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最後の七不思議怪異なんだが?

 一階の廊下を歩く銅像。大きなを引きずる音をたてながらその姿を表す。目線はずっと本を見ている。右足、左足、右足、左足。ゆっくりだけど銅でできた足を進める。


「二宮金次郎像……」


 二宮金次郎像はそこで止まった。隆たちがいるのは南玄関。その奥は下駄箱の奥。そのさらに奥の廊下に二宮金次郎像は立つ。そしてゆっくり、ゆっくりと顔だけをこちらに向ける。

 ぬるぬる動く体が気持ちが悪いとも感じられる。

 だって銅や鉄ってゴムみたいには簡単に曲がらないだろ。それがああもう簡単に顔を曲げるなんて。


「ひ、ふ、み、よ、いつ、む、な、や、ここ……全員揃ったな」


 九人一人一人の顔をを見ながら口をぬるぬる動かし喋る。人の皮膚のようにぬるぬる動き続ける口。今から何が始まるというのか。


「諸君、こんばんは。七不思議怪異二宮金次郎像だ。花子さん、人体模型、肖像画、鏡、階段、ピアノ。残ったのは俺だけか」


 聞けば聞くほどわかる低音ボイス。これまでやられた六名の名前を挙げる。全員はもうわかっている。こいつが七不思議怪異であり、最後の敵だと。すでに全員は警戒して二宮金次郎像を見る。

 今からの目線は誰でもない、全体という一点を見ている。


「俺の解決法はただ一つ。俺を倒せ。それだけだ。誰からでもいい。一斉にかかってきてもいい。全力でこい」


 喋り終わるまでは何もしてこないところが敵ながら少し紳士的に見える。全力でくるように言っている。しかし、誰一人として前には出ない。そう、この気迫。明らかに今までの六名とは違うのがわかる。

 七不思議の中で一番強いということは見ただけで誰もが頭によぎる。

 彼を除いては。


「ほらね、だから言っただろ。僕じゃないって」


 上条は両ポケットに手を突っ込みながら下駄箱を通って歩き出す。誰も動かない中、彼だけが動いた。


「上条、お前――」


「下がってな、レディたち。こんなやつ、僕一人で十分だ。今から見ることは他言無用で頼むよ」


 キザなセリフを言って下駄箱を通り過ぎる。二宮金次郎像の前に立つと、彼の顔もまた上条の方を向く。二人の一騎打ち。全員はさっきの上条で実力はわかっている。だから全員何も言わずに上条に任せた。


「お前に一つ聞きたい。今回みんなをここへ招いたのは誰だ。こんなことできるのなんて斬賀か龕您くらいか。もしくは篆か」


「答えるのは拒否させてもらおう。だが、玄橆。貴様だけには容赦をするなとの命令だ。悪く思うなよ」


「それが答えか。なら、今すぐここで果てろ……!!」


 そう言った途端、上条は二宮金次郎像を睨みつけながら左手を左に大きく伸ばした。その瞬間、上条の床から青色の巨大な魔法陣のようなものが書かれる。

 その周りにはあのよくわからない文字。インベスト語というやつだろうか。魔法陣からむくむくと姿を見せる巨大な機械たち。

 それを見ている全員は圧倒する。まるでファンタジーの中にいるような気分。やはり、普通の人間ではない。


 機械たち全てが出現する。一番端にある二つの高い機械。天井にまで届きそうなもの。自動標準で相手を狙い撃つ固定砲。

 さらには上条自身の背中にもいくつもの穴がある機械を背負う。数は六つ。狙いは二宮金次郎像。

 その左右に浮遊しているのは小型の機械。小型ではありながらも、約五センチものレーザーを射出することができる。


「未来兵器、武装。フルブラスターモード」


「ほう」


 僕らの驚きとは反対に、二宮金次郎像はかなり落ち着いていた。その二文字を冷静に語る。表情ひとつ変えず、余裕の顔をしている。銅像だから表情が変わらない可能性はあるが、それがまた不気味だった。


『システムオールグリーン。対象距離、およそ九メートル。出力、七十……八十……九十……』


 上条の後ろの機械から音声が流れる。距離を測り、カウントを開始している。それでもやつは動かない。ピクリともしない。ただ上条の顔一点を見つめる。


「ファイアッ!!」


 左手を広げて前に当て、そう叫んだ瞬間、全ての機械の銃口が光出す。その光は伸びていき、二宮金次郎像目掛けて直進していく。


『バババババンッ!! キュイイイイイインッ!! ドカーーーーーーーンッ!!』


 固定砲からはマシンガンのような光が連射され、上条の後ろの六つの穴と小型機械からはレーザーが発射される。銅像からは爆発を起こし、煙に姿を消す。その姿は煙に包まれていく。

