最大の武器なんだが?
もどきもやられた。天空城もやられた。そして加賀もやられた。強いやつらなのにやられた。
全部全部、あの化け物がやったんだ……!!
赤城は泣きながら睨みつける。今でも殴り殺してやりたい。相方をあんな目に合わせた奴なのだから。
でも、その場を動かない。加賀に美沙を守ることを託されたからその想いは最後まで貫き通す。
美沙はもう過呼吸状態。どんどん知っている人たちが化け物にやられた。この中で唯一非戦闘要員の彼女にはなすすべがない。
可憐は俯いて何も喋らない。泣き叫ぶことすらできなかった。あいつが怖いから。そんな自分が嫌だった。
隆も友である上条と昇龍に続き、シャルロットと天空城が目の前でやられるところを見せられた。隆もまた、恐怖心で動けない。
――誰も何もできなかった。
「それがお前らの答えか。誰も前に出ないと。なら、俺の方から行かせてもらおう。誰を狙うかは平等に決めさせてもらう」
銅像は一人一人を鋭い目つきで睨みつける。泣き叫ぶ赤城。過呼吸状態の美沙。何も喋ることができない可憐。恐怖で動けない隆。銅像にとっては誰を狙おうともつまらない標的しかいない。
四人を見た後、しばらく考え込んでから銅の口を開いた。
「決めた。貴様だ、江南美沙」
「……え?」
それは銅像の気まぐれ。決めた理由などない。誰を狙おうが等しくつまらなく、何も得るものなどない。だから本当に適当に決めたのだ。
銅像はそのまま美沙のところまで歩き出す。
「やめろ……! 美沙に近づくんじゃねえ……!!」
隆はその声で走り出し、銅像の体にしがみついた。隆にとってこの中で一番付き合いの長い幼馴染。そんな大切な人を見捨てるなんて真似はできない。だから必死だった。
「ふんっ……!!」
「うあっ……!!」
「お兄ちゃんっ……!!」
銅像は両手で隆のしがみついている右手に手を伸ばし、隆を力一杯投げ飛ばした。何十メートルも吹き飛ぶ。だが、こんなことではへこたれない。
そのまま静かに歩く銅像。それでも隆は飛ばされた分を走り、再びしがみつく。
「やめろっつってんだろ、クソッタレがあああああああっ……!!」
「はあっ……!!」
「いっ……!!」
今度は背負い投げをし、地面に叩きつける。だがそれだけでは飽き足りず、銅の足でプレス機のような力で隆を踏み潰した。
「あああああああっ……!!」
「お兄……ちゃん……?」
「何も守れぬ男は引っ込んでいろ! お前もいずれ倒してやるからその時を待て」
動かない。あんな力で打たれれば、骨が数本折れていてもおかしくない。何より学校を回ったあの疲労感の後にこれだ。全てが隆の体に堪えていた。
痛みが続く。そんな中、銅像は僕の元から足音を遠ざける。
どんどん美沙と距離を詰める。両手に持つ銅のなたを月光に光らせ、鋭く光る目つきで美沙だけを見る。
美沙の過呼吸も荒くなる。殺される……! 殺される……!!
「美沙さんは……私が守ります……!!」
「赤城ちゃん……!」
その時、流れる涙を止め、顔を真っ赤にして美沙の前に庇うように立つ。赤城。相棒が倒され、絶望の中相棒に託された願いを叶えなければいけない。
「武器を持たぬ小娘風情に何ができる? 応えてみろ」
赤城は武器を持たずとも強いが、持たなければ武器なしで敵に対抗できる加賀と可憐にははるかに劣る。剣を持てば格段に強くなる。しかし、剣は今はない。任務にだっていつも剣を欠かさず持ってきている。
わかってる。武器がないと何もできないことくらい。
「武器が何だっていうんですか! 武器がなくとも、正義の意思はある! 誰かを守ると思える力こそが、武器よりも遥かに強い最大の武器なんです!」
武器がないからといって、誰かを守りたいという意思が失われることはない。それを維持できているからこその、最大の武器でもある。
その武器を今、最大限に使う。それでやつを倒す!
