正義執行管理局の日常 4
七不思議怪異の一件の次の日の夜のこと。赤城と加賀は同室。二人で一つの部屋を使っている。
夜ご飯を食べ、お風呂に入り、もう寝ようという時にこの二人は何かしていた。
「さあ赤城! 脱いで!」
「いや……その……」
赤城をベッドに座らせて目を大きくしながら顔を近づけていた。赤城はあたふたしていた。加賀がこういう人だとは前から知っている。
とはいえ、七不思議怪異の一件の初めの頃から何処か距離が近くなっていた。それ以降、加賀の積極的な性格はさらにその上のハイパー積極的へと変貌していった。
その証拠にさっきから赤城に服を脱ぐよう迫っている。もう本人は何も隠す気はないのだろう。
「お願いお願いお願いお願い!! 脱いで脱いで脱いで脱いで脱いで脱いで脱いでえええええええっ!!」
「あなたっ! 最近なんかおかしいです! 変なものでも食べました!?」
「だって〜! 赤城と相思相愛ってことがわかったから加賀嬉しくってえ〜!! それとも、赤城は私のことが嫌い??」
潤んだ瞳で赤城を見つめる。青色の瞳が赤色の瞳とリンクする! あざとい! あざとすぎる! というか、赤城からの言葉を引き出したいがために明らかに狙っている発言! もちろん、赤城は正直に答える。
「き、嫌いではなくて……その……むしろその逆で……えっと……その……」
戸惑う赤城。それを聞き、目を輝かせながら赤城に飛びついた。
「もうっ!! 可愛いやつめ〜!!」
「いやあ〜!!」
二人はふかふかなベッドへダイブ。そのまま加賀は赤城のパジャマに手を掛け、服を脱がしていった。ポイポイ! パジャマもポイ! ズボンもポイ! なんならパンツもポイ!
息を荒くしながら床ドン! 左手で上を隠し、右手で下を隠す赤城。顔はもう真っ赤。それがたまらなく可愛かった。
「じゃあ……はじめよっか……」
「は、はい……約束してしまいましたので……や、優しく……お願いします……」
ここは二人。他の部下たちも全員個室。何よりこの部屋は防音。さすがは政府公認の施設。上司である可憐は局長である仕事をやらないといけないため、今夜は徹夜するとのこと。押さなければいけないハンコが山積みだ。もちろん、この施設は厳重な警備のため、第三者が侵入することは不可能。
だから彼女たちを阻むものはいない。
――こうして、二人の秘密に植えられたユリの花が咲くのであった。
「ど、どうです……? に、似合ってます……?」
「うん、たまんねえですわ……今ので明後日の昼食分くらいはなしでもいけるわ……」
カメラを持っていろんな角度でシャッター音を押す。そのカメラは最新式。もちろん、加賀に特別撮影の趣味があるわけではない。
(いつかくる赤城のコスプレ撮影のために買っておいた最新式カメラ……! くううううう……!!)
とまあ、こういうわけ。下心で固められたタイムカプセルとしてずっと引き出しにしまい込んでいた。それを今日、初めて使った。でもそれは慣れた手つきにも見えた。もちろん、初めて使うもの。赤城に対する愛ゆえに手つきがプロと化しているのだろう。
例えばの話、ある学生のテストが近いとする。勉強は苦手だが、英語だけは好き。好きなことなら頑張れる。
今の加賀は好きなことで頑張れる、まさしくそれなのだ。
赤城の今着ている服は体操服。
今時の学生の着る体操服? ご冗談を奥様! ブルマに決まってるでしょ!
白いシャツに赤色のブルマ。白いシャツの真ん中には赤城と書かれており、そこにグッと来るものを感じる。そしてブルマの下は年相応の健康的な脚。ブルマから下はすなわち太もも。さらにその下は膝より少し上まで伸びている黒色のストッキング。
学校の授業などではもちろんこれはできたものではない。だが、加賀は分かっていた! ブルマとストッキングのこの組み合わせこそが、絶対領域を作り出す方程式ということを!
