが鳴り出した。
こんな状況でスマホを見る馬鹿はいない。
とにかくどうすれば――
「痛い痛い痛い痛い!!わかった!!わかったから!!」
腕が締め付けられる。
スマホを見ろということだろう。
ということはまさか――
ポケットからスマホを取り出す。
そして、ロック画面を見た。
(シャルロットを救出する:5000円)
(鉦蓄を倒す:5000円)
「嘘…だろ…」
副業だ。
こんなやつどうやって倒せばいいんだよ…
ていうか、なんて読むんだよ。
ん?
よく見れば金額がでかいぞ。
この金があればパソコンが再び我が手に…!!
「おいおい。こんな大事な時にまでスマホを見るのか?まさか、助けでも呼ぶ気か?」
「ふっはははは…」
僕は小さな声で笑った。
これが、東條隆の本気だ!!
「隆さん?」
「まさか、ビビりすぎて頭でも狂ったか?情けねえ――」
「我が名は東條隆!ロジカルファンタジートップオブプレイヤーにして、シャルロットたんの夫!」
こいつは僕に電話越しに名前を言った。
だったら、僕も自己紹介をしてやらないとな。
「ごちゃごちゃ言ってると潰すぞ!」
男は右手を開き、こちらに向ける。
さっきの炎でもまた飛ばす気か。
だが、甘い…
甘すぎるんだよ…
「おっと、我に攻撃するのはやめておけ!我も隠していたが能力者でな!」
「えーーー!?隆さん、能力使えるんですか!?私も初耳ですよ!?」
もどきは目を大きく開かせて驚いた。
馬鹿!
察しろ!
僕が能力なんて使えるわけないだろ!
ただのハッタリでどこまでやれるかわからない。
だが、今の僕にはこれしかないんだよ!
男は手を下ろした。
「んーなわけねえだろ!インベストのやつでもない一般人が使えるはずねえんだよ!」
「お前は何もわかっていない!この世界では超能力という、ごく一部の人間が持っている能力者がいるんだよ!そして、我は闇を自在に操る能力者!又の名を、ダークネスオルガナティブ!!」
よし、とりあえず知っている語録は並べ置いた。
まあ、こんなやつに効果があるとは到底思わないが――
「クソっ!!こんな情報聞いてねえぞ!俺は…闇になんか飲まれやしねえ…!!」
あれ?
意外と効いてる?
男はなぜか震えていた。
こいつはもどきに酷いことをした。
だったら、こいつにトラウマを植え付けて罪を償ってもらわないとな。
「ぐおおおおお!!右手が…右手が疼く…!!」
僕は右手を強く抑え、力を封じるフリをした。
右手には力を入れ、震え上げる。
「我の右手には、別次元を旅した時に倒した龍の魂が宿っているんだよ…!まさか、こんな時に封印が解けるとは…!」
「やめろ…やめろーーーーー!!」
さっきまでの自信はどこへやら。
転生逆転とはこのことだ。
お母さんごめんなさい。
今、あなたの息子はかなり恥ずかしいことをしています。
でも、今日だけは…この瞬間だけは許してください。
「熱い…!身体が熱い…!我の中の…!ダークネスオリジンが目を覚ま――」
「クソがあぁーーーーーッ!!」
その瞬間、やつの手から炎が放たれた。
その炎はだんだんと大きくなり、こちらに向かってくる。
避けられない。
「隆さん!!」
もどきの声が聞こえる。
僕は自分のしたことに後悔はない。
厨二病を演じたのも、もどきを助けると決めたのも自分の意思だ。
唯一後悔したことといえば、こいつを殴れなかったことだろう。
僕は目を瞑り、覚悟を決めた。
だが、感じたのは炎の熱さではなく、つむじ風のような風だった。
「なっ!!」
僕はすぐに目を開ける。
目の前にはさっきまで迫ってきた炎はなかった。
男はかなり動揺していた。
そして、そこにいたのは、意外な人物だった。
「助けに来たぞ!東條隆!」
「天空城!?」




