情報収集を始めるんだが?
「おにーちゃーん!迎えにきたよーーー!」
僕はこの時を待っていた。
玄関では隆氏が靴を履き替えて待機している模様。
あとは、目の前にある扉を開けるだけ。
待っていたのは美沙と登校したいとか、そんな童貞じみた考えをしているわけではない。
いや、ある意味ではそうか。
とにかく今の僕には情報が欲しい。
僕は立ち上がり、玄関の扉を開けた。
――そして、目の前にいたのは1ヶ月ぶりに見る美沙だった。
こいつの名前は恵南美沙。
リアル女だから認めたくはないが、一様、幼馴染ということになっている。
なぜか昔から僕のことをお兄ちゃんと呼んでいる。
「…」
「…」
だが、お互いに目が合うが、その場で立ち尽くして一言も喋らなかった。
ん?
なんだ、この間は。
「み、美沙?」
「あなた、誰ですか?」
お前もかよ。
美沙も僕のことをわからなかった。
仕方ない、ここは一発ぶちかますか。
「拙者、タカシアイランドの創立者であり、ロジカルファンタジーの中ではトップに君臨する男、東條隆でござる!好きなものはもちろん、シャルロットたん!嫌いなものはリアル女。シャルロットたんを愛し続けて早3年と2ヶ月と9日と2時間32分41秒!今は投資家としてそのシャルロットたんを救うべく活動して――」
その瞬間、手首にちぎれそうな痛みが走る。
「あぁっ!!」
なんだ、この痛みは。
腕を見ると、血が通っていなかった。
特に持病があるわけでもない。
ならどうして――
「わぁ!!お兄ちゃんだ!生お兄ちゃんだ!」
美沙は僕の手首の痛みには気づいていなかった。
それどころか、なぜか喜んでいた。
「あ、あぁ…」
まあ、僕ってことに気づいてくれればいいか。
そして僕らは学校に向かって歩き出した。
痛みはいつの間にか治まっていたからよかったものの、さっきの痛みはなんだったのか。
いや、今は考えていても仕方ない。
情報だ。
とにかく、情報を集めないと。
「風紀委員の天空城空についてどう思う?」
まずはストレートに美沙に聞く。
変な誤解をされないといいが。
「ま、まさかお兄ちゃん、私というものがいながら天空城さんのことが気になってるっていうの!?最低!この浮気者!!」
なぜか、めちゃくちゃ怒られた。
「あぁ、誤解以前の問題だったよ」
そして、浮気者はやめろ。
僕にはシャルロットたんがいるんだよ!
「そうじゃない。今は、どうしても情報がいる。僕を信じろ」
若干の怒りを抑えつつ、本題に入る。
「ほんと?」
美沙は首を傾げてこちらを見つめる。
「本当だ。なんせ僕はシャルロットたん以外興味ないからな」
「お兄ちゃん相変わらずだね…うーん。どうしようかな」
美沙は顎に人差し指で手を当て考える。
「頼む!なんでもするから!!」
こればかりは命がかかってる。
金でもなんでもやるから、頼む美沙!
「今、なんでもやるって…」
一瞬にして美沙の表情が変わった。
だが、狙い通りだ。
このまま情報が手に入れば――
「あぁ、なんでもしてやる!お前の欲しいものだってなんだって買ってやるぞ!どうだ、悪い話じゃないだ――」
「じゃあキスして!」
「え?それは――」
「なんでもするんだよね?」
「…」
拝啓、1分前の僕。
なんでもするなんて簡単なことを言うんじゃないぞ。
お前はまだ未熟。
世間を知らないと痛い目に合うからな。
「いやだーーーーー!!僕のファーストキスはシャルロットたんのものなん――んっ!!」
美沙はそっと背伸びをして、僕と唇を重ねた。
唇から伝わる甘い香り。
いやだ…
いやだいやだいやだ…
そのキスはなぜか濃厚なキスだった。
こんな道路の真ん中で誰かが見てたらどうするんだよ…
「んっ!んっ!んっ!ぷはっ!取引成立!ご馳走さま!」
こうして僕は、天空城の情報を手に入れると引き換えに、大切なものを奪われた。
人生で一度しか味わえないファーストキスを。




