穿つ力なんだが?
『ギギギギギ……』
まきを引きずりながら徘徊していく。その音は可憐と美沙の隣から聞こえていた。
『ズヂャッ……!』
「……っ!?」
何かを切り裂く音。ゴトンと大きな音が聞こえる。可憐と美沙の今いる場所は女子トイレ。その隣は男子トイレ。
『ズヂャッ……!』
また同じ音。ゴトン。この大きな音の正体は何なのか。かなり大きなものが地面に落ちていることは間違いない。二人は音がなるたびにビクリとするが、声を出すわけにはいかない。
『ズヂャッ……!』
『ズヂャッ……!』
さらに二回。ゴトンゴトン。足音も聞こえる。ゴツゴツと地面を踏む重たい音。しばらくするとその音は止むが、それはほんの数秒。また歩き出す。
足音は一瞬離れていったかと思ったが、また近づいてくる。それどころか、さっきより音がかなり響いている。
『ズヂャッ……!』
ゴトン。大きな音はこの部屋からだ。この部屋からしている。可憐と美沙の三個奥にある一番近い掃除道具入れ。そこは綺麗に斜めに切り裂かれ、掃除道具ごと横に落ちていった。
あの銅像はまきで個室を一つ一つ切り裂いている。さらに一歩踏み出し――
『ズヂャッ……!』
ゴトン。落としていく。
「どこだ……どこにいる……! 紫可憐……! 江南美沙……! はあ……! はあ……! はあ……!!」
銅像は獣のように息を荒くし、二人を探していた。それを聞いた二人は体が震え出す。見つかれば終わり。可憐の体は震えている。それでも、可憐より年下の美沙を放ってはおけない。美沙をそっと抱きしめ、不安を軽減させる。
「あああああっ……!!」
『ズヂャッ……!』
奇声を発しながら隣の個室をも切り裂く。ゴトンという音が今までで一番よく聞こえた。もう、今から逃げられるもでもない。隠れていてもここだけ見逃すなんてことは絶対にない。
「ふっふっふっふっふ……あの距離であれば逃げられてもせいぜいここが最後と言ったところか。おやおや、よく見たらこの個室だけ施錠されているではないか」
トイレの個室の取っ手は赤くなっている。万が一のことを考え、扉を施錠させていた。扉を施錠すれば普通の人間ならば簡単には破れない。だが、やつは人型にして人間あらず。手に持つまきは鉄すらも切り裂く。
施錠なんて場所を知らせているようなもの。それが逆に仇となった。
「隠れているとしたらここに二人。そして残りは二人。ビンゴ! 俺の勝ちだ! はっはっはっはっはっ……!! あああああっはっはっはっはっはっはっは……!!」
美沙の目からは涙が止まらない。可憐の目からも堪えていた涙が流れ出す。可憐にはもう、美沙を抱きしめることしかできない。
笑いながら左腕を上げる。ガシャリ。絶体絶命、万事休す。終わりだ。もう終わりだ。
そして銅像はその腕を振り下ろした――
『ヒュンっ……!! ヒュンっ……!! ヒュンっ……!!』
ものすごい速度で何かが校内を駆け回る。下駄箱を通過。西渡り廊下を通過。北館廊下を通過。そして、それは女子トイレへと入っていく。
「んんっ……!!」
銅像の反射神経をも追いつかず、振り返る間もなかった。
「僕を倒し損ねたんだよおおおおおおおっ……!! このクソ野郎がああああああああああああああっ……!!」
「ぐあああああああっ……!!」
銅像の腹部に直撃。隆のアッパーを腹部に決めさせる。全ての銅の鎧は崩れ、上空へと吹き飛んでいく。もちろん、上は天井。天井をぶち破り、さらに上の女子トイレへと貫通。その上も貫通。さらに貫通。巨大な穴を開け、全ての女子トイレは吹き抜けとなった。
「悪い、可憐。やっぱり、友達が困ってるから女子トイレ入っちゃったわ」
「ううっ……! 東條……隆……!!」
「お、お兄ちゃんっ……!!」
その言葉はかつて、隆が天空城がいるかもしれないと女子トイレに入ろうとした時に可憐が止めたあの時の言葉の続きに聞こえた。助かる友達が美沙と可憐に変わっただけ。
何より、その行動は仲間を守るためにした。もう迷わない。誰も傷つけさせない。
そこに仲間がいるなら助ける。それが東條隆という男。
可憐は個室を開け、可憐と美沙が出てくる。その姿は紛れもなく隆。
しかしなぜ隆が? 骨まで折れていたかもしれなくて肩まで撃たれた隆が動ける? 肩には弾丸の跡もある。でも、そのほかは何も異常を感じられなかった。
「美沙、よく頑張ったな。可憐、美沙のことを守ってくれてありがとう。後のことは僕に任せろ。みんなの治療は美沙しかできない。みんなを頼んだぞ」
「お兄ちゃんはどうするの?」
「僕はあの銅像を倒してくる。大丈夫、すぐ戻るよ」
「気をつけるのよ! 死ぬんじゃないわよ!」
