七不思議を全て知ると何か起こるんだが?
目の前には謎の老人。あの紋章の入った服。間違いない。あいつは投資業界トップの一人。
何より、どこかで一度会った気がする。
「あ、あなたは……!!」
もどきも見覚えがあるようだった。
その瞬間、可憐は銃をその老人に向ける。今までにないほど睨みつけ、顔が強張る。
「あなたが主犯ね! よくも私たちを閉じ込めてくれたわね! 返答次第では撃つわ!」
「待ってくれ。わしは確かにそちら側の人間ではあるが、わしは君らには危害は与えん。むしろ、君らを助けろと命令を……って言うとややこしくなるから助けに来た!」
老人は銃を向けられて慌ててそれを否定する。助けに来た? どういうことだ? こいつ、敵じゃないのか?
とはいえ、出られないのもまた事実。それを解けるのはこいつらしかいない。
「じゃあその結界を解いてくれ!! 上条が死にかけてるんだよ!! お前どうせできるんだろ!!」
「いやまあ、できんこったないが、それは今はでき――」
『バンッ!!』
可憐は逃す気がないと分かった途端、浮遊している老人めがけて発砲。返事がノーと言ったため、わざと外し次はないことを銃声で知らせた。
老人は敵のはずなのにびびっている。こいつも何かの能力者のはずだが、それを使おうとはしない。
まだ話が通じるやつなのか?
「ひいっ!! だから待てってのに! これだから最近の若者は……」
「あなた、私たちを助けに来たって言いましたよね。具体的には何してくれるんですか?」
「わしが怪我人を全員完治させてやるぞ。って、あれ? みんな元気じゃのお……どうなってる?」
老人は周りを見渡す。全員きちんと立って歩いている。ある人物を除けば。その瞬間、隆の声が変わる。
「それなら頼む! 上条を助けてやってくれ! こいつは僕の大事な友達なんだ! お前らにとっては敵かもしれないが、それでも頼む! お願いだ……!!」
その声は真剣そのもの。上条を背負いながら頭を下げて必死に訴えかける。老人は少し考えていた。上条を追う彼らにとっては敵を手助けするようなもの。これが他の投資業界のトップなら助けないかもしれない。
しかし、老人は他の投資業界とは違いおおらかな性格をしている。何より、隆の仲間を思う若さゆえの必死さに心惹かれた。
「頭をあげい。もとよりわしはそのつもりだ。全員完治させろと言われとるしな。玄橆を含めるなとは言われとらん。ただ、わしを含めた投資業界トップは全員、そいつを狙っていることだけは忘れるな、隆くん」
「ああ、わかってるよ」
『パチンッ!!』
老人は上条に向けて指を鳴らした。その直後、上条はゆっくりと目を開ける。体のあざも消える。出血も止まり、血の流れも巻き戻るかのように皮膚へと戻っていった。
「隆……よかった……無事で……」
「それはこっちのセリフだ。無茶しやがって。お前の体、あの爺さんが治してくれたぞ」
自分の心配ではなく、隆の心配をしていた。眠そうな目で隆の向ける顔の方向を向く。
「……っ!?」
背中から降り、上条は銃を取り出して老人に突きつけ、間も無く発砲した。
『バンッ……!!』
全員は上条の発砲に驚く。老人は驚くことなく、紫色の結界のようなもので守られ、青色の弾丸が弾かれる。
上条の目を見ると殺意が宿っていた。それを見透かしていたかのように見る老人。
「それが助けた人に対する答えかね」
「何が助けただ! 元はと言えばお前らがやったことだろ! 僕だけが目的なら僕の友達たちを巻き込むな!」
「わしは言われて動いてるだけだ。こんなことわしにはできん。その人物が玄橆の関係者を閉じ込めただけ。そしてその人物が傷ついた全員を助けろと命令したからわしがこうやって助けに来たんじゃろうが」
「お前の言っていることは矛盾している。閉じ込めたのはその人物X。助けろと命令したのも人物X。どういうことだ」
老人の言っていることは本当。閉じ込め、あの七不思議怪異を召喚するともなれば、インベストではかなりの魔力がいる。ましてやトップ6の極兒ができるはずもない。
隆の言っている矛盾も納得のいくもの。七不思議怪異を操り、傷つけようとしたのにも関わらず、全員を完治させるとも言った。
今でこそ上条が自分以外の全員を完治させたから意味はなさないが、それが後付けの理由でさえなければ人物Xの行動に納得がいかない。
「わしもしらん。わしもあやつの考えていることがいまいちわからんのじゃ。ほ、本当じゃ……! 信じてくれ……!」
