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ついに言うんだが?

 張り詰めた空気はその場を(ただよ)う。全員の視線が加賀に集まる。「何でも」。その言葉は本当に何でも。例え可憐が「この場にいる私たち以外を殺害しろ」などと言ってもそれをすぐに遂行(すいこう)するかもしれない。

 加賀や赤城は確かに正義を愛する一人。でもそれ以上に正義を愛しているのは可憐。可憐の判断は絶対であり、間違えない。その可憐が正しいと思って言うことは全て実行する。方位磁針は磁石が少しでも触れればそれは狂う。

 しかし、可憐は何にも揺らぐことはない絶対的な正義なら意思を持っている。可憐はいわば、磁石が触れられても狂わない、絶対的な方位磁針のようなものなのだ。

 それが紫可憐という存在であり、それについてくるのが加賀や赤城たちなのだ。


「っとまあ、難しい話はここまでにしてっと! 可憐、まだ気づかないの?」


 加賀はまた笑顔になり、両手で手を合わせて首を傾げる。


「な、何がよ」


「じゃあ、東條隆。あんたは本当は気づいてるんでしょ〜。んっ」


 加賀は自分の右腕を左手でポンポンと二回軽く叩く。顔は……ニヤニヤしていた。赤城はその顔をジト目で見る。これは絶対に何かを企んでいる顔だということが一瞬で察することができた。

 この顔をするときはいつだってそう。何か良からぬ引き金を引くときの顔なのだ。それを赤城は何度も見てきて巻き込まれたのだから。


「なっ……!!」


 そして隆も気づく。隆の顔は赤くなり、息を呑む。


「な、何よ加賀。何が言いたいの」


「さあにえ〜。そこの抱きついてる人にでも聞いてみれば〜」


「ねえ、あなた加賀の言ってることわかるの? 教えなさいよ。ねえ! ねえ!」


 腕にしがみつきながら隆を激しく揺さぶる。可憐の体は隆に密着し、可憐が揺れるたびに大きな胸が強さを変えてぶつかる。何度も言うが可憐はこのことを意識していない。しかし、それを隆は言うわけにはいかない。言えることなら言いたい。だがもし言った場合、五分後隆は原型をとどめていない。


「さ、さあな……ぼ、僕にもなんのことを言ってるのかさっぱりだなあ……」


「嘘! 絶対嘘! あなた何か知ってる! 教えなさいってばあああっ!!」


「い、言えるかあああ!!」


 隆が応えるのを拒否するたびにその揺さぶりは強くなる。柔らかく温かい感触がもう覚えてしまいそうなくらいに何度も何度も押しつけられる。

 しかし、シャルロット、美沙、昇龍、天空城は隆の行動をなぜか不満に思っていた。

 そんな二人のやりとりを見て加賀はニヤニヤと笑いを止めない。


「おい、加賀! お前こいつの部下なんだろ! なんとかしてくれ!」


 そう言うと加賀は顎に指を当て、横目を向き考え始める。笑いよりもニコッという愛嬌(あいきょう)のある顔に変わった。それを見て隆は安堵する。


「まあそうだね。可憐は私らの上司なわけだし、」


「加賀……」


 その言葉を聞いて隆の顔は晴れやかになる。まだ腕では可憐が揺れているが。

 でも、それももう終わる。加賀がなんとかしてくれるみたいだし。

 加賀がこんなことを言わなければこうはならなかったが、その落とし前をつけてくれるのだろう。あれでも根はいいやつだし。


「可憐」


「なに!? 教えてくれるの!?」


 可憐は無邪気な顔でパッと加賀のいる方向を振り向く。目も輝いている。それはまるで、子供がおねだりしてほしかったおもちゃを買ってもらえると言われたような顔だった。


「うん」


「……え? ちょ、おま――」


「可憐のおっぱいが……東條隆の体にずっと当たってまあああああああすっ!!」


「あ……あ……あ……」


 最悪だった。言葉を発することもできなくなった。

 今まで隆があえて封じてきたその言葉をなんの躊躇(ためら)いもないどころか大声で発する。

 隆は声にならない叫びをただ繰り返すばかり。可憐は?


