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正義なる殺意なんだが?

 倒れた隆を真顔で見る銅像。


「女を庇ったか。命をかけて守り抜いた貴様は本物だ。さっきの言葉、撤回させてもらおう。これで六人。あとは三人。決めるのももう惜しい。俺は飽きた」


 残されたのは赤城、美沙、可憐。もう銅像の勝ちは目に見えていた。赤城を斬ろうという意思すら削がれ、左腕を下ろす。だから飽きていた。


「がはっ……!!」


 その瞬間、銅像の首元に激しい締め付けるような痛み。何かが自分の首を絞めている? 銅像の顔すらも震えさせ、視界が定まらない。周りを確認する。可憐は隆の元で泣いている。赤城の後ろにいる美沙も泣いている。じゃあ、その前の赤城は……?


「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ……!!」


 銅像の視界がようやく赤城を捉える。赤城の目は狂気。殺意。本気で銅像を殺そうとしていた。

 そのまま赤城は南玄関のガラスの壁に打ちつけるように投げつけた。正義の意思は必要であれば殺意だって湧く。それはエゴ的なものではなく、何かを守るために湧く殺意。悪を断罪する殺意。

 殺意は時に力となって主人に味方する。それが今の赤城。


「美沙さんを連れて逃げて」


 赤城は可憐に少しだけ振り向き、言った。


「で、でも……! っ……!!」


 赤城の揺らがぬ決意。それを見て可憐の言葉はそこで止まった。可憐は仲間を守りたい気持ちはある。でもそれは赤城も同じ。赤城もまた、今いる可憐と美沙を守りたい。その一心で動いている。信頼して任せることも大切だと気づき、隆の元から離れ、倒れている美沙の手を引っ張った。

 美沙は泣くのをやめ、殺意の湧く赤城と倒れている隆を見た後に可憐についていった。


「ぐうっ……! あああっ……!」


 (うな)りながらふらふらの状態で立ち上がる。首元の銅は赤城が締め付けた手の跡で凹んでいた。可憐と美沙が逃げたことに気付いていない。


「あなたは滅ぼすべき悪! 紛れもない悪! そして死すべき悪! その処罰は私が下す! 正義執行管理局幹部ナンバーツー、赤城っ! その息の根を止めてみせます……!!」


「お、面白い……! 面白い……!! その決意、心地よし!! この剣のサビにしてくれるわあああああああっ……!!」


 赤城と銅像はぶつかりあった。武器を持たずとも正義の意思を武器とする赤城にはもう何もいらない。正義の意思を貫くため、そして加賀との約束を守るため、その体を動かす。銅像は両手に持つ剣を光らせ、赤城を迎え撃つ……! その先に待つ結果は……!!




 北館一階 女子トイレ


 可憐と美沙は泣きたい思いを堪え、必死に逃げた。二人にとって隆は大切な存在。その上赤城までもが犠牲になりかけている。特に可憐にとってはダメージが大きかった。でも、今泣いてしまえば美沙は誰が守る?

