上条くんのご登場なんだが?
「てめえは、上条…」
上条。
奴がどうしてここにいる?
ムキムキの話によると、あいつは熱で休んでたって聞いたが。
上条はこちらに向かって歩いてくる。
「おいお前、熱は大丈夫なのかよ」
頭には冷えピタを3枚。
口にはマスクを4重にかけていた。
明らかに大丈夫とは思えない。
そして、それが意味があるとも思えないんだが。
「あぁ、ちょっと熱出しちゃったけど、ピンチっぽいから助けに来たよ。うっわ、だっる」
マスクで声がこもりながらも、ちゃんと聞き取れた。
最後にボソッと何か言ったみたいだが。
「てことで、隆くん。ここは僕に任せて行ってこい!」
上条はこちらに親指を立てて、ゴーサインを出した。
「いや、僕立てないんだってば。それに、お前も今にも倒れそうじゃ――」
「女の子に手をあげるのは、僕の流儀に反するけど、隆くんのためだ。人肌脱ぎますか」
「って、聞いてないし」
そう言うと、上条は冷えピタとマスクを全て取り、昇龍の方を向き始めた。
とりあえず僕は、回復するまで上条を見守りますか。
「まさか、純粋無垢な王子様と呼ばれるあんたまで覗きに加勢するとはね」
「え!?僕、そんな風に呼ばれてるの!?いやー、照れちゃうなー」
何が純粋無垢な王子様だ。
性欲気質なエロス様の間違いだろ。
「でも、それも今日で終わりさ。あーしが全部女子どもにバラしてあんたのモテ期を終わらせてやるよ!」
あれ?
こいつ、前堂々と教室で下ネタ言ってたくせに、まだモテてたのかよ。
「あー、怖い怖い」
「てか、お前らいつまで茶番してるんだよ!」
ここまでくると、流石に笑えてくる。
いや、これまでのムキムキたちのことを考えると、ここで笑ってはいけない気がする。
だったらさっさと戦えって話だ。
「馬鹿野郎!君のために時間稼ぎしてるのに!?」
上条はこちらを向いて怒り出した。
「あ、そうだったの。じゃあ、もう少し話を続けてくれ」
時間稼ぎしているとは気づかなかった。
だが、回復力には自信がある。
今のでだいぶ回復した。
もっとも、座ってるからかもしれないがな。
「ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと殴り殺してやる!!」
「やれやれ、女の子がそんなこと言っちゃダ――」
昇龍は上条に向かって走り出した。
「おいおい、このままじゃまずいって!」
「あ、隆くん、ごめん。僕、熱で力出ないや――ブヘッ!!」
「上条ーーー!!」
上条は何もしないまま、勢いよく蹴り飛ばされた。
「カッコつけるからそーなんのー」
昇龍の視線はこちらに向いた。
「次は東條。あんたの番だ」
昇龍はこちらを睨みながら歩いてくる。
どうすれば…
「ひ、ひぃーーー!!」
今度こそ終わりだ…
諦めかけたその時、昇龍の足元に何かが絡みついた。
「な、なんだし!?」
上条だった。
お前まで、どうして僕を……
「隆!行け!! はあ……はあ……!!」
上条は昇龍の脚に荒く息遣いを起こす。
「って、何やってるんだよ!?」
「き、きめえよ!!」
「隆。お前は倒れたみんなの思いを背負ってるんだ! だから、お前は進むんだ!はぁ……はぁ……ぼ、僕の吐息でノックアウト……」
上条は息を荒くしながら、めちゃくちゃ昇龍の脚に息を吹きかける。
ほんと、何してんだあいつ。
「その格好を見て言われても説得力ないから」
「ほんとだし!まじキモいんだけど!!」
これには流石に昇龍に同情する。
かわいそうに。
「大丈夫!イケメンだから許される!」
自分で言ってるし。
もう知らん。
明日にはこいつの席には遺影が立ってることだろう。
「だから、僕やみんなの分まで堪能してこい!!」
みんな……
僕の頭には、倒れていった仲間たちの顔が浮かんだ。
目的は違えど、やることは同じ。
だから、僕がお前らの分まで見てきてやるよ!!
身体の方はだいぶ回復してきた。
僕は立ち上がり、エデンに向かって走り出した。
「ちょ、待…!!ひゃうっ!!」
「君の相手は、僕の吐息だ!!」
上条、ありがとう。
お前がいなければ、僕は生きることができなかっただろう。
だから、お前のことはいろんな意味で忘れない。
――最高に変態プレイをした上条樹としてな!