「な、何言ってるの加賀! いい加減にしないと怒るわよ!!」


「ま〜だ気づかないとかどれだけ天然なんだ、可憐。自分のお胸を見てみなさいな。それは今、どこに触れていて?」


「え? む、胸……?――ッ!? きゃーーーーー!!」


「うはっ……!!」


 バチン!! 顔を強力な平手打ちで叩かれ、思いっきり隆は吹き飛ぶ。それは二回目ではあるが、一回目の時よりも何倍も何倍も痛い。

 別に隆も悪気があって言わなかったわけではない。もし、隆以外の男子ならそういうのが目的で言わないというのがほとんどだが、隆はこうなることを恐れて言わなかったのだ。


「最低最低最低っ!! 変態変態変態っ!!」


「な、なんで……僕が……」


 そのまま隆は起き上がることができなかった。しかし、加賀の悪戯はいつだってこんな優しいものだはない。良心も悪気もない。ただの気まぐれな悪戯。


「でもよく考えてみてよ。何で東條隆は言わなかったと思う?」


「そんなの知らないわよっ!! どうせけしからん理由なんでしょっ!!」


「そう、それはけしからん理由っ! 東條隆は可憐のふにっふにでむにっむになでマシュマロのように柔らかい巨乳がたまらなくて、「この巨乳を俺の腕から離したくねえ……」って思ったから言わなかったんだよ!」


 加賀は隆を思いっきり指を差す。まるで、推理小説などで容疑者が客間に集められ、探偵が容疑者の中から一人犯人を指さすような差す方。そしてあの、決まったような顔つき。

 犯人は誰かのフーダニット。どうやって犯行を成し遂げたかのハウダニット。それを今、探偵は明かした。


「そしてそして〜、可憐は今パジャマ! パジャマの下におブラは付けてる〜? ノンノン、可憐は付けてませーん! ということは、直にたわわな胸を堪能できたということ!」


 吹き飛んだ隆に大きな足音を立てて無言で近づく可憐。ここまで来ると隆は可哀想だが、これもまた運命。


「ち、違うんだ……! 話せばわかる……! 話せば……! だ、誰か助けてくれ!!」


 他の四人を見るが、視線がどうにも冷たかった。


「隆さんがそんな人だなんて知りませんでした」


「お兄ちゃん最低」


「本物のキモオタだったのか……」


「不潔不潔不潔。汚らわしい汚らわしい汚らわしい」


 四人の視線が刺さる。四人は加賀を信じた。加賀の読み聞かせのようなうまい言い方はますます信憑性(しんぴょうせい)を増していく。こうなれば赤城が割り込む余地もない。そのため、ただただ目を(つむ)った。

 冷や汗をかきながら音楽室から後ずさろうとする隆。起き上がるにも腰が言うことを聞かず、立ち上がることもできないため、ただただ後ろにバック。

 逃げろ、隆。今の可憐な攻撃を受ければお前は――


「や、やめろ……やめてくれ……わ、悪かったよ、可憐……で、でも僕は――」


「でもね、そんなに東條隆を責めないであげて可憐。思春期の彼にだってそういう気持ちがあってもおかしくないはずなんだからさ」


「正義執行……正義執行……くたばりなさああああああいっ!!」


 なぜ犯行に及んだかのホワイダニットは可憐にとっては不要なものだった。ボコボコボコボコっ!! 目にも止まらぬ速さで可憐の繰り出すインファイト。一秒間に約九回もの拳が降り注ぐ。何より彼女はあの、人類最強と名高い正義の少女。鍛えられた身体と正義の意思を拳に溜め込み放てばタダじゃ済まないだろう。


「加賀。あなた東條隆がああなることをわかってて言ったのでは」


「さあにえ〜。何のことかにえ〜。にっひひひひひひひっ!!」


「おっらあああああああっ……!!」


 拳の速度もかなり速い。最初こそ隆は騒いでいたが、もう何も言わなくなった。

 赤城は目を開き、殴る可憐と殴られる隆を見て真顔で言った。

 加賀はまた笑い出す。今度は特大満面の笑み。赤城は()りない人だと心でつぶやいてから、大きくため息をついたのであった。

★東條隆 南館四階 音楽室

★江南美沙 南館四階 音楽室

★紫可憐 南館四階 音楽室

★東條シャルロット 南館四階 音楽室

★加賀 南館四階 音楽室

★昇龍妃 南館四階 音楽室

★赤城 南館四階 音楽室

★天空城空 南館四階 音楽室


??? 不明


七不思議怪異五つ解決(残り二つ)


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