 その一心で泣きやめた。

 北館一階の女子トイレの一番奥の個室に駆け込む。ここなら少しは距離がある。そう簡単には見つけられない。


 二人は息を殺し、身を潜める。あとなんか立てたら最後、奴にやられる。


 その間、可憐の頭にこれまでの隆との記憶がよぎる。




「さっきお前さ――」


「名前で呼んで」


「紫、さっきお前さ――」


「名前で呼んでってば! 可憐! 可憐って呼んで! 親しい人はそう呼んでいるわ!」


「なんなんだよ、ほんと! 別にお前と親しくなったつもりはない!」


「いいから名前で呼びなさいって!」


「はいはい。可憐さ、さっきなんでもするって言っただろ。ほんとになんでもしてくれるのか?」


「ええ、なんでもしてあげるわ。一つだけだけどね。もちろん、私にできる範囲だけど。ご奉仕してあげてもいいわ」


「ご奉仕!?」


「きゃあっ!! 何おっきい声出してるのよ! びっくりさせないでよね!」


「いや、ご奉仕なんて……お前もリアル女だ。そういうことは簡単に言わず、自分をもっと大切にしたほうがいいぞ」


「あなた何言ってるの。弁当とか作ったり、洗濯をしてあげたりしてあげるってことよ。それってダメなの?」


「あ、ああ……そっちな……」


「そっちって、他に何か意味あるの――……っ!? バカっ!!」


「うはっ!!」


「最っ低!! 何考えてんのよ!!」


「なんでだよ! お前が誤解させるような言い方するからだろ!」


「今のどこが誤解するのよ! あなたの頭が色欲まみれなのが悪いんでしょ!」



「可憐ってそういえば何歳なんだ?」


「何歳に見える?」


「二十五」


「あなた、蜂の巣にされたいようね」


「なんでだよ」


「私ってそんなに叔母おばさんに見えますか!?  ごめんなさいね、叔母さんで!!」


「そうじゃない。なんか、大人っぽさがあるっていうか。ほら、可憐ってしっかりしてるだろ。十九くらいかなって会った時思ったけど、それにしてはしっかりしているなって思って二十五って答えたんだよ」


「……せ、正解よ……」


「お! やっぱり、二十五であっていたか! さすが、僕――」


「そっちじゃなくて、十九の方! 全く、もう……」



「でも、私は管理局局長。怖いものなんて一つもあっちゃいけないのよ。そんなものがあるから誰も救えない」


「じゃあ、僕の怖いものを教えてやる。僕はこの社会が怖い。社会の視線もそうだし、こんな自分が将来社会に出てやっていけるのかとか思うと、心配になるんだよ」


「社会が怖いって……あなた今年で十七歳でしょ。そんなことその歳で真剣に考えていたら将来本当にやって行けないわよ」


「かもな。でも、それは僕が一人でいる時の話。他の誰かといればそんな気持ちはなくなる。というか、そのコンプレックスが許せるようになるんだよね。一人じゃないって思えるっていうかさ」


「だから、別に怖いものの一つや二つあってもいいんだよ。人間そんなもんさ。それが無理だと思えてしまうなら、せめて信頼できる人の前ではその怖さがないって思うといい。だって、困った時にはそいつが助けてくれるんだから恐怖心なんてあってないようなものだろ」


「ふふっ。あなたの言う通りだわ。あなたって結構まともなこと言える人なのね」


「そんなことはないよ。僕は推しを推してて恥ずかしくない人間になりたくないって思っているだけさ」




(そのあなたが真っ先にいなくなってるじゃない……)


 美沙に悟られるわけもいなかない。だから黙って思い出に浸る。心で一人会話していた。

 東條隆のことは別に敵対して見ていたわけではない。本当は別の目的。その目的のために東條隆に接触していた。別にそれ以上でもそれ以下でもない存在。でも、じゃあなんでその目的を成し遂げることができなくてやられちゃうのよ……




 南館一階 南玄関


 南玄関。そこには銅像と赤城の姿。戦闘は終わった。たった今。


「はあ……はあ……はあ……」


 息切れをして立つ銅像。銅像の体は痛み、銅もかなりの量が剥がれ落ちて凹んでいる。右腕は落ち、右手に持つ本にはさっきまで右手に持っていたまきが刺さり、銅でできた本は砕かれていた。なぜ本が砕かれていたのか。銅像が自ら刺していないことは明白。

 左手に持つまきで地面を刺して立つのがやっとだった。


 しかし、赤城も立っているのがやっと。体はもうボロボロ。赤城の目はだんだん閉じていき、声を出すのもやっと。ふらふらの中、その言葉を発した。


「あとは……頼みましたよ……可憐……」


 加賀から託された想いを赤城は受け取った。守り切ることはできないかもしれないが、全力を尽くした。今の赤城にできることは想いを託すことだけ。加賀から受け取った想いを可憐に引き継がせ、その場で倒れた。


「ふっふふふっ! はっはっはっはっはっ!! これで七人!! あと二人!! あと二人で俺の勝ちだあ……!! どこにいる……見つけて二人まとめてこの剣の餌食となれ……」


 そう言って南玄関を出ていった。銅のなたを床になぞるように引きずりながら残された二人を探して廊下を徘徊する。一つずつ教室を回るつもりだ。

 南玄関にいる全員、その場を動かない。みんなやられたのだから。みんな、みんな。

★東條隆 南館一階 玄関前

★江南美沙 南館一階 玄関前

★紫可憐 南館一階 玄関前

★東條シャルロット 南館一階 玄関前

★加賀 南館一階 玄関前

★昇龍妃 南館一階 玄関前

★赤城 南館一階 玄関前

★天空城空 南館一階 玄関前

★上条樹 南館一階 玄関前


七不思議怪異六つ解決(残り一つ)

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