始まるみたいなんだが?
カチカチと鳴り響くキーボードの音。
暗闇の中、パソコンの光が目を刺激する。
ここは拙者が作り出した理想郷、タカシアイランド。
この部屋には拙者以外、誰一人として入ることを許さない!
「あぁ、そよ風が気持ち良いでござるな〜。おっと、そよ風ではなく冷房でござったか〜。これは失敬失敬!」
部屋には拙者一人。
画面には拙者の嫁、シャルロットたんがいる。
シャルロットたんは、拙者が作り出した世界でただ一人のキャラクター。
そしてこの(ロジカルファンタジー)の世界の住人。
拙者の分身でもあり、そしてガールフレンドでもある女の子。
それがシャルロットたんなのであーる!
おっと、その前にここ(ロジカルファンタジー)について説明しないといけないでござったな!
ロジカルファンタジーとは、今、世界で一番人気の本格オンライン育成RPGゲームであるのだ。
プレイヤーは3000億通りもあるパーツから自分の思い描くキャラクターを作成できる。
パラメータやコスチュームなどを組み合わせることだけでなく、ファンタジーの世界で仲間とともに敵を討伐に向かう熱き友情の物語もあるのだ。
「いやー、ポテチもコーラも最高でござるな〜」
ボリボリとポテチを鷲掴みし、ガブガブと2000mlコーラを一気に飲み干す。
塩のついた手をティッシュで拭き、再びキーボードを打つ。
話を戻すが、実を言うと拙者はこのゲームのトップオブトップに君臨するプレイヤーなのだ。
まあ、つまるところ1位というやつでござるね。
ムヒヒッ。
てっぺんの座というのは実に愉快でござる愉快でござる〜。
ここまで上り詰めたのも、絶え間ない課金と、ゲームは一日約24時間という流儀をこなしているおかげでござるな!
「ムヒヒッ!今日も今日とてシャルロットたんを育成しますぞーー」
「おにーちゃーん!」
窓の外から聞き馴染みのある声が聞こえる。
ちっ!美沙か。リアル女が僕に喋りかけんなよ。
「おにーちゃーん!学校行こー!」
「……」
こういう時は無視だ。
幼馴染だかなんだか知らないが、毎日毎日しつこいんだよ。
「おにーちゃーん!」
美沙は大声で外で叫び続ける。
近所迷惑で通報されろ。
「隆ー。美沙ちゃん来たわよー」
「……」
母親が僕の部屋の前まで来てどんどんと部屋の扉を叩き、拙者の名を呼ぶ。
無視だ無視。
「おにーちゃーん!」
「隆ー」
「おにーちゃーん!」
「隆ー」
「おにーちゃーん!」
「たか――」
「うるせええ!!てめえら!僕とシャルロットたんの愛の育みを邪魔するなって何回言ったらわかるんだ!」
流石に堪忍袋の尾が切れた。
このやり取りを何度繰り返したことか。
だが、これで奴らも治おさまるはずだ。
「……」
「……」
ほらな。
二人は黙り始めた。
しばらくすると、母親が外へ出て、美沙に謝る声が聞こえた。
それを、いい感じに返す美沙。
「この部屋も防音にしないとな」
独り言を呟き、ため息をつく。
毎日毎日、こんなことを言われたらノイローゼになりそうだ。
学校――
そんなものは知ったことではない。
そう、あれは新学期が始まる前だっただろうか。