 隆たちも爆風に巻き込まれ、前が見えなくなる。どうなったのか。倒したのだろうか。


 隆たちを巻く煙は去っていった。上条もだ。でもまだ銅像はまだ煙に包まれている。だから確認できない。


「どうなったの!?」


「あの攻撃にあの爆発。跡形もなく消えただろうな」


 普通の人間が受ければ微塵(みじん)も残らない攻撃。いくら銅像でも銅が溶けたような痕は残るだろうが、確実に壊れる。上条の放つレーザーは光熱の温度を放つ。焼けるような暑さを耐えられるはずはない。

 上条を含めた誰もがそれを確信していた。


「なん……だと……!?」


 上条の声。


「何よ、あれ……」


「そんな……」


 銅像に(かす)りもしなかった。傷一つない。何もなかったかのような姿。確かに全て命中している。上条は一発も外さなかった。それに加え、銅像は一歩も動いていない。妖精のように飛んで全て交わしたとか、透明になって弾丸を避けたとかそういう領域ではない。確実に受けている。それなのに、声ひとつ上げず、何も傷んでいない。


「対玄橆用プロセッサ搭載。エネルギー攻撃耐性9999(エンドレスナイン)。俺を倒すなら物理攻撃をお勧めするぞ」


「……っ!? くそっ……!?」


 銅像は爆速で上条の元へ走っていく。全てが銅でできている体はまるで、何も着ていないかのような身軽い素早さ。手を広げて振うが、右手に持つ本を離すことはない。その速さはかつて昇龍が戦った人体模型よりも格段に速い。あの人体模型はまさに、スポーツ選手のような速さ。だがこの銅像はそれを超えるサバンナに生息するチーターのような速さ。チーターの秒速は約三十メートル。

 いや、もしかするとそれすらも超える空を舞い上がるハヤブサのような速さなのかもしれない。ハヤブサはその三点八倍の秒速百八メートル。見つかれば逃げる間などない。

 銅像は左拳を固め、上条の顔面目掛けて振りかざす。


「うはあああっ!?」


 その瞬間、いつのまにか上条は吹き飛んでいった。速さは今銅像が走った速さに匹敵する速さ。ものすごい勢いで飛んでいき、来賓玄関のガラスに激突する。その大きな音はフロア中に響いた。


「上条っ……!?」


 それでもまだ立ち上がろうとする。今度は銅像はゆっくりゆっくり歩いていく。あれだけの速さを持つ銅像がただただゆっくり歩く。そして、倒れている上条の前に立つと右手に持っている本をゆっくり下に置いた。

 そして、右拳と左拳をものすごい速さで上条に何度もぶつける。


『ドドドドドドドドッ!!』


「上じょおおおおおおおっ……!!」


 僕が叫んでもその拳は止まない。何発も何発も銅の拳が振り下ろされる。鉄拳ならぬ、銅拳。岩よりも硬いもので殴られているようなもの。

 あれ? 銅像が殴りだしてから何秒経った?

 何であんなにもまだ音が聞こえるんだ?

 隆たちには壁が死角になって上条が見えないことが幸いだった。見えていたら誰もが絶望していたから。


『ドンッ!!』


 振りかざす拳の中で一番大きな音を立ててその拳は止まった。上条の声は聞こえない。立ちあがろうという音も聞こえない。聞こえるのはただ一つ。銅像がこちらに向かってから音のみ。



『ゴゴゴゴゴゴゴ……』



 死角から外れ、その姿を表す。右手には再び本。ゆっくりゆっくり歩く。しばらくすると止まり、またこちらに顔だけゆっくりと向ける。


「まずは一人撃破。残り八人。さあ、かかってこい」


 それは誰か一人に向けられた言葉ではなく、この場にいる九人……いや、八人にかけられた言葉だった。

★東條隆 南館一階 玄関前

★江南美沙 南館一階 玄関前

★紫可憐 南館一階 玄関前

★東條シャルロット 南館一階 玄関前

★加賀 南館一階 玄関前

★昇龍妃 南館一階 玄関前

★赤城 南館一階 玄関前

★天空城空 南館一階 玄関前

★上条樹(?) 南館一階 玄関前


七不思議怪異六つ解決(残り一つ)

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