エデンへの扉が開いたんだが?
「ここが…エデン…」
やっとたどり着いた保健室の前。
ここまで来れたのは多くの犠牲があったからだ。
だが、もう僕の前に立ちはだかる敵はいない。
いや、強いて言えば、天空城自身だ。
僕を守ってくれるものはもういない。
――あとは僕が全てを終わらせる。
僕は震える手で保健室の扉に手をかけた。
いいか隆、よく聞け。
お前の目的は天空城空の下着の匂いを嗅ぐこと。
決して、リアル女の裸を見るためにここにきたのではない。
だから、極力見るな。
見ればシャルロットたんを裏切ることにもなるからな。
僕は心に言い聞かせ、指に力を入れた。
「よし、行くぞ!!」
ガラガラと扉の開く音。
その瞬間、予想以上の光景が広がっていた。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ…」
視界180度に広がっていたのは、上半身裸のリアル女たちだった。
どこを見ても乳房…
乳房…
乳房でござる〜!!
「ん?」
「隆さん…」
あたりの女子の視線がこちらに向く。
その中にはもどきもいた。
「あ、どうも〜…」
軽く挨拶をする。
やっぱり僕は思うね。
世の中、挨拶から全てが始まるんだ。
取引相手にはまずなんて言う?
挨拶だろ?
だから、僕は挨拶という日本の文化を誇りに思う。
日本、万歳!!
「キャーーーーー!!」
「男子よ!!男子!!」
「ですよね!?」
案の定、悲鳴を浴びせられた。
リアル女たちは胸を隠し始めた。
なるべく、配慮して見ないであげよう。
そして、一人のパーマの女教師が近づいてくる。
「あなた!!何してるの!?」
「…ッ!?」
まずい、こうしちゃいられない!
早く下着の匂いを嗅がなければ!!
僕は黙って上半身裸のリアル女を掻き分ける。
リアル女たちの奥に下着があったからだ。
「ちょ、あなたね!自分が何してるか分かってるの!?」
パーマの女教師は文句を言うだけで、こちらに危害は加えない。
だったら無視一択だ。
僕はリアル女たちが脱いだ下着の入ったカゴの前に立ち尽くした。
この中に、天空城の下着が…
だが、どうやって見分ける?
一つ一つ確認していれば、その隙にリンチにあうことは確実だ。
参ったな――
「ラベンダーの香りです!!」
「…ッ!?」
もどきが大声で叫んだ。
ラベンダーの香り…
ラベンダーの香り…
思い出すんだ。
3歳の頃、母さんと行った花畑で見つけたラベンダーの香りを…
そして、繋げるんだ。
この無数の布の中にあるラベンダーを。
「うおーーーーー!!」
気がつくと僕はその場で叫んでいた。
視線でリアル女たちが引いているのは感じていた。
「ふんがーーーーー!!」
僕は大きく息を吸い、全ての下着の匂いをその場でかき集めた。
酸素を一気に吸ったため、咳き込みそうだ。
だが、咳き込んでいる暇もない。
もう少しで…
もう少しで…
「見えた!!」
確かに感じた。
僕には、一つの下着が輝いて見えた。
あれだ。
きっとこれに違いない!
僕はその下着まで歩いて、カゴの中をのぞいた。
そこには、少し大きめの、ひらひらのレースが付いた可愛らしいブラがあった。
僕は生唾を飲み込み、そのブラを手に取った。
「これが、天空城の…」
今は自分を信じよう。
このあと僕はどうなるだろうか。
チャンスは一度だと思っていい。
「おい、東條隆!それは…!!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
そう、この下着の主人、天空城だ。
ごめん、天空城。
すみません、ぷらねっと神。
そして、こんな僕を許してくれ、シャルロットたん。
そのブラを鼻まで持ってきて大きく鼻で呼吸をした。
「スゥーーーーー!!はぁーーーーー」
鼻の奥まで広がるラベンダーの香り。
この匂いを嗅ぐために僕はここまできたんだ…
もう満足だ…
我が人生に一片の悔いなし…
「きーさーまーーー!!」
その瞬間、首筋につむじ風のようなものが通った。
あれ?
僕、今から蹴られ――
「ほげらっ!!」
僕はそのまま意識を失った。
おそらく、こんな蹴りができたのは天空城しかいない。
そして、僕のスマホは鳴り出した。
――副業を達成したということを知らせるために。