「じゃあそいつは誰だ。大方予想はつくがな!」
「それは答えれん。守秘義務というやつじゃ。というか、お前さんたち二人はいい加減銃を降ろさんか。わしが争い事を嫌うことをお前さんが一番よー分かっとるに」
可憐と上条は銃を老人にまだ向けていた。二人はお互い顔を見合わせる。上条は極兒のことをよく知っている。よほどのことがなければ自分からは危害を与えないことを。何よりこの数では流石の極兒も不利なはず。
上条は可憐に頷き、二人は老人に向けていた銃を下ろす。
「よしよし。わしは投資業界トップ6の男、極兒。まあ遅れたが、七不思議を全て解決し、脱出おめでとう! いやあ、これも若さゆえの力かのお……! ほっほっほっほっほっ……!!」
『……』
「あの、なんか反応してくれんかね。若い子に無視されると心にくるんじゃ……」
誰も反応しない。それもそうだ。黒幕の手先の一人に祝われたところで何も嬉しくない。
「お前らのやったことだろう」とその場の全員が心の中で突っ込む。よくわからないが老人もショックを受けていた。
「おい、クソジジイ! さっさと帰らせろ!」
「眠い……です……」
加賀は極兒に怒鳴り始める。赤城は眠そうにうっつらうっつらしていた。他の人たちもどうでも良さそうにしていた。
「待て言うとるに! 七不思議は七つ目を知ると何か起こるのは知っているかね?」
「聞いたことはあります。怖いことが起きるとかなんとか」
「ひい……!」
可憐はその言葉で怯え、隆の後ろに隠れた。肩から極兒を見る。隆はもう慣れて呆れながら壁役を担当した。
「まだなんかあんのかよ。もういいって」
「いや、七不思議怪異を解決した九人全員に、わしら投資業界から素敵な素敵なプレゼントをしようと思ってのお! 下を見よ!」
「下?」
一同が下を向くとそこにはいつのまにか一枚の券が置いてあった。それが九枚分。
それを全員が触れ、書いてある文字を見る。
「旅館沢村屋一泊ニ日チケット?」
「え!? 嘘!? 旅館沢村屋ってあの高級な旅館よね!?」
可憐は僕の後ろで大きな声を出して驚く。
「知ってるのか?」
「ええ! この前テレビでやっていた有名旅館よ! おいしい食事に肌が若返ると言われている温泉! 極め付けは旅館の近くは絶景のビーチ! ねえ! これもらっていいの!?」
目を輝かせて極兒に問いかける。極兒は優しいおじいちゃんのようなおおらかな笑顔で一度頷いた。
他の女性陣たちも知っている人が多く、これがもらえることに驚いていた。
「ふざけるな! どうせまた今回みたいに集まったところを襲ったりするんだろ! お前らの考えなんて筒抜けなんだよ!」
でも、上条は違う。極兒を厳しく睨みつけ、威圧させる。でもありえない話ではない。今回集まったのは隆たちの知り合いばかり。ならばまた集めて一網打尽にする可能性もある。
「そんなことせん。それはお前も例外ではないぞ。わしらだって少し早めのお盆がある。しかもわし、三日連続熟女キャバクラオールはしごをするために店に予約までしとる! 何と今、あの人気熟女キャバクラ、笑みたるに行くと、あの人気熟女グラビアアイドルの真知子ちゃんのクリアファイルが――」
「そんなのいくらでも捏造できるだろ! この券だってお前らお得意の投資家ルートで獲得したやつか知らんが、お前らのもらうやつなんて信用ならねえんだよ!」
「ったくもう……」
極兒は呆れながら下を向いた。次の瞬間、隆のポケットからバイブ音が鳴る。スマホを取り出し、確認をする。
(八月四日に旅館沢村屋に行く:5000円)
副業が出された。タイミング的に極兒自ら出したのだろう。
この日に行かなければならないということか。
隆がスマホを見ているとそれを画面を見ずとも歯軋りをする上条。上条は元投資業界の関係者のため、隆の出された副業が何かわかる。だからこれが罠であれ、行かねばならないという苦い顔をしていた。
「これでいいじゃろ。じゃああとは若者同士話でもしておれ。わしからはお前らにはこれ以上何も話さんし、何も答えん。もし元の世界に帰りたくばいつでもわしに言ってくれ。元いた場所に安眠と共に送り届けてやるわい」
極兒は浮遊しながらそれ以上何も語ろうとはしなかった。本当なら敵の一味の一人なのだから何か情報を得たい。しかし、極兒の顔はそれを語ろうとせず、真顔で顔を固める。
上条もやつに攻撃をしなくなったのは他の投資業界たちの応援がこないかを恐れているからかもしれない。