表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/284

傷一つないんだが?

 眩い輝きが収まり、隆はそれを見ている。


「見事……これで最後の七不思議怪異解決だ……」


「お前がみんなにしたことを僕は許さない。それがたとえ、どんな理由であれ」


「それなら安心しろ……我が主人は寛大……我が主人はこの後、怪我人を一人残らず完治させるだろう……そして、我ら七不思議怪異を呼び寄せたのも……貴様らを呼んだのも……この学校の奇妙な演出も……全て我が主人の能力……」


「我が主人? 誰のことだ」


 我が主人。そう何度も口にする。七不思議怪異は全て解決した。だが、絶対にその後ろに何か大きなものがいる。普通に考えて、寝ている人間を学校に移したり、七不思議怪異を召喚したり、学校の玄関の施錠など、普通の人間ではできない。

 そいつが黒幕。だから聞かずにはいられない。


 やつはニヤリと笑って口を開いた。その直後、やつの体は歪み始める。


「それを知りたくば、インベストで起きている本当の真実を自らの手で暴いて見せろ……! そして、我が主人を止めてみろ……!! 我が主人の目指す理想郷に祝福を……!! あーっはっはっはっはっはっはっは……!!」


 訳のわからないことを言いながら、やつは消滅した。それと同時に、最後の勾玉がやつの心臓部から落ちて床に転がる。

 白い勾玉。これが七つ目の勾玉。

 奴が指し示した我が主人。それが誰のことなのかがわからない。インベストという単語を使った以上、それに関係している。僕はまだそいつに出会っていない可能性すらある。


 一体、黒幕は誰なんだ……?


 あれ――


 視界が――


「くそっ……またあれかよ……」


 目眩がし、視界がぼやける。力を使うといつもこれ。気絶する前兆。


(最後にせめて――)


 最後の力を振り絞り、ほぼ真っ白な視界を手探りで床を探る。勾玉。それに触れ、ポケットに入れた。

 実はまだ八人目の敵がいて、そいつが勾玉を奪ってっていう展開だってあるかもしれないだろ……


 床に頭部をつけようとする。もう、だめだ……体が……



『ガバッ……!』



 その瞬間、何かが僕を支える。その衝撃で一瞬だけ視界が明るくなる。紫色のロングヘアー。キリッとした顔つき。高身長。

 僕の思考はそこで途切れた。




 一階南館 保健室


「加賀……! 加賀……!! よかった……! 無事で本当によかった……!!」


「あれ……私……う、うわあっ……!?」


 加賀が目を覚ますと、周りには見覚えのある部屋。保健室。そこには何人かの人。そして一番近くにいたのは赤城。赤城は泣きながら加賀を抱きしめた。


「怪我……してない……どういうこと?」


「上条さんが治してくれたんです。あの機械で」


「?」


 赤城の言っていることがいまいち理解できない。赤城は上の方向を向いている。それを辿ると、丸い機械が浮遊していた。その丸い機械は加賀に何か青色の光を当てている。


「よくわからねえが、あーしもあれに治してもらった。すげえよな、あれ」


 加賀が横たわっているベッドの近くによる昇龍。加賀は自分の服を黙って(めく)る。


「あれ……」


 たしかロッカーに腹部を押しつぶされ、気を失ったはず。それなら、腹部にアザでもできていないとおかしい。なのに、傷一つない。体も痛みを感じてない。

 なに? 魔法? というか、あれ全部夢?


 再び周りを見る。デコピンされた昇龍の頭部も何もない。ボロボロだった赤城も傷一つない。シャルロットと天空城も拳を受け止めた時にできた手も普通に動かしている。その場にいる人たちは、まるで最初から何もなかったかのように傷口はおろか、痛みすらも綺麗さっぱりなくなっていた。

 加賀はやっと理解する。上条があの人間離れした力を使って全員を治療したことを。


「それで、その上条樹はどこに?」


 その瞬間、全員の顔は暗い表情になる。赤城だけが震える指で隣のカーテンを指さす。


「げほっ……!! げほっ……!! ああ……!! ああ……!!」


「上条くん……! しっかりして……! あなたが一番重症なのにどうして……!!」


 隣のカーテンの奥からは男性の声。かなり苦しそうにしている。そこからもう一人。それははっきりと誰かわかる。江南美沙。彼女が隣でその人物を治療している。

「一番重症なのに」。どういうこと?


「な、何が……起きてるの……」


「その声は……加賀ちゃんか……よかった……無事で……げほっ……! うはっ……! 女の子に傷なんてできるなんて……溜まったもんじゃないから……うえっ……! あああっ……!!」


「もう、喋らないで……! 喋るとまた口から血が……!! 出血が……! 出血が止まらない……!! 輸血が追いつかない……!! ど、どうすれば……!!」


 意味がわからない。なぜ、他の人物たちは完治しているのに上条だけ完治していないのかが。それを理解していないのは加賀だけ。保健室にいる残りの全員は状況を理解している。上条と美沙以外、誰も口にせず、俯いている。


「どういうことなの……!? あいつ、どうしちゃったわけ……!? ねえ、誰か答えて……!!」


 みんな目を(そむ)ける。赤城すらも目を背ける。自分が完治したのは嬉しい。でも、何で一人だけあんな状態なの? ものすごい苦しそう。今にも死にそうな。

 そんなの、喜ぼうにも喜べないよ……!


「ねえ、誰かなんか言って――」


『ゴトン……!』


 その瞬間、血まみれの何かがカーテンから転げ落ちて出てくる。人の形をしている。


「どこ行くの!? ねえ!! 動いちゃダメ……!! あなたこのままだと本当に死ぬわよ……!! 待ちなさいって……!!」


 その人物は床を這いずりながら保健室を出て行こうとした。それを大慌てで止める美沙。その人物は血の道を作りながら、時に咳き込み口から大量の血を噴き出す。


「隆はどこだ……隆も助けないと……最後だからみんなみたいに完治はできないけど……うはっ……!!」


 それでわかった。彼は間違いなく上条。保健室を出て一メートルも立たないまま、彼は倒れる。美沙も必死に呼び止めるが、その声は彼の耳に届かない。


 そんな時、西渡り廊下から人影が。その人物は気絶した隆を抱え、大慌てで保健室へと向かう。

 だが、彼女もそう驚愕する。目の前の血まみれの人物がこちらを見ている。震える身体を抑えながら、顔を上げる。その目線は可憐に抱かれた隆。


 震える声で彼はこう言った。


「最後は隆だぞ……頼んだ……ぞ……」


 お前らとは誰のことを指しているのか。美沙たちのことではない。すると、加賀の上に浮き上がっていた丸い機械が高速で浮遊し、隆の方へと向かっていく。可憐が走って保健室へと向かうと、それもついてくる。害はない。

 でも、可憐もなぜついてくるのかわからなかった。


 それを発すると上条は保健室の前で血まみれの状態のまま倒れた。

(七不思議怪異、七つ全てクリア!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