ムキムキの思いを無駄にしたくないんだが?
「ムキムキ!!」
僕は急いで倒れているムキムキのところへ行った。足を崩し、しゃがんでムキムキの目を見る。
「ムキムキ、大丈夫か!?」
「団長……」
団長と掠れた声で呟く。
「喋るな! ゆっくり呼吸を整えて!」
僕は涙を流しながら、必死で訴えかけた。
「俺、実を言うと、団長に憧れていたんです……あのチャラチャラした女たちにガツンと言っていた、……あの時から……」
「僕に……」
憧れ。
僕はそんな存在になれていたのか?
僕なんて、引きこもりでシャルロットたんのことしか頭にないどうしようもないやつなのに……
「あんたは優しい…そんなところに惚れたんです……あいつらに勇気を持って行動できるなんて、やっぱり団長はすごいなあ……」
僕が、優しい……
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだ。
僕は自分自身がどうしようもない人間だということくらい、心のどこかでは理解している。だからどんな相手に何を言われたって当然な正論。
でも、こいつは僕という存在自体を認めてくれた。
それがどうしようもなく、嬉しかった。
「実は、俺は覗く気なんて最初からなかった……ただ、団長の一途に覗きたいという心に胸を打たれて、団長の助けになれたらと思い、今回の作戦に参加しました……」
こいつは覗く気はなかった。
それは、こいつの目を見ればわかる。
そもそも、明らかに女性と話したことなさそうな感じだし、性欲を微塵も感じない。
だったら…!!
「俺、団長の役に立てたでしょうか……」
「当たり前だろう!! お前がいなければ、仲間たちをまとめることもできなかったし、ここまで来ることもなかった!!」
ムキムキの手を両手で握り、大量の涙が床に溢れる。僕の口から出たのは全て事実だった。
ただ真実だけが勝手に口から出てくる。それはまるで、信頼した人間に話しかけるような感じでごく自然なものだった。
「よかっ……た……」
「ムキムキ? おい、ムキムキ……ムキ……ムキ…………ッ!? ムキムキーーーーーーーッ!!」
ムキムキは笑顔で目を瞑り、戦線を離脱した。
空を向いて叫んだ。泣いた。
ムキムキはもういない。
ついに、僕一人になってしまった。
だが、僕は止まらない。
ムキムキや倒れていった仲間たちの思いを無駄にしないためにも、前へ進むんだ!
僕はムキムキの手を優しく離し、さっき握っていたムキムキ自身の手をムキムキの心臓に置いて立ち上がり、涙を腕で拭った。
そして、足を進めた。
「きゃはっ! 逃す……かよ……!!」
後ろから声が聞こえる……?
僕は恐る恐る振り返る。
――そこには、倒したはずの昇龍がいた。
「うっ…!!」
しばらく走っていなかったせいか、運動不足のせいで身体が痛む。
――僕は足をついてしまった。
「隙あり!!」
その瞬間、思いっきり蹴られた感覚がわかった。
「うっ!!」
僕は思いっきり、壁に吹き飛び、致命傷を負う。
ムキムキ……
ごめん……
お前が繋いでくれた道、正直嬉しかったよ……
でも、僕、ここまでみたいだ…….
世の中、諦めなきゃ必ず報われるなんて、所詮は結果論にしか過ぎないんだよ……
僕は目を瞑り、意識が飛びかける。
さらば、僕の人生……
シャルロットたん……
今そっちに行くよ……
「やっほー!!隆く〜ん!!」
「え?」
「あぁ?」
僕は顔を上げ、声のする方向を向く。
「助けに来たよ」
そこには、ブンブンと笑顔で手を振って壁にもたれている上条がいた。
てか、マスクと冷えピタどんだけ付けてるんだよ。