「ああっ!」
それだけ言うと、隆はぶち破られた穴を通っていき、屋上に向かうため、上空へと飛んでいった。その間、地面には一斎足をつかない。
十メートル以上の高さある学校ですら、今の隆には階段を一段登るようなもの。
そして、月に合わさるように屋上に現れる。月と隆の体が合わさり、隆は月光の輝きで黒く光る。
そこから忍びのように着地し、正面を見る。
そこには、銅像……いや、かつて銅像だったものの姿。銅は全て剥がれ落ち、剣のように扱っていたまきも破壊されて手にはない。
中身の光る丸いうねうねが全身を動いていた。
その人物は膝をついて立ち上がり、隆を見る。
「馬鹿な……! 俺は確実にお前を倒したはず……!」
「僕にもわからん。何で今僕がこうやって立っているか。だがはっきりしているのは、僕は今、お前を倒すために動いていること。それがトリガーだ!」
相手を倒すという強い想い、仲間を守るという強い想いを力に変え、起き上がる。その力は莫大なエネルギーとなり、隆の身に纏う。
隆のこの覚醒状態のになる条件の一つ。
それは、想いの意思。それを強く思えば思うほど、強力な力に変わっていく。どれだけ身体が破損しようが、それは回復し、引きこもりの隆は陣地を超えた身体能力を得ることができる。
「素晴らしいぞ! 俺は速い! さあ、貴様に俺が捉えられるか!」
その瞬間、ものすごい高速で隆の方へと動き出す。隆の体に目にまとまらぬ速さで蹴りを入れ、再び戻り、目にも留まらぬ速さで拳を入れる。上空から見れば、あらゆる方向から何かを糸で縫っているようなもの。
銅で固められた鎧が砕かれた銅像はかなりの身柄。白色の風が吹き、隆を飛ばそうともしている。
その攻撃は止まない。光の速度。強力な攻撃。
「その程度か」
「んあっ……!!」
高速で屋上を駆け回るやつの頭を掴み、握りつぶすような力で押さえつける。やつの体は浮かび上がり、ジタバタする。そのままの力で地面に叩きつける。
『ドンッ!!』
屋上全体には大きなクレーターが付けられた。その中心はやつの頭部。やつの頭部から蜘蛛の巣ができたように見える。隆の体は傷はついていたが、痛みは感じていない。
「僕の仲間に損害を出した分、今から身をもって痛みを味わえっ!!」
そう言って右手の拳を固めた。それを思いっきり左手を離すと同時に振り下ろした。
「これは、一番に僕らを守ろうとした上条の分!!」
『ドンッ!!』
「ぐはっ……!!」
顔面に思いっきり拳が入る。隆の顔は怒りに染まっていた。仲間を傷つけた分はしっかりと返す。安らかに倒すほど隆は甘くはない。
「これは、勇気を振り絞って立ち向かった昇龍の分!! これは、弱点がつくことを証明させてくれたもどきと天空城の分!!」
『ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!』
「ぐはあっ……!!」
拳を三発入れる。一人一人の名前を呼び、しっかりと顔に叩きつける。許せなかった。仲間全員にあんなことをしたこいつが許せなかった。
額からは汗が溢れ落ちる。その汗はひび割れたコンクリートの地面に落ちていく。
「これは、みんなに想いを託して勇敢に立ち向かった加賀の分!! これは、その想いを命懸けで力の限り貫き通した赤城の分!!」
『ドンッ!! ドンッ!!』
赤城のことは隆は観測していない。でもわかる。隆はその光景を見ていなくても必死で赤城がみんなを守ったことは心の目、心眼で見ていた。
もうやつはただ殴られ、唸るを発するだけで何も言わない。
「これは、今必死で傷ついている仲間を助けてくれている美沙の分!! これは、みんなを助けようとし、仲間を最後まで守り抜いた可憐の分!!」
『ドンッ!! ドンッ!!』
「そしてこれが……お前を倒すという意思を最後まで持ち続け、それをこの一撃で決める僕の分だあああああああっ……!!」
『ドンッ!!!!』
「あああああああっ……!!」
今までで一番強力な一撃。全ての想いを最後の一撃にかけ、その拳を放った。やつは最後に叫んだ。拳はやつの顔面を破損させ、スライムが千切られたような半分かけた顔面に変わり果てる。
目の前が真っ白になるような、眩い光を放ちながらそのままやつは動かなくなった。
★東條隆 南館一階 玄関前
★江南美沙 南館一階 玄関前
★紫可憐 南館一階 玄関前
★東條シャルロット 南館一階 玄関前
★加賀 南館一階 玄関前
★昇龍妃 南館一階 玄関前
★赤城 南館一階 玄関前
★天空城空 南館一階 玄関前
★上条樹 南館一階 玄関前
七不思議怪異六つ解決(残り一つ)