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見たくないんだが?

 可憐は銃を上条に向けたまま下ろすことはない。上条もこの展開はやめていたかの(ごと)く、焦ることなくただただ可憐の目を見る。緊迫の雰囲気は(ただ)い続ける。


「まだあるわ! さっきの勾玉だってあらかじめ用意していたもの、音楽室から聞こえた爆発音や爆発だって、この時の茶番の一つなんじゃないの?」


「なるほど、そうきたか。それだけかい?」


 何を言われても落ち着いている上条。可憐が引き金一つ引けばその照準は上条の額に向いているため、撃ち抜くことは可能。


「音楽室にあなたが来なかったのだって、最後の七不思議怪異がいると見せかけ、それを探すためという口実を作るためなんじゃないの? 本当はいないんだもの。だってそれがあなたなんだから! そして私たち八人が集まるのをここで待っていた! どうかしら!!」


「へえ〜。君、結構賢いね。言い分はそれだけかな?」


 上条の表情は少し緩んだ。余裕を示す緩み。可憐の言っていることは何もかも筋が通っている。

 あの上条は本物なのか? 偽物なのか? 答えは二つに一つ。

 そんな時、上条は一瞬僕の方を向いく。

 そして(まばた)きをしながら小さく頷いた。その仕草は何を示しているかはわかる。「僕を信じろ」そう聞こえた。


「ええ、それだけよ。さあ、今私が言った全ての問いを正論で返してみなさい! 言い訳でもいいわ! それが無理ならあなたを撃つっ!!」


 可憐の両手が引き金に触れる。言い訳さえすれば助けるとも聞こえる。それもそうだ。容疑者を全て撃てば、それは魔女狩りと同じ。可憐はそんな真似はしないからチャンスを与えている。

 それでも何も答えない。上条はしばらくの沈黙。その間は誰も動かない。


「僕は死ぬわけにはいかないんだ。何が何でも生きなければいけない。その引き金を引かせるわけにはいかない。でもそれと同時に僕はその理由を全て答えない」


 その瞬間、上条の手からいつのまにか銃が出現する。青色のあの銃。あれは上条の得意とする武器。それを今この場で出した。

 銃口を可憐に向ける。それがどう言うことを示すのかわかるだろうか。

 可憐にとってそれは公務執行妨害。上条にとっては秘密を守り抜く行為。


「だから答えはノーだ!!」


 可憐は引き金を引こうとする。ここまで何も答えないのは敵だからという以外はない。何より、警察に銃を向けたのと同じ。対抗するしかない。

 しかし、目の前には上条はいなかった。残るのは青色の残像。そして可憐は気づく。


「……っ!?」


「僕、普通の人間じゃないんだよね」


 可憐の背後から銃口の圧を感じた。振り向かずともわかる。いつのまにか上条がいた。能力を使い、テレポートをしたのだ。普段は能力は一般人には見せない。

 でも上条は可憐に本気の殺意を感じた。今はそこまでしてでも生きなければならないのだ。

 可憐はその希薄(きはく)にやられて動けない。

 相手が七不思議怪異の一人とはいえ、人間の形をしていたから。そう思って油断していた。


「おっらあああああ!!」


 その瞬間、鉄でできた傘置きが上条の左方向から向かって飛んでくる。投げたのは加賀。上司の危機を助けようとしていた。

 上条は瞬時に振り向き、銃を挙げ、傘置きに標準を合わせる。そして、その引き金を何度も引いた。


『バババババババンッ!!』


 銃口から青色の光を何発も発射する。発射されるのは青色の高熱エネルギー性の弾丸。それが宙に浮いている鉄の傘置きに弾丸は全て命中し、ボコボコに凹んで地面に落ちようとしていた。


「ちっ!!」


 煙と同時に上条の顔は真剣なものとなる。


「てやっ!!」


 さらに赤城の攻撃が襲いかかる。空中に浮いた赤城は拳を固め、背後から上条目掛けてものすごい勢いで振り下ろす。赤城は足がかなり速い。だから流石の上条では間に合わない。だからこう言った。


「シールド展開」


 小さくそう呟くと、上条の背後から青色の謎の文字が浮かび上がる壁が立ち塞がる。赤城の拳はそれに衝突。シールドにはヒビ一つ入ることなく、その障壁を維持している。


「ぐうっ……!!」


 それが数秒間維持される。上条はその隙にゆっくりと右手をあげ、親指を鳴らした。


「あああっ……!!」


 バンッ!と上条の背後から音が鳴り、赤城は軽く吹き飛んだ。赤城が吹き飛んだあとは静かに障壁は消える。

 管理局トップの三人を一瞬にして圧倒させる上条。誰一人として動くことができなかった。


「僕は僕が生きるためなら何でもする。そして、守るべきもののためなら何でもする。わかってくれた?」


 上条の目は真剣そのもの。その瞳で圧倒させた三人を見る。恐ろしい気迫。三人も足も出ずにその場で動けずにいた。


「上条、あんた何者なんだ……」


 その場の全員が驚く。あの上条樹が能力者ということは僕がよく知っている。だが、他の人たちはそれを知らない。天空城たちは上条は四月にきた転校生としか思っていなかった。