「ふっはははははははっ! 綺麗事で答えたか! だが面白い! 決めたぞ……変更だ……次の標的は貴様だあああああああっ……!!」
左手を大きく上げ、剣を振り下ろす。その剣の標的は美沙から赤城に変わる。赤城は美沙を守ることだけを考えて目を瞑った。やられるのを覚悟で。殺されようとされようが動かない。
たとえ殺されたとしても動かない。それが、相棒との約束なのだから……!!
「私の可愛い仲間に手を出すなあああああああっ……!!」
「……っ!?」
『バンッ!』
その瞬間、銃声が聞こえる。大量の涙を流した可憐。その手に持つのはハンドガン。銅像の頭部目掛けて放った。加賀がやられた時、俯いていた。恐怖で何も喋らなかった。それでも、涙だけは流していた。自分を助けてくれた美沙が狙われ、さらには隆までやられ、標的が赤城まで襲おうとしたのが彼女の目を覚まし、トリガーを弾いた。
その弾丸は頭部へと走っていく。銅像はこちらを向いていない。反応に間に合わないか気づいていないか。それが本当に幸運だった。
――そのはずだった。
「甘かったな。俺に物理攻撃は効くが、飛び道具は効かない」
右手で本を開き、顔面を隠しながらいった。加賀の時と同じ。弾丸は宙を舞い、向きを変える。弾丸の狙いは銅像から放った可憐へと向けた。そして――
『バンッ!!』
可憐に向けて放たれた。その速度は可憐の時の二倍の速度。弾丸の速さは秒速約三百三十三。その倍、秒速約六百六十三。その速度で可憐へと向かっていった。
可憐もわかっていた。飛び道具での攻撃が反射されることくらい。それでも仲間がやられるのは見ていられなかった。ほんの少しでもいいから時間を稼ぎたかった。
「うはっ……!! お前の攻撃が反射することはわかりきったことだろうが……」
バタンと倒れる音。倒れたのは可憐ではない。
「い、いやあああああああっ……!!」
隆だった。隆は最後の力を振り絞り、打ち砕かれているかもしれない背骨を無視して地面を蹴る勢いで自ら弾丸に飛び込んだ。弾丸は右肩に命中。
一度起き上がるのが奇跡の隆に命中なんてしたらもう隆は起き上がれないはず。
「お兄ちゃん……!! お兄ちゃん……!! 赤城ちゃん……! 離して……!! もういい……!! 私があの銅像をやっつける……!! 私がみんなを……!!」
「美沙さん、落ち着いて……!!」
怒りと悲しみで感情を忘れ、暴れだす美沙。それを必死で抑える赤城。赤城だって加賀の悲しみがまだ取れていない。それでも守るべきものは守らなければいけない。
「でも……!! このままじゃ可憐ちゃんも赤城ちゃんもやられちゃう……!! うううううっ……!!」
「東條隆はあなたに生きて欲しくて必死に奴に抗いました! ならばあなたは生きなければなりません! あなたはそれを託された! だからこそ、無駄死になんて悲しいことはやめてください!!」
「うううううっ……!!」
赤城の言葉にそれ以上は何も言わなかった。ただ腰を崩し、泣き続ける。見ていられなかった。
それは可憐も。
「あ、あんた……!! なんで私なんかを助けたのよ……!! 私はあんたを殺そうとしたのよ……! 何で命懸けで私を助けたのよ……! ねえ、しっかりしなさいよ……!」
必死に揺さぶる。しかし、隆の目は閉じていく一方。
「お前は僕を殺そうとなんて一度もしていない……本当は何か別の理由があるんだろ……僕はお前にとって大切な友……」
「うわあああああああっ……!!」
隆も動かなくなった。そんな隆の顔に可憐の大粒の涙が落ちていく。残された三人。もう何もできない。誰も対抗できない。地獄でしかなかった。
★東條隆 南館一階 玄関前
★江南美沙 南館一階 玄関前
★紫可憐 南館一階 玄関前
★東條シャルロット 南館一階 玄関前
★加賀 南館一階 玄関前
★昇龍妃 南館一階 玄関前
★赤城 南館一階 玄関前
★天空城空 南館一階 玄関前
★上条樹 南館一階 玄関前
七不思議怪異六つ解決(残り一つ)