転校生が来るんだが?
「伊藤」
「はい」
「井田」
「はい」
「上杉」
「はい」
――朝のST。
教師が一人一人点呼を取り、出席確認をする。
だが僕はそれどころではなかった。
さっき、美沙から教えてもらった情報は暗記した。
一旦整理しよう。
天空城空――
成績優秀、運動神経抜群、曲がった事が嫌いな16歳。
芳月学園の風紀委員をやっていて、その中でも風紀委員長も務めている。
幼い頃に合気道をやっており、芳月学園最強の称号も持つ。
美沙から貰った情報はこんなところか。
というか、本当に必要だったのかよ。
まあでも、合気道をやっているなら無理やりスカートの中に潜り込もうとすれば殺されることは確実…
それだけでもわかれば、多少は有益な情報だったとでも言えるだろう。
「よし、全員いるな」
考え事をしていたら、出席確認がいつの間にか終わっていた。
あれ、僕は?
僕の苗字はとから始まる。
名簿順で言っても、もう呼ばれているはずだ。
「先生、東條呼び忘れてますよー」
とある女が教師に呼びかける。
またあの女か。
確か、妃とか呼ばれてたな。
別に、ほっとけばいいのに、なんでいうんだよ。
教師はこちらを向いて視線を合わせる。
「ごめんごめん。東條、いつもいないから今日もいないと思って先生飛ばしちゃったよー」
なんだこいつ。
生徒に向かってそれはないと思うが。
まあ別に気にしてないからいいんだが。
教師の発言にあたりは笑いだす。
何一つ笑えないのは僕だけだろうか。
いかんいかん。
集中だ集中。
下着の匂いを嗅ぐ…
下着の匂いを嗅ぐ…
下着の匂いを嗅ぐ…
下着の匂いを嗅――
「えーっと、突然だが転校生を紹介する。しかも、二人だぞ二人!」
僕の思考を遮るように教師が言った。
転校生?
こんな時期に珍しいな。
それに2人?
まあ、リアルのことなんて僕には関係ないからどうでもいいんだがな。
「上条。入ってこい」
教師は閉まっている扉に向かって言った。
「はーい!」
扉の奥から男の声が聞こえ、そっと扉が開く。
そして、入ってきたのは青髪の男だった。
その男は教卓の前に立つと、後ろを向き、黒板に名前を書き始めた。
それと同時に、周りの女子もざわつく。
「あの子、結構イケメンじゃない?」
「東條並みにイケメンだよ!」
あっそ。
なぜか僕の名前も出るが、興味はない。
それよりもあいつだ。
あれなんて書いてあるんだ?
き?
じゅ?
たつき?
男は動かしていた手を止め、こちらを向いた。
「上条。自己紹介を」
「はいはーい!上条樹でーす!好きな言葉は女の子の瞳の中の希望を数えること!流儀はこの世の女性を平等に愛すること!よろしくお願いしまーす!」
上条と名乗る男は、自己紹介と思わしきことをしてニコニコと笑顔を振りまきながら一礼をした。
くっさ。
なにこのふざけた挨拶。
流石に周りの視線も痛いだ――
「キャーーーーー!!」
「付き合ってーーー!!ていうか、今すぐ結婚してーーー!!」
「樹なら抱ける!!」
前言撤回。
クラスの奴らはみんな彼にメロメロのようです。
ていうか、男たちまで変なこと言いだしたぞ。
だが僕はこいつらの声援に屈することなく、男に冷たい視線を送る。
「あっははっ!女の子だけじゃなく、男の子までに言われるなんて僕ってひょっとしてモテる?」
男は顎に手を当て言った。
「キャーーーーー!!」
「樹ー!!俺を抱いてくれーーー!!」
あたりはこの男の一言により、余計に騒がしくなった。
うるさいうるさい…
僕の思考を邪魔するな…
「静かに!!」
教師が収集をつけてくれた。
助かった。
これで少しは考えに集中できるだろう。
「じゃあ席は――東條の横が空いてるからそこに座れ」
「なんでだよ!?」
思わず声が出た。
横を向くと席が丁度空いていた。
こんな野郎といたら思考の妨げになる。
それだけはなんとしても避けないと。
「いいだろう。さあ、上条」
教師は男に合図をした。
「はーい!」
男も元気よく返事をし、こちらに向かってくる。
気がつくと男は、僕の隣に座っていた。
「よろしくね。東條隆くん」
「…ッ!?」
彼はこちらに視線を合わせて小さく呟いた。
なんだ、今の。
胸にものすごい衝撃が走る。
それになんだ?
なぜ、僕の名前を知っている?
「おい、お前!?なんで僕の名前を知ってい――」
「東條!上条のことが気になるのはわかるが、転校してきて、今は彼も不安だ。そっとしておいてやれ」
男に話しかけようとするが、教師に止められた。
男も一瞬こちらを向いたが、正面を向き始めた。
「くっ…!」
ここで揉めるのは合理的ではない。
こいつは、僕のことを知っている口ぶりだった。
こいつとは面識のないはずだが…
――いつかこいつのことも調べる必要があるな。
「それに、もう一人来るからな」
まだ来るのかよ。
また騒がしくならなければいいが…