 しかし、当の僕もまだ理解していない。だってあの上条だぞ。ただのクラスメイトで悪友だと思っていたあいつが能力者だなんて何回見ても理解できない。


「君たちの正義の意思に免じて教えてあげるよ。僕は七不思議怪異ではない」


「それを信じろですって? あんな人間離れした能力を見せつけられて?」


「じゃあ、人間の形した何かしらだと思ってくれていい。それなら問題ないだろ」


「もしそうだとしても、あなたは何かしら今回のことに関わってることは間違い無いのよ!」


 緊迫した会話を続ける二人。その二人の会話に耐えられない人物がいた。


「もうやめてくれっ!!」


「……っ!?」


「……」


 声を荒げたのは隆だった。


「僕にとってはどっちも大切な存在なんだ! 可憐は最初は悪いやつだと思ってたが、本当は仲間思いで正義感に溢れてるすげえいいやつだと思う! 上条は困った時には手を差し伸べてくれる、僕が心を一番許せる最高の友人だと思ってる! そんな二人が争い合うのはもう見たくないんだ……!!」


「隆……」


 必死だった。隆にとって二人はどちらも同じくらい大切な存在。その大切な二人が無駄に争うのは見たくない。

 上条はあえて理由を話していない。隠さないといけない何かしらの理由がある。それをわかっているのは隆だけ。この無駄な争いを止められるのは自分しかいない。


「上条。お前は話せない理由があるんだろ。それは言わなくていい。可憐。上条は本物だ。一番そばであいつのことを見てきた僕だからわかる」


 上条と可憐を交互に見る。隆にはその根拠があった。


「何より、最初僕らはバラバラでここにいた。もし僕らを襲うなら、バラバラになった状態で一人ずつ始末すればいい。でも、そうしなかった。それがこいつが本物だとわかる証明だ!」


 筋の通った理論。そう。今の上条ならこの中の全員を一人ずつ倒すことは容易。しかし、八人で束になって上条と戦えばそれはわからない。今ここで僕らを襲うといつのは得策ではない。

 そしてここに来るまで上条自ら攻撃はしてこなかった。だから上条は七不思議怪異ではない。


「そ、そうね。あなたの言い分も筋は通っている。だからもう攻撃はしないわ。でも、ごめんなさい。あなたのことはまだ信頼できない」


「それでいいよ。人間、百パーセント信頼していないくらいがちょうどいいさ」


 隆の言葉に二人は大人しくなる。みんなもほっと胸を撫で下ろす。これで二人が争うことはなくなった。しかし、だとしたら残りの七不思議怪異はどこにいるんだ――



『ゴゴゴゴゴゴゴ……』




「なんだ?」


 廊下から音が聞こえる。銅像を引きずるような音。おそらくそれは一階西渡り廊下から聞こえてくる。だんだんと近づいてくる。今ここには九人。ピアノが言っていた人数全員が揃っている。

 十人目がいる? いや、そんなはずはない。もしいるとしたら何でこんな音を立てる必要がある?


「どうやら来たようだね。本物の最後の七不思議怪異が」


 上条の言葉はどこか確信があるようだった。一同は音の鳴る方向を向く。もうその正体はすぐそこにいる。その気配は感じたことのなき人ならざるもの。おぞましきもの。

 今回の七不思議の幕を下ろすための存在。



 壁から姿が現れる。その正体は灰色の銅像。着物を着て背中にはまきのようなものを背負い、半ズボン。わらべを履いて歩いている。手に持つものは本。今の時代では時代劇や劇団でしかみないような独特な髷のような髪型。


 その姿はまさに、二宮金次郎像そのもの。

★東條隆 南館一階 玄関前

★江南美沙 南館一階 玄関前

★紫可憐 南館一階 玄関前

★東條シャルロット 南館一階 玄関前

★加賀 南館一階 玄関前

★昇龍妃 南館一階 玄関前

★赤城 南館一階 玄関前

★天空城空 南館一階 玄関前

★上条樹(?) 南館一階 玄関前


七不思議怪異六つ解決(残り一つ)

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