みんなと行きたいんだが?
一同はしばらく極兒を見ていたがこれ以上は何も得るものはないと知り、他の人の顔や先程の券を見ていた。
「そういえばこれ、八月四日と書かれていますね。この日にしか行けないのでしょうか?」
「ほんとだ」
そう、この券は八月四日限定のもの。一日でも過ぎれば無効となる券。それは九枚全て同じ日付で書かれていた。八月四日とは今から三日後。唐突なことな上、隆たち高校生はまだしも可憐たち管理局は仕事がある可能性もある。
「なあ、もどき、美沙、昇龍。お前らには夏休みみんなでどこか行こうって話してたよな。この日、空いていたらみんなで行かないか?」
そう言って三人はそれぞれ顔を見合わせる。
「私は大丈夫ですよ」
「私も空いてるよ」
「あーしも特に用事ねえし、いいぞ」
三人は迷うことなく笑顔で返事をする。元々三人には夏休みどこかへ行こうと声をかけていた。それがどことまでは決まってはいなかったからちょうどいい。
次に隆は天空城を見る。
「天空城はどうだ? 元々僕はお前も誘うつもりだったし。もちろん予定が空いてればだが」
「わ、私を!? 私が行ってもいいのか!?」
「当たり前だろ。友達なんだから」
「友達……か……それでは、喜んでお供させてもらうぞ」
「お供って……」
武士っぽい言い方ではあるが、天空城の顔は嬉しそうな顔つきだった。まさか自分が誘われるとは思っていなかった喜びと隆と行けるという二つの喜びからその顔はできていた。でもこれで誘いたかった二人のうち、一人を誘うことができた。
もう一人は僕の隣にいる。
「上条。お前だぞ」
「隆。僕を誘うのはやめておけ」
その顔つきは何か他のことを語っているように隆は見えた。
そうか。こいつ投資業界の連中の揉め事に巻き込まないよう、あえて行かないと言っているのか。
(行けばまた今回のようなことに巻き込まれるかもしれないと。だがそれは違う)
「いいからこい。迷惑なんてかけちゃえばいいんだよ」
キザったらしく夜空を見る。そうさ、いいだよ。だって僕ら、あの戦いを乗り越えた戦友。
そして、友達だろ……
「だって僕が行かなければ隆は女子四人とのハーレムなんだよ! 何でそんなチャンスを自ら手放すの!? それでも男かよ!?」
「お前は何のことを言っているんだ!? 僕の心配を返せよ!! 男が僕だけになるのが嫌だからこいっつってんだよ!!」
「はあ……へいへい。ついて行けばいいんだろ。ほんと隆は鈍感だよな」
上条は後ろを振り返り、四人を見る。四人全員隆のことが好きなのは上条にはわかっている。しかし、隆はそれに気づいていない。誘ったのも友達感覚としてのもの。
思春期さながらな男子の心を持っていない隆はそこへ上条を加えようとしているのが何よりの証拠だろう。
「何がだよ」
「なーんにも。てかさ、ずっと気になってたんだけど――」
正面を見て指を指す。
「あの子たちそういえば誰だよ!? また君は変な女作ったの!?」
「えっと、可憐と加賀と赤城。名前は聞いただろ。正義執行管理局っていう、政府公認のヒーローみたいなやつらだよ」
「ヒーロー? それがなんで隆と? まさか隆、覗きだけに飽き足らず痴漢までしたの……!? 馬鹿野郎!! 覗きはまだしも、痴漢だけはしないのが僕たちのポリシーだろ!」
「覗き……? 痴漢……? これはこれは、正義執行をしなければなりませんか……?」
可憐は隆の右手首をものすごい力で握りしめる。それを見て上条はケラケラと笑っていた。
実際隆は副業によって覗きはしている。でもそれは不可抗力。上条はいつまでもそれをネタにし続けるのであった。
痴漢はしていないが。
「痛い痛い痛い痛い!! 上条!! てめえ、余計なこと言ってんじゃね――痛ええええええっ!!」
「あなた、上条樹さんですよね。先程は疑うような真似をしてすみませんでした」
隆の手首を握り締めながら言った。上条は紳士的に返す。
「いいっていいって。僕のこと前からよく知っていたみたいだけど、それも管理局の力ってやつ? まさか僕のファン!?」
「ええ。と言っても東條隆について調べていたらあなたにたどり着いたというのもありますが」
実際管理局は芳月学園火災事件のことを調べていてその現場にいた一人が隆ということを知り、それ以降隆をマークしていた。その時、コンテナで上条が倒れ、隆がいたということもあった。
隆が何らかに巻き込まれていることは知っていたが、上条のことも多少なりとも調べていた。
だから上条の入院先のカルテも独自のルートで入手しているというわけだ。
「なーんだ。僕じゃなくて隆のファンか。これまた隆のラブバトルも白熱の予感! そこで僕というオリーブを加えればさらに燃え上がるってわけさ!」
「あなたの友達ってほんと変わった人ばかりね。何を言ってるのかさっぱりだわ」
「ラブ……」
「バチョ〜ル……」
「こいつの言ってることは僕もほとんど理解していないから」
可憐と隆は天然と鈍感の組み合わせなので両者ともに理解していないようだったが、赤城と加賀は理解してお互い目を直近で合わせていた。
上条は可憐の顔を見てニヤリと小さく笑うのであった。
「お前らもこいよ。みんなで行こうぜ」
不意に三人に話しかける。キザったらしく歯を見せて笑った。赤城と加賀も少しは驚いたが、可憐が一番驚いた顔をしていた。
「な、何で私たちまで誘うのよ!? 私とあなたは敵対していて……」
「別にもう敵対なんてしなくても……じゃあ、ここでお前の言っていた「ひとつだけなんでもする」ってやつを使おう! 今から僕が言ったことは絶対にしろよ」
「何でも?」
「する?」
「なんでもするううううう!? き、聞いた!? 赤城!? わ、私の聞き間違いではないよね……!?」
「え、ええ……!! 東條隆は今、我らが局長紫可憐に対してひとつだけなんでもすると言いました!!」
加賀と赤城はお互いに顔を見合わせて目を大きくしてものすごく驚いていた。他の五人も隆と可憐のやりとりに驚いてはいる。だがこの二人ほどではない。
このやりとりは以前、可憐が隆になんでも一つだけすると言ったことによって生まれた言葉。当時隆は思い付かず、保留にしていた。それを今言った。
ただこのやりとりは二人以外知らない会話なので他の七人にはなんのことを言っているのかさっぱりだった。
「ぐっ……!!」
加賀は自分の鼻を押さえる。なぜか鼻血を垂らしていた。
「加賀!? 大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」
「だ、大丈夫にえ……! 掠っただけにえ……!!」
加賀は鼻血は出しているものの、明らかにふざけている。鼻血を右手で拭う。しかし、赤城はあまり冗談を言わない性格でもあるため、全て魔に受けている。
もはやツッコミとボケならぬ、ボケとボケ。
隆と可憐な会話に被さるように喋り続ける。
「わ、わかったわ! な、何かしら?」
可憐は少し動揺しながらそれを了承する。
「可憐がわかったと言った!?」
「あの可憐が……!? 信じられません……!」
「だ、ダメだ……! ううっ……! 頭にエロティカルな妄想があああああ……!!」
「加賀!! 考えてはダメです!! 考えてしまったら最後、あなたは……!!」
しかし、無数のあるはずもない可能性が加賀の思考に宿り襲う。思考には逆らえないのが人間の心理。必死に両手で頭を押さえながら思考が渦巻いていく。
――それは幻想。妄想。あるはずもない可能性。