「ご飯はちゃんと食べてください! 食べないと大きくなれませんよ!」
赤城はむっとした顔をして上目遣いで見た。
「その顔! その顔いいよ! その顔キープで股を開いて!」
「こ、こうですか……」
足を全て下につける乙女のよくしそうな座り方。そこからさらに左右に股を開くよう指示を出す。これが加賀の出す九十点のポーズ!
「グ、グッジョ〜ブ……オウ……イエア……そおおおしいいいてえええ!! 両手を前について! さらにそこからその表情のまま顔を左に十四度傾けてえええっ!!」
「……??」
よくわからない赤城は言われるがまま首を傾げまる。
「それだあああああ!!!! が、がわいいよお〜!! がわいいよおおおおおおお!! 赤城いいいいいいいっ!!」
百点。百点の回答を出し、叫びながら高速で何度もシャッターを切る。赤城も撮るなら動かないほうがいいと思い、黙ってそれをキープ。
それを何分も撮り続けたのであった。
そもそもなぜこんなことになっているのか。時は遡り、七不思議怪異の時。
赤城と加賀が昇龍を会議室に運んだ時のことだった。
「おやおや、これはこれは、管理局に報告せねばなりませんなあ〜!」
「や、やめて! お願いだから!」
それを武器に脅おどし始める。赤城はかなり焦って何とかしようと思った。しかし、加賀は初めからそのつもりはない。パートナーが困るようなことはしないと決めている。でも加賀の下心が少し困らせようとしていて、それに忠実になっていた。
「条件次第ではやめてあげてもいいよ〜!」
赤城に耳打ちをする。
「今度、私の前でコスプレをしてそれをたくさん撮らせてね! にっへっへっへっへ……!!」
すると、赤城は顔をだんだん赤らめ、呼吸も荒くなる。
「わ、わかりました……や、やれば……いいんでしょ……」
「くっくっく……おじさん物分かりのいい女の子は嫌いじゃないよ〜。って、最初から言うつもりなんてないんだけどね! あっははははははは!!」
この時である。あの耳打ちの内容がこれなのだ。結局、こんな約束をしなくても結果的にはよかったのだが、約束は約束。
赤城はそれを守り、言われるがまま、されるがまま、加賀に撮られることとなっていた。
「も、もう終わりでいいですか!! 流石の加賀の前でも恥ずかしいです……!」
「何を言っているのか加賀は馬鹿だからわかんないなあ〜! 今は何時? 夜の十一時! 朝の七時まで何時間ある!? 八時間もある! 今日はお前を寝かせねえぜ……ということで次はナース服じゃい!! ここのタンスの中のやつは全部着てもらうよ!!」
「えええええええっ……!?」
寝る時間なんてなかった。明日がいくら休日とはいえ、寝かせない気のようだ。加賀の後ろにはタンスがある。この部屋にはタンスは三つ。一つは赤城のもの。一つは加賀のもの。
もう一つが何なのか赤城はずっと謎だった。加賀の近くにあるから加賀のものだと思ってずっと触れなかったが、その中身はありとあらゆるコスプレ用の服がぎっしり詰まっていた。
内心赤城もワクワクしていたが、それより衝撃だったのがこの日のためにずっと加賀が開けないでと言って置いていたこと。
そこから加賀はどんどん服を赤城に着せ、着せ替え人形のように着せ替えていく!
まずコスプレの王道白衣の天がナース服!
「あなたの心、お注射しちゃいます!」
次、大人の魅力全開チャイナ服!
「ニーハオ! ご注文は?」
日本の神聖な巫女服!
「あなたの人生に幸あれです!」
空の天使キャビンアテンダント!
「アテンションプリーズ?」
さらには童心に帰って幼稚園服!
「赤城、大人だもん……!!」
セリフを言わせながらシャッターを何度も何度も切る。写真だけではなく、動画も撮るためのようだ。
ゴミ箱には山のように積み上がった大量の血の付いたティッシュ。また一人で興奮して貧血寸前まで血を出していた。
もちろん赤城は止めたが、「苦難を乗り越えてこその達成感がある!」と訳のわからないことを言ってカメラを再び手に取った。